カーラ帝国入国
レオやアーサーは護衛だから騎馬で。私とマリーと神馬はそのまま馬車に乗ってカーラ帝国に入った。
当然検問があったけれど、お世話になるイングラム侯爵の紹介状を見せたら何も怪しまれずすんなり通してくれた。
カーラ帝国は一言でいうと極彩色豊かな国だった。華やかで大ぶりな花々が街のあちこちに飾られて、柱や壁の一部が黄色やオレンジといった色に塗られて眼にも鮮やかな街並みになっている。
帝都に近づけば近づくほど市場も豊富になり、街も活気に満ち溢れていた。
「凄いわね」
インディア国とて決して小さな国ではない。でも、単純に領土の対比で言えばカーラ帝国の方が遥かに大きいだろう。
帝都に行く途中の街で宿を取り、休憩ついでにレオとアーサーと三人で散歩をしながら街の感想を言うと、レオが斜め上方向の感想を寄越してきた。
「そうだね。これだけ領土が広いと1か所から攻めても簡単には落ちなそうだし、街も土壁の家が多いから火攻めの効果も薄そうだね。その分投擲が有利かな。でも完全勝利を狙うならやはり内部崩壊と他国との連携が必要になるかな」
まだ敵になると決まったわけじゃないのに、レオの頭の中でカーラ帝国との戦いのシミュレーションが出来つつある。
護衛で来てるから仕方ないとはいえ、アーサーも鋭い目つきで周囲を警戒している。
なんか、もっと単純に旅行気分を味わいたいな。
無粋な男二人の腕を取って両手に花の気分を味わう。
しかもこの花はどっちも極上よ。
「わっ」
「なんだ!」
いきなり私に腕を組まれて二人は驚いて身を反らした。でも私は離すものかとギュッと腕に力を込めた。
「折角旅行に来たんだもの。難しい顔してないでもっと楽しみましょうよ。ほら、あっちに美味しそうなお肉が焼けてるわよ」
「お前の楽しみはいつだって食べ物がらみだな」
いいでしょー、美味しいものは人を幸せにする力があるんだから。
それに腹が減っては戦は出来ぬって言うでしょ。
「おじさん、お肉3つお願い!」
「あいよ」
勝手に注文したけれど、レオもアーサーも文句は言わなかった。
食べる為に腕を組んでいるのを外そうとしたら、アーサーが「ほら」と言って私の口にお肉を差し出してきた。
美味しそうな匂いにつられてパクリと食べたら、レオまで私の口にお肉を差し出してきた。
訳が分からないけれど同じようにパクリと食べたら二人とも私から顔をそむけて震えていた。
むっ、二人とも私のこと子供扱いして笑ってるんでしょ。いいわよ、全部食べちゃうんだから。
パクパクパクパクと続けざまに二人のお肉を平らげた。
「あ、俺たちの分が!」
ふふーんだ。バカにした罰よ。
「太るぞ」
次いで自分の分のお肉も食べようと口を開けたら、ぽそりとアーサーが呟いた。
うっ。
仕方ない。帝国では夜会もある。どのドレスも体にフィットした物ばかりだから太って入らないなんてことになったらマリーとお母様が怖い。
渋々アーサーの口の前に肉の刺さった串を差し出した。
「えっ、お前それは・・・」
アーサーがたじろいだ。
何よ、いらないの?
じゃあレオにと串を移動させようとしたら、ガシッと手を掴まれた。
「いる」
なんだ、やっぱりアーサーもお腹空いてるんじゃない。
はいっと串を差し出すと、アーサーが大きな口で一番上のお肉の塊を食べた。
口の端に肉のタレが付いて気付いたアーサーがペロッと舌で舐めた。
ドッキューン!
ヤバい。男の色気がダダ漏れしてる。
舌がエロい~~~。
思わずポ~とアーサーを見つめていたら、串を持っている手が引かれて目の前にレオの頭が現れた。
パクリとレオも肉を食べた。
「美味しいね」
レオがほほ笑む。
でしょう!外で食べると美味しさが倍になるわよね!
レオは口にタレが付かず綺麗に食べていた。さすが。
私?もちろん口に付いていてアーサーに親指で拭われたわよ。
淑女なのにレオに負けちゃった。ショボーン。
しかもお肉を2人前食べたせいで宿の美味しいお夕飯があまり食べられなかった。
神馬が私の代わりに喜んで食べていたけれど、失敗したなぁ美味しそうだったのにあの肉のパイ包み。
次街に出かける時は食べ物はそこそこにしようと誓った。
途中途中休憩を挟みながらようやく帝都に着いた。
帝都は周辺の町並みとはレベルが違った。
まず大きい。
遠目からでも重厚な帝都の城が見えるし、土壁だらけだった庶民の家々とは異なって、貴族の家は石造りの館がほとんどだった。
それでも帝都のカラーらしく極彩色の花々が到る所で飾られていた。
道行く人にイングラム侯爵の家を訪ねてようやくたどり着いた。
門番に紹介状を見せて案内を待つ。
しばらくすると許可が下りて屋敷内に入ることが出来た。
部屋に案内されて休んでいると、執事に呼ばれ私とレオとアーサーがイングラム侯爵に挨拶に行くこととなった。
初めて見たイングラム侯爵は背が低く丸々と太っていた。
「おお、そなたがウィルフレッドの孫娘か。あいつめ、美人な嫁さん貰ったな。こんな綺麗な孫娘がいるとは本当に昔から抜け目のない奴よ」
カーテシーを決めてほほ笑む。
「お初にお目に掛かります。クラウディア=エストラルです。クラウディアとお呼び下さい。この度は私達の滞在を快くご了承頂きまして誠にありがとうございます。この二人は私の護衛として付いて来てくれました。ルーカス=サンドフォードとアーサー=シモンズです」
「ルーカス=サンドフォードです」
「アーサー=シモンズです」
二人とも胸に手を置き頭を下げる。
「うんうん、3人とも帝国語が話せるようでなにより。ここでは気楽に過ごしてもらって構わん。何かあったらすぐワシに言うように。帝国内での3人の身の安全はワシがしっかり保障するぞ」
「ありがとうございます。寛大なるお言葉に感謝いたします」
「なに、これでウィルフレッドの奴に貸しが作れるのなら安いものよ」
フハハハハとイングラム侯爵は高笑いする。
どうやらお爺様と昔何かあったようだ。
「では、次はこちらが紹介しよう。孫息子のグスタフだ。普段はここに住んではいないが、丁度クラウディア嬢と年が近いので話し相手に良いだろうと呼んでおいた」
イングラム侯爵の隣に立っていた男の子はどうやらイングラム侯爵のお孫さんらしい。
侯爵そっくりで背が低く丸々と太っていた。
「ほれ、さっさと挨拶せんか」
イングラム侯爵に促されてはっとしてグスタフは慌てて挨拶をした。
「グスタフ=ベーメです。どうぞよろしく」
おずおずと頭を下げてイングラム侯爵に頭を叩かれる。
「なんだ、その挨拶は。もっとカーラ帝国男子らしくビシッと挨拶せんか。すまんのぅ、クラウディア嬢が余りに美しいので驚いてしまったようだ」
「まあ、そんな」
ほほほと笑って誤魔化したけれど、ハキハキ系の侯爵と違いお孫さんはシャイっぽかった。
「疲れているだろうから、本日の夕食は部屋に運ばせよう。明日から一緒に食事をすることを楽しみにしているぞ。何せ妻が死んでから毎日ワシ一人の食事だったものでな、大勢で食事が出来るのを楽しみにしていたのだよ」
「まあ、それでは今日からでもご一緒に」
「いや、それには及ばん。疲れている若者を無理に老人に付き合わせるほど落ちぶれてはおらん。明日からで十分だ」
「お心遣い感謝いたしますわ」
お礼を言って部屋から去る。
中々懐の大きい御仁のようだ。
パタンとドアが閉まるとすぐに、グスタフの興奮した声が漏れてきた。
「お爺様、凄いですね!インディア王国の貴族は皆あんなに美形ばかりなんでしょうか。三人とも全く違った美形で誰を見て良いのかすごく迷いましたよ」
「馬鹿、そこはクラウディア嬢一択だろうが」
「いや、もちろんそうなんですが、ルーカスさんのキラキラ具合やアーサーさんの野性味あふれた魅力からも目が離せなくて。三人揃うと美形パワーがもの凄いですよ。この夏はカーラ帝国の夜会は凄いことになりますよ。ああ、楽しみだなぁ」
「お前は何故そう客観的に見ているのだ。クラウディア嬢がワシの屋敷に滞在していることは他の者より大きなポイントなのだぞ。何の為にお前をワシの屋敷に呼び寄せたと思っている。クラウディア嬢がワシの屋敷に滞在している間に頑張って口説き落とせ」
「ええー無理ですよ。僕なんか相手にしてもらえるわけないじゃないですか。お爺様孫馬鹿もほどほどにした方が良いですよ。メガネお作りしましょうか?」
「最初から諦める奴がどこにいるっ!全くお前の弱腰は父親譲りだな。ガブリエーレもなんであんな男を好きになったのかワシには理解できん」
「お爺様と正反対の人が良かったらしいですよ」
「ワシのせいだと言うのかっ!」
「まあまあ、怒鳴るとまた血が上ってぶっ倒れてしまいますよ」
「お前のせいだろうがー!」
ドアが閉まってもばっちり聞こえてしまった爺孫の会話に三人とも何も言えず沈黙した。
執事さんも恥ずかしそうに立っている。
「お耳汚ししてしまい申し訳ありません」
「あ、いえ。仲が良さそうで何よりです」
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