お友達ですとも
「友達も嫌ですか。そんなにあなたは私が嫌いですか」
ふぅ、と悲しげにレオン王子はため息をつく。美少年の悲しみに良心がチクチク痛んだが、ここで折れてはいけない。
ぐぅっと我慢している私をチラリと見て王子はふーんと言って懐にしまっていた私の手紙を取り出した。
「あなたの手紙ではだいぶ反省されているとのことでしたけれども、どうやら口だけのようですね」
ひらひらと手紙を私の前で振る。
!!!
「そんなことありません、きちんと心から反省しております」
「そうでしょうか、私は何も今すぐ婚約者になってくれと言っているわけではありません。ただお互いをもっと良く知るために友達になろうと言っているのに、それすらもあなたは嫌がられる。これで反省していると言われても信用できませんね」
一旦エストラル侯爵夫人に相談してみましょうと踵を返されて、慌ててその腕を掴んで引き止める。
「お友達です!私たち立派なお友達になりましょう!」
「そうですか、友達になってくださいますか」
くるりとレオン王子が私に向き直る。
「ええ、もちろんです。私たち今日から押しも押されもせぬ友達です!」
「ああ、嬉しいです」
ぎゅっと抱きしめられてすっぽりレオン王子の腕の中に入ってしまう。
「あの、王子。苦しいです」
「ああ、すみません。でもハグなんて友達ですから当たり前ですよね!」
良い笑顔で押し切られ、そうかなぁ?あ、でもお母様やお父様も良くお会いした友人とハグしてるからそうかもと思いなおす。
「そうですね」
「そうですよ。それではクラウディア嬢、私たちお友達ですから明日王宮にいらしてくださいね」
「え?なぜ?」
「王宮の図書室にはもっとたくさん本がありますよ。案内しますから、一緒に本を読みましょう」
「え、本当ですか!?行きます行きます!!」
明日の約束をしてレオン王子は帰って行った。私はお母様に負けない良い笑顔で王子様を見送った。
あぁ、明日は王宮で読書三昧。珍しい本がきっと一杯あるに違いない。インディア国の秘密とか。きゃー。王子様とお友達になって良かった。
るんるんるん♪と跳ねながら部屋に戻る私の背中でお母様が扇子で口元を隠して笑っていたのを私は気づかなかった。
◆
翌朝私は今まで散々嫌がっていた王宮に自ら赴いた。
いやぁこんな気分で王宮に来れる日が来るとは思わなかった。
実を言うと本当は王宮に行きたかったのだ。あのイベントはここで起きたとか、ああ、このベンチで二人は愛を囁いたのだとかゲームに合わせて確認したかった。
巡礼の旅というやつだ。
でも今日はまず図書室。
実は図書室もイベントがあった。学校の勉強についていけないヒロインを見かねた王子様が王宮に呼んで付きっきりで勉強を教えてくれるというシーンが。
はぁぁ、楽しみ♪
てっきり図書室へは1人で行って、途中から王子がやってくるのかと思っていたら、レオン王子自ら出迎えて案内してくれた。
迷子にならないようにと王子に手をつながれて歩いていると、周囲の人たちがあらまぁと微笑ましそうに見てくるのが恥ずかしくてそっと手を抜こうとしたら、
「私たち友達でしょう」
と言われ、もっとぎゅっと握られた。
ついた図書室はもはや図書室ではなく図書館と言うべき量と広さだった。
「こちらからあの辺あたりまでがこの国の歴史書の棚です」
レオン王子が何も見ずにさらっと答える。
「良く覚えてますね」
「全部読みましたから」
「え?ここにある本全て?」
「ええ」
なんでもないことのように言われて驚く。
王子様のスペック半端ない。
私が尊敬のまなざしで見ると、レオン王子はちょっと照れたように笑った。
可愛い。
私は腕まくりして本棚に向かった。読みたかった本、手に入らなかった本がここには山のようにある。
私は片っ端から本を取り出して机に積んで読みふけった。レオン王子は私の隣でなにやら勉強をしていた。
時たま意味が分からないところを王子に聞くと、王子はスラスラと答えてくれた。
人間スマホだね。便利便利。
あっという間にお昼になって、私はマリーに頼んで作ってもらったお弁当を王子と分けて食べた。
午後も私について図書室に来たから予定は大丈夫なのか聞いたら、今日は丸1日空けてあるから大丈夫と言われた。遠慮なく人間スマホとして使おう。
丸一日図書室で本を読んでいたので、夕方帰るころには少し首が凝ってしまった。コキコキならしていると、王子がここが凝ってるの?といって首をもんでくれた。
くすぐったくて首をすくめると、レオン王子は私の首から手を離しなぜか私の髪を一房掬った。
「綺麗な髪だね」
「ありがとう、私も自分の髪は大好きよ。でも、王太子殿下の髪もとっても綺麗だわ、まるで黄金の川のよう」
「レオ」
「ん?何?」
「私たちは友達になったんだから、いつまでも王太子殿下と呼ばないで名前で呼んで。私も君をディアと呼ぶから」
「えー、じゃあレオン王子?」
「ただのレオで。親しいものは皆私をレオと呼ぶから」
「じゃあレオ。ねぇ、レオ。レオって呼ぶのもレオが私をディアって呼ぶのも構わないけど、周りにはちゃんと私たちがただの友達だって説明しておいてね。じゃないと勘違いされちゃう」
Go To 修道院!!
折角断首を免れたのに、修道院行きなんて嫌だ。
「もちろんだよディア。君の気持ちを無視して婚約者だと紹介することは絶対にしないよ。言うときは君が心から賛成してくれた時にするから」
一生そんな時は来ないと思いますよ~。っていうか、あと7年後にはあなたは違う女性に結婚を申し込んでいますよ。
言わないけどね、今言っても変な奴って思われるだけだから。だから私はにっこり笑ってお終いにする。
「それならいいの。あとね、昨日私が書いた手紙。あれ返して貰えないかな」
「これのこと?」
レオは懐から私の手紙を取り出した。
肌身離さず持ってるの!?
「これはダメだよ。元々私にくれるはずの物だったんでしょう?今は私の宝物だからね」
脅すネタに丁度良いからですか?
くそう、友達になったから油断して返してくれるかと思ったけど甘かった。
レオン王太子殿下は中々油断の出来ない人物だ。ゲーム内のただ優しい王子様だけとは違う。
余り気を抜かないようにしよう。
ただ、図書室の本は大層魅力的だからこれからもお邪魔しますけどね!
私たちオトモダチだから!