カーラ帝国皇太子クリストフ
「あらあらまあまあ、クリストフ皇太子殿下。ようこそ我が家の夜会にお越しいただきました」
ガブリエーレ夫人が大きなお胸とお腹を揺すって皇太子の前にやってくる。
「こちらは我が父の客人であるインディア国のクラウディア=エストラル侯爵令嬢ですのよ。とてもお綺麗な方でしょう?」
「クラウディア=エストラルです。皇太子殿下にお目に掛かれて光栄です」
カーテシーを決めて起き上がるが、皇太子殿下はジッと私を見下ろすだけだった。
え、なんで無言で見つめられてるの?
「そうか、そなたがインディア国のクラウディア嬢か。なるほど聞いた通り外見は誰よりも美しいな。レナーテよりも綺麗な女性が存在するとは正直思ってもみなかったが、そこも予言通りという事か。いいだろう、気に入った。余はクリストフ=クレーメンス=グレネマイアー。この国の皇太子だ。末永く宜しく頼む。明日余が宮殿を案内してやろう。侯爵の屋敷には使いをやるから明日から宮殿に住むが良い」
へ?え?何?
何やらいきなり現れた皇太子様が訳の分からないことを言ってきた。
説明を受けたくても肝心のガブリエーレ様が「んまぁ、とうとうなのね!」と興奮して騒いでいる為他に聞ける人がいない。
しかもその言葉を聞いた途端、私の周囲にいた男性陣が潮が引いたように去って行った。
え、あの、何が起こったの?なぜ皆私から離れていくの?
クリストフ殿下が私の手を取って口づける。
「意味が分からぬか。余はそなたに婚約を申し込んでいるのだ」
は!?
なんでろくに会話もしていない初対面でプロポーズされないといけないの?しかもこの国の皇太子殿下に!?
頭の中で鐘を鳴らしながら飛び回るお母様とマリーの姿が浮かぶ。
「流石私の娘!」「やりましたね、お嬢様~」
なんだか幻聴まで聞こえるようだ。
ブンブンと頭を振る。
いやいやいやいや、ないからそんなシンデレラストーリー。
絶対裏があるに決まってる。
「失礼。クリストフ皇太子殿下とお見受けいたします」
レオが私と皇太子殿下の間に割って入ってきた。
「そち達は?」
アーサーもいつの間にかやってきて、私を自分の背の後ろに隠した。
「私達は彼女の護衛として一緒にインディア王国からやってまいりました。私はルーカス、こちらはアーサーと申します。以後お見知りおきを」
初対面の相手にフルネームで名乗らないなんてレオにしては珍しく無礼な事をしている。
ワザとだと言う事はレオの背中から醸し出る不穏な空気からも分かる。ついでにアーサーの背中もピリピリしている。
「我々を無視してクラウディア嬢を口説き落とすような真似は御止し下さい。我々はインディア国王太子殿下よりクラウディア嬢を守る様厳命されております」
いるけどね、そこに本人が。
「ふん、そち達が何をどうしようがこれはすでに決められていることだ。クラウディア嬢を一人で寄越すのが心配だと言うのであれば、そち達も一緒に来ればよかろう。ついでに王太子への手紙にはクラウディア嬢と余の婚約が決まったとでも報告しておけ」
「妄言を報告すれば首が飛びますので遠慮しておきます」
レオの冷たい瞳をものともせず、鼻を鳴らして皇太子殿下は去って行った。
凄いわ、威圧と存在感でレオとタメを張る人初めて見た。
さすが大帝国の皇太子と言った所ね。
言ってることは滅茶苦茶だったけど。だって私OKしてないからね!
◆
イングラム侯爵の屋敷に戻り、マリーに今日起きたことを報告したら、私の髪を梳かしてくれていた櫛をボトッと落とした。
「マリー?」
後ろを振り返ると、マリーが手で口を押さえ涙を流していた。
「さすが、私のお嬢様です。まさか初日で皇太子殿下と言う大物を釣り上げてくるなんて。奥様がどんなにお喜びになるか。我々も頑張ったかいがありました」
じーんと感動しているところ悪いんだけどねマリー。ないから、それ。
絵本の物語じゃあるまいし、一目惚れされて皇太子殿下のお嫁さんになるなんて現実にはありえないから。絶対何か別の事情があるはずよ。
そう言えばあの殿下おかしなこと言っていた。予言がどうのとか。
神殿が他の婚約者候補を認めないのもその辺りに理由がありそうだ。
レオにはクリストフ殿下には指一本触れさせはしないから、帝国の裏が分かるまで暫く大人しくしていてくれと言われたけれど、これは私の問題だものレオが解決するまでジッとなんかしてられないわ。
虎児を得る為に虎穴に手どころか頭まで突っ込むのが私よ!
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ゴールテープが遠くにうっすら見えてきた様な感じです。




