出立の日
お父様とお母様にお見送りされてカーラ帝国に出立することとなった。
「身体に気を付けるんだよ。何かあったらすぐに連絡をするように」
「はい、お父様」
「ドレス選びはマリーに任せるのですよ。攻めて攻めて攻めまくりなさい」
「・・・はい、お母様」
二人の熱い愛情を受けて私はいざカーラ帝国に出立した。
馬車の中には私とマリーと神馬だけ。
「お嬢様、レオン王太子殿下がつけて下さると言っていたボディーガードとはどちらで合流するのですか?」
「国境付近の街のはずよ」
「王太子殿下もなぜ屋敷からボディーガードを付けて下さらなかったんでしょう?インディア国内は確かに治安は良いですが、何もそんな場所で合流しなくとも」
「忙しいから直前合流って聞いたわよ。誰なのか教えてもらってないけれど、多分騎士団の中でも上の位の人なんじゃないかしら?」
「それはありがたいことですけど」
「それに、万が一賊に囲まれてもそこまではお父様が雇った護衛の方達が一緒だし、私もいざとなったらマリー位守ってみせるわよ」
「逆です、お嬢様。私がお嬢様をお守りするんです。使用人をお守りするお嬢様がどこの世界におりますか!」
いるじゃない、ここに。
刀だって持ってきている。なにかあれば私だって戦うわよ。
しかし私の気合いとはよそに何事もなく予定通り馬車は国境付近の街にたどり着いた。
何度か宿屋に泊まったり休憩もしたが、こんなに長い事馬車に乗っていることもなかったから、正直体がボキボキになっている。
道のりが遠いわー。ここまでで半分だなんて。はやくこの世界も誰か飛行機とか電車とか発明してくれないかしら。
なんだったらワープ装置でも良いわよ。そっちのほうが異世界っぽいし。
マリーも身体か辛いのか首を回したり腰を回したりしている。
私もラジオ体操でもしようかな。
大きく手を振り上げている中、護衛の一人が私に話しかけてきた。
「お嬢様。本日はこちらで一泊してから出立となります」
「え?まだ明るいけど」
「王太子殿下が選ばれたボディーガードの方達の到着が明日になるとのことで、合流を待って我々は戻ることになります」
「分かりました。今までありがとうエッジさん」
「いえ、我々も実に楽しい旅でした。またのご利用お待ちしております」
お父様が雇って下さった護衛の皆さん達は皆良い人ばかりで、退屈して馬車から飛んで行った神馬の相手も良くしてくれていた。
おかげでご飯時もこちらには戻って来なくて、護衛の皆さんからご飯を貰っていた模様。
全く自由な精霊なんだから。
暇だから夕方まで街をぶらぶらしてから宿に戻った。
国境沿いの街は全体的に砂っぽかった。
この先が荒野だからかも知れない。
マリーと女子トークをしながら寝る夜も楽しい。
神馬は寝る時だけは私達の方へ戻ってきた。
1回そのまま護衛の人たちと寝たら酔っ払いたちに踏みつぶされて散々だったらしい。
枕に頭をちょこんと乗せて毛布をかぶる小鳥の姿は可愛かった。
その姿を見たマリーには随分警戒心のない小鳥ですねぇと呆れられていた。
明日にはいよいよカーラ帝国に入る。興奮して中々寝つけなかったけれど、気が付いたら寝ていたようで朝になっていた。
マリーと神馬と3人で宿の美味しい朝食を食べ終えると、護衛の方からボディーガードの方々がお見えになられましたと連絡を受けた。
「随分早かったのね」
到着は昼位になるかと思っていた。
この分なら夜もぶっとおしで走って来たに違いない。
簡単に身だしなみを整えて会いに行く。
ボディーガードの一人は馬を撫でていてこちらには背を向けていた。
眩しい朝日の中で見える均整のとれた後姿に長い手足。
ものすごく見覚えがあるわ。
「アーサー!?」
私の声にアーサーが振り返った。
「よう、クラウディア」
「よう、クラウディアじゃないわよ。なんでここにいるの?」
「レオに言われてボディーガードに来た」
「アーサーが!?え、でも騎士団の方は良いの?」
「王太子命令より優先されるものはないからなぁ」
「ええ、なんか悪いことしちゃったわね。アーサー楽しみにしてた訓練とかあったんじゃないの?」
訓練大好きっ子のアーサーだもの。学園長期休暇中にきっとガッツリ練習するつもりだったに違いない。
「いいさ、別に。訓練はいざと言う時守るべき者を守れるようにするものだ。肝心の守るべき者の傍にいなかったら、遠い場所でいくら訓練してても意味がないだろう」
ぽんと頭に手を置かれ微笑まれる。
斜め後ろで宿の娘さんが被弾して腰砕けになったのを視界の端でとらえた。
アーサーが騎士団の制服を着ると格好良さ30%増しだものね。分かるわ、その気持ち。
私もさっきから前世の私がアーサーに抱き着きたくて仕方ないのを懸命にこらえてるから。
だってもう本当に格好良いのよ。
なんでこんなに手足が長いの。
そしてどうしてそんなに騎士団の制服が似合うの!?
マッチョ過ぎない綺麗な逆三角形の胸板と細い腰が素敵!
シャープな顎のラインから男の色気を感じる首筋。はだけている襟元からチラリと見える無骨な鎖骨までが完璧すぎて涎が出そう。
剥製にして部屋に飾っておきたいくらいだわ。
「おい、また手が変な風に動いているぞ。お前その癖昔から変わらないよな」
・・・ごめんなさい。無理だと思うけど、気を付けます。
「そう言えば、ボディーガードって2名なのよね?アーサーの他に誰が来てくれたの?」
「ん?ああ・・・ルーカスだよ」
「え!?ルーカス?何で?っていうか、ボディーガードよね?」
ルーカスって剣使えたっけ?
ゲームでも現実でも聞いたことがない。
「ルーカスは主に社交面でのボディーガードだな」
「ああ、そういう事ね。でもアーサーも夜会には出るんでしょう?」
「出るが、俺にそっち方面の能力は余りないからな」
そうかなぁ、確かに不愛想だけどアーサーがちょっとほほ笑めば大抵のご婦人はそれだけで満足しちゃうし、アーサーは男の人も憧れる体型してるから多少のコミュ障は大目に見て貰えそうだけどな。
真っ直ぐで裏表なくて芯が強くて綺麗な性格も少し喋れば誰にでも分かるし。
でも知っている人が一緒に付いて来てくれるのは嬉しい。
戻ったらレオにお礼言わないと。
「ルーカスは今どこにいるの?」
「今、お前の護衛のリーダーと話している。ああ、ちょうど来たな」
言われて振り返ると、プラチナブロンドの青年が宿の階段から降りてきた所だった。
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