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生アーサー

その後もレオの時間が空く時に王宮に招かれて何度か二人で過ごした(と言ってもほとんどが図書室で本を読むだけだったけど)。

 

 その日もいつものように私が本を読んでて分からないところを聞いていたら、レオが少し考え込んだ後提案をしてきた。


「ねえ、ディア。君が良かったらの話なんだけど、ディアも私と一緒にマクスウェル先生について勉強をしてみないかい?」


「マクスウェル先生って王族の子供達専門に教えている先生でしょう?やめておくわ、私が教わって良い先生じゃないもの。私はただのしがない侯爵令嬢だから」


「我が国筆頭の侯爵令嬢をしがないっていうのかな?そんなに身構えることないよ。たまにアーサーも一緒に勉強しているし」

 その言葉に耳がビクッと反応する。


「アーサーってあのアーサー=シモンズ!?騎士団長の息子の!!??」


 図書室で思わず大声を出してしまう。

 レオにそっと唇を人差し指で押さえられ、


「図書室では静かにしようね、ディア」

 とほほ笑まれてしまった。うぅ、10歳でその色気はなんですか?


「ごめんなさい」

 レオの指に押さえられながら謝罪するとやっと手を離してくれた。


「アーサーを知っているの?ディア」

「あ、噂で」

 嘘です。本当はゲームで一押しキャラでした。


「そう。アーサーはいつも私といるから女の子の噂になることも多いかもしれないね。アーサーは騎士団長の息子というのもあって本人も騎士を目指しているんだけど、剣術ばかりで勉強がおろそかになっているから困ると彼の父親から頼まれてね、たまに私と一緒に勉強しているんだよ」

 だから特別な話じゃないよと念押しされる。


 そこまで言われたら断れるわけないでしょう。


 だって生アーサーですよ、しかもちびっこい頃の。やだぁ想像しただけで涎出ちゃう。

 好きだった人の子供の頃が見れるなんて、なんて幸運。転生万歳!

 神様ありがとう。



 

 アーサーとの勉強会(いつのまにやらクラウディアの頭の中ではレオとの勉強会ではなくなっている)は3日後になった。

 その日私はいつも以上に念入りにお洒落して王宮へ向かった。


 生アーサー♪


 生アーサー♪


 頭の中はそれ一色である。


 待ちきれなくて早めに館を出たので、いつもより早く王宮に着いた。私の到着を知らされたレオがいつものように私を出迎えてくれた。


「いらっしゃい、ディア」

「お招きありがとう。レオ」

 

 レオの差し出す手に自分の手を乗せると、レオが私の首筋に顔を近づけてきた。

「な、何?」


「あ、ごめん。何かディアから良い香りがしたから、つい」

 目ざとい。いや、鼻ざとい?


 実はお母様におねだりして一番軽めのにおいの香水をちょこっとだけ首筋にかけてもらったのだ。

 

 普段香水が苦手な私は全くつけないのだが、これも乙女心。

 アーサーに少しでも良い印象を与えたかったのだ。


「それにいつもより髪も綺麗だね」

 それはもうマリーに念入りに念入りにブラシを梳かしてもらいましたからね。


「見たことない髪飾りだし」

 おニューです。


「そのドレスも新作かな?」

 ぎくっ!!!

 実は次回ウェイリー伯爵の所のお茶会で着る予定だったドレスを着てきちゃいました。


「変?」

 色々指摘されてなんだかいたたまれなくなる。


「いや、とても似合ってる。可愛いよ」

 こういうセリフをサラって言えちゃうのが王子様だよね。


 でも変じゃないと言われてホッとする。


「良かった」

 

 アーサーに少しでも可愛いって思われたいもんね。

 いつもとは違う道を案内されながら、私の頭の中はアーサーのことで一杯だった。

 だからレオが「失敗だったかな」と呟いたことに気付かなかった。


 勉強部屋に入った時すでにアーサーがいた。

 アーサーは複数机が並べられている1つに座り、ふてくされたように頬杖をついて窓の外を見ていた。


「待たせたなアーサー」

 レオが私を連れて部屋に入ると、アーサーは顔を外から私たちの方に向けた。


 黒髪が風に揺れて目の周りにくるのを軽く目を細めて手でどける。黒くて切れ長の瞳が真っ直ぐに私を見た。


「!!!」

 

 鼻血が出るかと思った!!!!

 

 ヤバい、ヤバいでしょう、コレ。


 生アーサー子供バージョン!!!


 ゲームのアーサーの甘い低音ボイスを思い出す。

 ああ、早く声も聴きたい。

 願いがかなって、アーサーは私が挨拶をする前に口を開いた。


「おっせーよ、俺にあんだけ早く来させておいて、なんでこいつはこんなに遅いんだよ」


「・・・」  

 うん、そうだよね。まだ10歳の子供だもんね、あの腰に来る魅惑の低音ボイスはまだだよね。

 ソプラノアーサーも可愛くていい。


「君を早く呼んだのはそうでもしないと君がすぐどこかに行っちゃうからだろう。来いといってちゃんと来るような性格だったらこんなことしないよ。そんなことよりもちゃんとこっちに来て挨拶をしてくれ。こちらはエストラル侯爵のご息女クラウディア嬢だ」


 レオに紹介されてスカートを摘まむ。


「クラウディア=エストラルです。初めまして」


 カーテシーも綺麗に出来たと思う。


「アーサー=シモンズだ」


 いかにもやる気なくぶっきらぼうに挨拶されるが、それも良い!ファンですから。


 ゲームではアーサールートに入るとヒロインが悪者に攫われ、騎士団に入っていたアーサーが助けに来るというイベントがある。

 騎士団の黒銀の制服をまとい長い裾を翻しながら悪者と戦うシーンがとても格好良くて、そのシーンを見たいがために何度もロードしてそこばかりやっていた。


 あの長身細マッチョのアーサーが今はこんなに小さいなんて。かぁわいい。


 どんなにアーサーに不愛想にされようともゲームのアーサーを思い出してしまうので私はめげない。

 むしろ萌える。

 ゲームのアーサーも最初はすっごく不愛想だったし、リアルでアーサーを攻略してる気分。


 ついでにマクスウェル先生の講義もとても楽しかった。

 今まで知らなかったこの国の歴史や本を読んで疑問に思っていたことも、先生に質問して謎が解けた。 

 非常に熱心に授業を受けたので、マクスウェル先生にも優秀だと褒められた。エッヘン。


 でもアーサーは講義の最中もチラチラと外を見て、何度か先生に怒られていた。

 窓の外に何があるのか気になって授業が終わった後窓の外を見たら、近衛騎士の練習場が遠くに見えた。


「剣術の練習がしたいの?」

 私が尋ねるとアーサーは私を見てフンっと無視をした。


 即座にレオに頭を叩かれてアーサーが沈没する。


「いってぇなぁ、何すんだよ、レオ!」


 ガバッと起き上がってレオに文句を言う。が、レオは気にしない。


「ディアの質問を無視するのが悪い」


「女に話して何が分かるって言うんだよ。女なんかドレスと恋愛話しかできないじゃねーか」


「ディアは違う。少なくともさっきの授業ではアーサーよりも優秀だっただろう」

 んぐっとアーサーは言葉を詰まらせる。

 私もアーサーがさっきの授業で欠伸をこらえてたのを何度か見た。可愛かったけど。


「俺は良いんだよ、騎士になるんだから。大体騎士になるのになんで算術だの地理だの歴史だの勉強しなきゃいけないんだよ。騎士は強ければいいんだよ」


「それは、違うでしょう」

 思わず否定してしまった。 


「は?剣術のこと何も知らない女が口を出すなよ」


「だってあなたがあまりにも無知だから。一人一人が強くても指揮官がバカだったら負けるのが戦争でしょ」


「俺が馬鹿だって言いたいのか?女ごときが。いいさ、そこまでいうなら勝負しようじゃないか。レオ戦技盤出してくれ」


「おい、アーサーいい加減にしろよ」

 

 レオが怒って止めようとするが、私がそれを遮った。

 アーサーにはゲームのように立派な騎士になってもらいたい。

 ただの脳筋になられたら原作ファンとして哀しい。


 私とアーサーの譲らない意思を感じ、レオは自室から戦技盤を持ってきた。

 

 戦技盤とはこの世界の子供が遊ぶ戦争ゲームだ。自分の駒を使って戦場のマスを交互に動かして敵将の首を取る簡単なゲームなのだが、自分で好きな場所に陣地を構えることができる。

 通常なら中央の平地にお互い対称に陣営を組み、それぞれ得意な型で戦うのが定石だった。


 アーサーの陣形は正三角形のくさび型陣形。


 戦況に合わせて縦型にも横型にも変形できるバランスの取れた陣形。

 相手に合わせて中央突破も出来るし、後ろの陣を広げれば包囲も出来る。


 だがそれは通常であればだ。

 

 アーサーは私が配置した駒を見てあざ笑った。


「なんだこれ、鶴翼の陣のつもりか?やっぱり素人だな。バラバラに置いて俺を包囲しようって魂胆だろうけど、そんなの俺には通用しないぜ。包囲される前に各個撃破してやる」


「そう?じゃあやってみましょ」


 ハンデをやると言われて、私が先制になった。


 私はまともに戦おうとせずちょっと戦うと逃げ、逃げながら戦いアーサーの軍をある一点まで誘導した。

 アーサーは私を追い込んでいるつもりでどこまでもついてきた。


 私はアーサーの軍を左端にある山々に誘い込み、道幅が狭く一列に並ばなければならなくなったところで、両端に控えておいた遊軍を使って挟み撃ちにした。

 退避したくとも奥まで誘い込まれた軍は中々戻れない。


 そこで右端に配置していた遊軍を敵陣営の背後に回り込ませ、敵将を打ち取った。


「そんな、バカな」


 最初は余裕だったアーサーの顔が試合が進むにつれだんだん悪くなって最後は真っ青になってしまった。


 きっと同年代の子供の中では無敵だったのだろう。

 アーサーはキッと私を睨んで指差した。


「汚いぞ、まともに戦わずに逃げてばっかで卑怯な手を使って。そんなんで勝って嬉しいのかよ!」


「嬉しいですよ、当たり前じゃないですか」


 私の答えに怒るアーサー。


「騎士っていうのは正々堂々戦うものなんだ、お前のは騎士道に反するやり方だ!」


「私騎士じゃありませんし」

 何言われても気にしません。レオがぷっと吹き出し、アーサーは怒りで顔が真っ赤である。


「それに、本番で敵がアーサーのいう騎士道を守って戦ってくれるとでもいうんですか?山地は避けて平地で正々堂々の力比べとか。それってどんな武芸大会?実際の戦争に綺麗も汚いもないでしょう。相手と自分との戦力差を見極めて地形を最大限利用して一人でも多くの味方の命を守って勝つのが上に立つものの役目でしょう。算術や歴史や地理をバカにしてるから、こうして何も知らない女に負けるんですよ」


 煽れるだけ煽ってやる。

 だってアーサーは将来騎士団を率いる立場になるのだ。このまま脳筋で良いわけがない。

 ここがゲーム通りの世界なら、将来アーサーは頭が良くて決断力が早くて素晴らしい騎士になるはずだ。


 アーサーは私に煽られてぎゅうっと両手を握りしめると、右手を振り上げた。

 殴られる!

 

 私が目を瞑って身構えると、「「ボカカッ」」と痛い音がした。

ブックマーク登録や評価をしてくださった皆様ありがとうございます。(*^_^*)


嬉しいです。♪♪ (V)o¥o(V) ♪♪

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