神馬と魔術学科
本科が終わった後教室から締め出しておいた神馬が窓から入ってきて私の頭の上にとまった。
「あ、こら。まだ専科があるからきちゃダメよ」
掴んでまた外に放そうとするけれど、飛んで逃げてはまた私の頭の上に戻ってくる。
『今の魔術レベルが見たい。我も連れて行け』
頭の上から私の肩に移動してきて頬を頭でスリスリしてくる。
うっ、可愛い。
中身は神馬だと分かっていても可愛い。
「もーしょうがないわね、ちゃんと大人しくしてるのよ。あと移動中は他の生徒に見られないように鞄の中に入っていて」
私が鞄を開けるとパタパタと飛んできて納まり、鞄の隙間から顔だけちょこんと出した。
可愛い~。
前世では犬と猫しか飼ったことなかったけど、小鳥も可愛いわぁ。
思わず相好が崩れてしまう。
『ホレ、なにをぐずぐずしておる。さっさと進まぬか』
ツンツンと嘴で手をつついてくる。
あらあら、だめよ~いたずらっこさんですねぇ。
中身が神馬だということは一旦忘れる。
今はこの可愛さだけを見つめよう。
ペットって良いわね、癒されるわ。家でも何か飼ってくれるようおねだりしてみようかしら。
ああ、でもお母様が動物嫌いだからきっとダメよねぇ。
なぜお母様は動物がお嫌いなのかしら、こんなに可愛らしいのに。
私が家庭を持ったら猫と犬は絶対に飼いたいわ。
今回で小鳥の可愛さも知ったから小鳥でも良いわね。ああ、でもそうしたら猫が飼えないわ。
うーん、どっちを取るか悩むわね。
将来のペット論争の決着がつかないまま魔術学科に到着した。
ドアを開けるとエリオットがいた。
「あー、クーさんやほー」
へらっと笑ってエリオットが挨拶をしてくる。
何回か愛称はディアですと伝えたのだけれど、エリオットはじゃあ「D」と呼んできたので、クーで良いですと諦めた。
エリオットは専科にいる生徒全員を最初の1文字で呼んでいる。親しみを込めてと本人は言っているが、絶対全員のフルネームを覚えられないからだと私は睨んでいる。
「ああ、クラウディア嬢今日は遅かったのですね」
ギル先生が現れた。今日も麗しいお姿で。
ギル先生には黒ローブより白ローブの方が似合いそう。今度プレゼントしてみようかしら。
黒ローブも倒錯的で良いんだけどね。
「遅れてしまいまして申し訳ありません」
何せ小鳥が可愛すぎたものですから。
後半部分は心の中でつぶやき、謝罪だけ口に乗せる。
「そんなに遅いわけではありませんから大丈夫ですよ。おや、クラウディア嬢何か持っていますか?」
「え?」
ギル先生が私の鞄を凝視する。
神馬の存在が分かるの?さすが攻略対象の魔術師長。
どうしよう、見せるべきか隠すべきか。
私が悩んでいると、神馬がひょこっとまた鞄から顔を出した。
「おや、可愛い小鳥さんですね」
見つかっちゃった。
「すみません、うちのペットです。邪魔にならないように外に出しておきますね」
手で鞄に押し戻して出て行こうとする。
「構いませんよ。逃げないのでしたらこの部屋に放しても」
「え、良いんですか?」
「ええ。ここの生徒にそんなことを気にする者は1人もいないでしょう。ただ魔術に当たらないように気を付けてあげて下さいね。イリナ嬢やショーン君は火属性ですからね、当たったら小鳥が丸焦げになってしまいますよ」
鳥の丸焼き美味しそう~とエリオットが涎を垂らす。
神馬の丸焼きは美味しいのかしらとちょっと想像してみた。
うーん、美味しそうには見えないかな。
ギル先生のお許しが出たので神馬を部屋に出してあげた。
神馬は机の上にちょこんと乗ってぐるっと一周部屋を見回した。
『ふん、どいつもこいつもろくでもない魔力しかもっておらぬな。唯一まともそうなのはあの男だが、それでも700年前に比べるとゴミのようなものよ』
ギル先生をバカにされたのでお仕置きに頭のてっぺんにバカと書いた紙をくっつけてあげた。
『あ、そなた我に何をしておる。動物虐待だぞ。むむ、取れぬ、届かぬ~』
ほほほ、脚が短くて届かないでしょう。少しは反省しなさい。
神馬を放っておいて私も黒ローブを羽織り今日も己の魔力と向き合う。
最初なんで皆黒ローブを羽織るのか意味が分からなかったけれど、頭まですっぽり羽織ると周囲から遮断されて集中しやすいのだ。
他の皆も同じ理由なのか分からないけれど、私は結構気に入っている。
目を閉じて集中すると、ドアをノックする音がして集中が途切れた。
エリオットが「また新入生かも~」と喜んでドアに向かう。
机の上では脚で紙が取れなかった神馬がゴロゴロと高速回転して頭から剥がそうとしていた。
「は~い」
エリオットがドアを開けるとしかめっ面をしたジャスティン=クロムウェルが立っていた。
「えーっと入科希望の生徒さんかな?」
エリオット、違う。それ生徒会長よ!
あなた2年生なのに生徒会長の顔も覚えてないの!?
生徒会長はジロリとエリオットを見た。
「生徒会長のジャスティン=クロムウェルだ。ギル先生はどちらに?」
「ああ、どっかで見た顔だと思ったら生徒会長かぁ。でも生徒会長って3年生だよねぇ、ごめんねぇ。うちは1年生からしか入科出来ないんだぁ」
エリオット、生徒会長は決して入科しに来たんじゃないと思うわ。
エリオットのボケに突っ込まない生徒会長の精神力は凄いと思う。
それにしてもこのままエリオットに任せると話が進まなそうだから、私がギル先生を呼んでくることにした。
なにせ他の生徒は生徒会長が来ても無視して壁でブツブツ呪文を唱えているからね。
ギル先生に生徒会長が来たことを伝えると、首を捻っていた。
「何の用事でしょうねぇ、文化祭にはまだ早いですしねぇ」
さあ?エリオットが対応していたから全く話が進まなくて私には分かりません。
「ジャスティン君どうしましたか?」
ギル先生が現れてもまだエリオットが生徒会長と話していた。
「だーかーらー、ここは1年生しか入れないの。決まりなの。分かったらもう帰って」
まだ、誤解してたのねエリオット。
生徒会長もなぜ沈黙して誤解を解こうとしないのかしら。
「エリオット君、変わるよ。ありがとう」
「あ、ギルせんせー。もーこの生徒会長ダメだって言ってるのにしつこいんですよぉ」
ぷんぷん怒っているエリオットの肩を叩いてギル先生が生徒会長と対峙する。
おお、何気に攻略対象者同士のツーショットね。素敵。
中性的美人 VS 厳格者 かしら。
ワクワク。
「ギル先生。ここは1年生しか入科出来ないと聞きましたが、それに間違いはないですか?」
え、本当に生徒会長はうちに入科しに来たの?嘘でしょ。生徒会はどうするの?
「ええ、本当ですよ。魔力感知に1年以上かかりますから、2年生以上の生徒は入科を許可しておりません」
「それは生徒の自由と権利を勝手に奪っていることになりますね。生徒会としてはそのような横暴なことは認められません。即時撤回してください。撤回して下さらない場合こちらもそれなりの対応をさせて頂きます」
キラリと生徒会長のメガネが光る。
「私は横暴で規則を決めた訳ではありませんよ、ジャスティン君。生徒の未来を守る為です。3年の専科発表は多くの父兄やOBが見に来ます。そこで就職が決まる生徒も多い。そんな中中途入科して魔力感知も出来ないまま発表すればどんなことになるかあなたもお分かりになるでしょう。私は魔術を愛する生徒が一人でも増えてくれれば嬉しいですが、私のエゴで生徒の未来を台無しにすることは出来ないと思っています。規則を変える気はありません」
ギル先生も一歩も引かない。
なよやかに見えて先生格好いい!
生徒会長は無言のままギル先生を見つめる。
あら、この図一歩引いてみるとちょっとBLに見えるかも、と不謹慎な事を思わず思ってしまった。
前世で軽く腐女子も入っていたからなぁ。
「そうですか。先ほどから魔力感知が出来ないからとおっしゃられておりますが、では魔力感知が出来る2、3年の生徒が入科希望を出したらどうなりますか?」
「独学で魔力感知は無理です」
「無理か無理ではないかを聞いているのではありません。いたらどうするのかと聞いているのです。規則だからと入科を拒否するのですか?」
「それは・・・出来るのでしたら入科を許可します」
生徒会長は満足そうに頷いた。
「それでは入科規則を1年生及び魔力感知の出来る2、3年生と変更しておいてください」
「分かりました」
ギル先生はそう言うと早速入科規則の変更するため自分の部屋に戻って行った。
凄いわ、この生徒会長。切れ者だって聞いていたけどギル先生を言い負かしちゃった。
私がぽかんと見ていると、生徒会長が私を見て睨んできた。
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やっと生徒会長再び出てきました。1部から長かった。ふう。