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ルーカスの正体

「ああ、お嬢様。丁度王宮からの護衛の方と引き継ぎを終えたところです。これで我々は王都に戻ります」

「今までありがとうございましたハンク隊長。皆様のおかげでとても楽しい旅でしたわ」

 隊長から差し出された手を握り返しながら、お礼を言う。


「なんの、こちらも姫のような美しい方の護衛は大変光栄でした。次またご利用の際はうちのパーティをご指名ください。姫の為でしたら命を懸けてお守りいたしますよ」

「まあ、ありがとうございます」

 口の上手な隊長さんだ。


 名残惜しげな神馬と共に護衛してくれた人たちを見送った。


 さて。


 くるりと護衛に来た二人を振り返る。

「どういうことか説明してもらえるかしら?二人とも。アーサー、あなたルーカスが来るって言わなかったかしら?」

「聞かないんだから仕方がないだろう」

 お手上げのアーサーに代わってプラチナブロンドの青年を責める。


「なぜここにいるのよ、レオ!ルーカスの真似して髪まで脱色しちゃって何してるの!?あなた自分の立場分かってる?あなたはこの国の王太子なのよ!?」

 私に詰め寄られて、ルーカスもといレオは手を上げて降参ポーズした。


「やだなぁ、()はルーカスだよ。レオン王太子殿下じゃないよ」

「下手な芝居は止して頂戴。確かに二人は良く似てるけど全然違うじゃない。5歳児だって騙されないわよ!!」


「しー、ディア。大声出さないで。他の人にバレたら大変だろう?何せレオン王太子殿下は今性質の悪い風邪を引いて王宮で寝込んでいるはずだからね」


 口を掌で押さえられてウィンクされる。

 お茶目さを演出しても騙されないんだから。

 でも、声は小さくするわよ。

 別にレオがちょっと可愛かったとかじゃないんだからねっ!


 私が大人しくなったので、レオは私から手を離した。


「本物のルーカスはどこにいるの?」

「ん?彼なら私が戻るまで私の代わりに寝込んで貰ってるよ」

 可哀そうにルーカス。いつもレオに振り回されちゃって。

 やっかいな親戚を持ってしまったものね。


「それで、ルーカスを身代りに立ててまでなんでレオはカーラ帝国に行きたいの?」

 私が心配だからとか言ったら、アーサーごと王宮に叩き返してやるわ。


「ちゃんと理由があるんだよ。その理由を言う前にディアはカーラ帝国のことどれだけ知っているの?」


「え?えーと、複数の王国を支配していてブロムベルクの一族が代々世襲制で治めてる強国のことでしょ。うちとも100年前に領土戦争起こして今は休戦中」

「うん、そうだね。じゃあ、帝国の聖女伝説は知ってるかな?」


 聖女伝説!?

 何それ面白そう。


「帝国には千年前から伝わる伝承があってね。帝国が危機に瀕した時聖女が現れて国を救うんだそうだよ。前にも言ったよね、ここ数年帝国では災害が相次いでいると。帝国はひた隠しに隠しているけれど、影の報告によるとイナゴの大群だけじゃなくて、その他にも竜巻やら大雨による洪水やら大地震やらがあちこちで頻繁に起きているそうだ。どれも規模は大きくて多数の犠牲者が出てもおかしくないはずなのに、帝国民はほぼ無傷という報告を得ている。通常ならあり得ないが、聖女が生まれていたとしたら不思議じゃない。真相を確かめたくて前々から王家を通して交流を持ち掛けていたんだけど、ずっと断られていてね。王太子の身分で乗り込めないなら一貴族のフリをして入り込めば良いかなと思ってね。ついでにディアの事も守れるし」


 なるほど、そんな裏事情があったのね。


「でも、帝国が聖女を隠すのは何故?」

 聖女が現れたと宣伝した方が求心力に役立ちそうなのに。


「帝国は巨大な分敵が多いからね。伝承では聖女は大いなる災厄を治める為に現れると聞いている。その災厄の前に聖女が万が一敵に殺されでもしたら、帝国は災厄を止めることが出来ずに遠からず崩壊するだろう?多分すべてが終わるまでは他国に聖女の存在は公表しないじゃないかな」

 なるほどね。


「レオは聖女の何が知りたいの?」

 もしかしてレオってば聖女マニア?

 真っ白な雪を踏んでみたくなるように、清らかな存在を汚したいぜグヘヘヘヘとか?


「ディア、何か変な誤解してるでしょう」

 ジト目でレオに見られる。

 おほほほほ、ちょっとした冗談よ。


「聖女と帝国が災厄を沈めた後大人しくしているのならばこちらも何もしないよ。でも、もしその力を使って他国侵略を企てようとするならば、こちらも手を打たないといけないからね」

 まさか!だって聖女様ってあれでしょ。清らかで聖なる存在だから聖女っていうんでしょ。そんな存在が他国に戦いを仕掛けるなんて思えないわ。


「杞憂ならそれで構わないよ。でも災厄と言うのがどんなものか分からない以上警戒はしておくべきだ。

もしそれが他国に応用できるものであるならば、他国に災厄を持ち込んで内部から崩壊させてから帝国軍が攻めて来るという事だってあり得る」

 レオの回りすぎる頭に脱帽した。


「それじゃあ何があっても私に付いて来るつもりなのね」

 レオの事情は分かったけれど、それでも将来国を継ぐ者が身分を隠して他国に潜入するのは危険極まりない。

 もし帝国でレオが殺されたとしても、身分を隠して入国した以上こちらは帝国に文句も言えないだろう。

 それどころかバレたら身分を隠してまで帝国の何を探っていたのかと拷問されるだろう。

 バレた時のデメリットが大きすぎる。

 それでも危険だから戻れって言っても聞かないんでしょうね。

 賢いレオのことだもの、私が考えていること位とっくに予想済みでそれでも行く必要があると判断したに違いない。

 第一私のいう事を聞く位ならアーサーがとっくにレオを説得してるはずだもの。


 それでも一応無駄な抵抗を試みてみる。

「髪の色を変えてもレオの顔が向こうにバレてたら意味がないんじゃない?」

「帝国とはそんなに交流がないし、私の絵姿は向こうには出回っていないよ。せいぜい金髪碧眼位しか私の情報は持ってないんじゃないかな」

 あっさり論破される。

 それでもやっぱりレオを追い返したい。レオに何かあったらこの国は大損失だ。

 何か他にレオを帰す理由がないかしら?と考えていると、

 

「大丈夫だよそんなに心配しなくても、ディアとアーサーには危険が及ばないようにするから。もしバレても私一人で責任を持つよ」


 的外れなことをレオが言ってきた。


「誰が自分の保身の心配をしてるのよ、私もアーサーも()()()()を案じてるのよ!」


 この頭はやたら良いくせに根性と一緒で捻じ曲がってるのかしら。

 拳骨でグリグリ頭を捩じってやったら「ごめん、ごめん」と謝って来たから仕方なく許してやった。


「軽い冗談だったのに。ディアは(王子)相手でも容赦がないんだから。そういう所が好きなんだけどね。でも、今回君が行くのを止めると言うのなら私も帝国に入る手段がなくなるから今回は諦めるよ。どうする?」

 ああいえばこういうなんだからー!

 

「分かったわよ!一緒に連れて行けば良いんでしょう。でも危なくなったら私を置いてでもレオは国に逃げるのよ。それを約束してくれないなら一緒には連れて行けないわ」

「もちろん、約束するよ。私が逃げる時はディアを抱えてでも一緒に逃げるから大丈夫!」


 全然大丈夫じゃないわ。


 出立の準備をしているレオとアーサーから少し離れて肩に止まっている神馬に囁く。

「ね、レオの顔私とアーサー以外の人にはちょっと違うように認識させることって出来る?」


容易(たやす)いことだが』

「じゃあ、お願い」

『断る』

「どーしてよ!」

『契約者でもない人間の頼みは聞けぬ。我の加護を受け取るのならば望みを叶えてやろうぞ』

「今、そんなケチな事言うの!?」

『悪い話ではなかろう。聞けばカーラ帝国には不穏の兆しがあると言う。持っておいて損はないぞ』

「・・・分かったわよ」

『では我の前に跪いて頭を垂れよ』

 バサッと片方の翼を広げて厳かに神馬は言う。


 そんな神馬をぎゅっと掴んで尋ねる。

「それ、絶対必要様式じゃないでしょ」


『チッ』

 チッじゃないわよ、チッじゃ。


『ホレ』

 神馬は嘴で私の手の甲に文様を描いた。

 魔方陣が浮かんで手の甲に吸い込まれて消えた。


 え、もう終わり?


 身体のあちこちを叩いて確認するが特に変化はない。

「何も変わらないわよ」


『この世界の人間で今大量の魔力を保有している者はおらぬのでな。いきなり我の魔力を解放しては人々に恐怖を与えてしまうだろう。その力はそなたが必要だと思ったときに開くようにしておる』

 あら、気が利くじゃない神馬。


「じゃあ、さっき頼んだレオの件もお願いね」

『まっこと精霊使いの荒い女子(おなご)よの』 

 神馬はヤレヤレと言った風でレオの傍まで飛んで行った。

 これで顔バレはなくなったわ。


 さあ、いざカーラ帝国に乗り込むわよ!



読んで頂きましてありがとうございます(*^_^*)

ルーカスを期待していた皆様申し訳ありません・・・。

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