神馬の加護
人間に変身した神馬はなぜか学園の制服を着ていた。
そうか、700年ぶりに地上に降りたから今のお手本となる服が制服しか知らないのね。
それにしてもエリクセル学園の制服が良く似合っている。
こんな生徒がいたら間違いなく学園アイドルの仲間入りだわね。
もちろんそのアイドルとはレオ、アーサーを筆頭にした攻略対象者達だ。
「神馬って人の姿になると銀髪なのね、私とお揃いだわ」
「そなたの名は?」
「あら、そういえばまだ名乗っていなかったわね。私の名前はクラウディアよ。クラウディア=エストラル」
私が名乗ると神馬はふむと考え込んだ。
「そう言えば少し前に我が加護を与えた人間がいたの」
「少し前ってどれくらい前?」
「前回地上に降り立った時だから700年前かの」
それ全然少しじゃないから。大昔だから。
でも長い時を生きる神馬にとっては700年前などほんの少しなのかもしれない。
「たぶんそなたはその男の子孫だの。なるほど、そなたと我の縁はそこからか」
「え、いやいやいや。なぜ私がその男の人の子孫だって分かるの?そんな偶然普通ないでしょ」
「何を言っておる。そなたの一族が我の力の一部を宿していた証がこうしてそなたの髪に現れておろうが」
え、私が銀髪なのってそのせいだったの?
じゃあご先祖様が神馬から加護を貰ってなかったら、私の髪はもっと違う色だったってこと?
もしかして王家が金髪なのもシモンズ家が黒髪なのも、大昔のご先祖様が精霊に加護を受けた影響のせいだったの?
てっきり運営スタッフの趣味だとばかり思っていたわ。
「でもなぜ人間に加護を与えたの?」
子供たちにいじめられてたのをうちのご先祖様が助けたとか?
それともご先祖様が大晦日に雪の日に濡れていた神馬に傘をあげたとか?
ご先祖さまからキビ団子もらっちゃったとか?
「我はそなたたち人間に神馬と呼ばれているが、実際はただの精霊に過ぎぬ。昔は我の他にも色々な精霊が気に入った人間に良く加護を与えていたものよ。一番多かったのはやはり風霊と火霊かの。あれらは数多く存在していたし我と違って人間が好きでホイホイ加護を与えていたからの。そもそもこの世界の人間が魔力を有しているのは精霊と縁があったからというのは常識であろう?」
そんな常識知りません。初耳です。
そうか、だからこの世界の人間は魔術を使えて地球人は使えないのね。
魔力の有無が精霊の加護が貰えたか貰えなかったかの違いだったなんて。
魔術が衰退したとはいえ何故誰もこの事実を知らないのかしら。
私が人間界にはそのような常識は伝わっていないことを伝えると、神馬は少し考え込んだ。
「ふむ、誰かが人間界に干渉したようだの。まぁそういうことをやりそうな輩は何人か思い浮かぶから多分そやつらの仕業であろうの」
え、精霊の仕業だったの?もしかして人間界の魔術が衰退してるのもそのせい?
「だろうの。精霊の加護は基本本人にしか与えられぬ。恩恵は一族にも受け継がれるが、その子、孫と続いて行くにつれ少なくなっていく。そなたの銀髪もまだかろうじて我の力の残りカスでなっておるが、それも交配を続けていくうちに消えてゆくだろう。今加護どころか地上に姿を現す精霊を見かける方が稀だしの。人から魔力が失われていくのもそう遠い未来ではなかろうて」
ガーン!
異世界まで魔法が消えてしまうなんて。そんなの異世界じゃないっ!
夢がないしロマンもないっ!
反対反対はんたーい!
私の反対コールを聞いて、神馬が提案してきた。
「ふむ、そなたと出会うたのが運命であれば、我がそなたに加護を与えるのもこれまた運命かもしれぬ。そうまで望むのであれば我の加護をそなたにやろう」
「え、私?いや別に私は加護はいらないわよ」
私は顔の前で手を振って拒否した。
私はただこの世界から魔力が消えるのが反対なだけだから。
私自身は魔力普通に持ってるし。
私がそう言うと神馬は目をパチクリさせた。
そして聞き間違えたのかと思ったのか、気を取り直して再び同じセリフを言った。
「そうまで望むのならば我の加護をそなたにやろう。さあ、こちらに来るがよい」
「いやだから私はいらないって」
再度拒否すると神馬が壊れた。
「なぜだっ!我は滅多な事では人に加護をやらぬのだぞ。レアだぞ、それもプレミアものの。普通ありがたがって土下座して受け取るものであろうがっ!」
土下座してまでいらないって。
「我の大いなる力の一部を手に入れられるのだぞ、この世の全てがそなたの思いのままになるというのに、そなたはその価値を全く分かっておらぬ」
「この世の全てが思いのままに・・・?」
私の呟きに神馬がおっ!と反応する。
「やっと我の力の価値が分かったようだの。さあ、欲しいのならば我の前に跪くがよい」
気分を良くした神馬が自分の前を指差す。
私はその言葉を無視して顎に手を当てて真剣に考えていた。
「・・・なんでも思いのままになるということは、もしかしてこの世界からいなごを消すことも出来るって事?」
「ん、えあ!?」
神馬が変な声を出した。
「出来るの出来ないの?どっち!」
「や、出来るか出来ぬかで言うならば、生き物の存在は神の領域であるからして・・・」
しどろもどろに神馬が弁解する。
「つまり、出来ないのね。ならやっぱりいらないわ」
「えええええええええ!そんな理由で断るのかの!我の加護の価値がいつの間にやら殺虫剤以下に・・・なぜだ。我が地上に降り立たなくなったこの700年のうちに一体地上で何が」
しゃがみこんでブツブツと呟いている神馬を放っておいて私は生徒達が来る方の道を眺めたが、まだ影も形も見えない。
うーん、どうやらここへ来る道は随分と迂回しないと来れないらしい。
暇だなぁ。
私が暇つぶしにラジオ体操をしていると、神馬が立ち上がって私に指を突き指した。
「我はここに宣言する!必ずそなたに我の加護を受け取らせてみせる。だからそれまでそなたにくっついていてやろうぞ」
迷惑なので、遠慮します。
「なに恐れ多いからとて遠慮することはない。我は姿をいかようにも変えられるでの。小鳥が良いか、子犬が良いか。そうさな、いても違和感がないように昆虫にしようかの」
何かいや~な予感がする。
「蝶、蠅、蚊、うーむこの辺りは季節によって不自然か。ならばゴキブ「小鳥で!」」
今とんでもないセリフをいう所だった気がするこの神馬。
「小鳥希望です!」
「そうか?やはりここはどこにいても不自然ではないゴキ」
「小鳥以外は却下です!ましてやGなんかになった日には本で叩き潰します!」
「はっはっは、我を本ごときで叩きつぶせるわけがなかろうて。そなたは誠におかしな女子よの」
おかしいのはあなたの感覚です。
なんとか小鳥で納得させてGを回避できた。Gの姿で四六時中まとわりつかれるなんて想像しただけでも真っ平ごめんだわ。ほっとして額の汗を拭うと、頭に乗っけていた花冠がずれて地面に落ちた。
そうだ、もとはと言えばこの冠を掛けてあげたいから人間の姿に変身してもらったんだった。
私が拾って神馬の頭に乗せると、神馬がくしゅん!とくしゃみした。
「・・・もしかして花粉症?」
「馬鹿者、そんなものに精霊がなるか!今風霊がいたずらしてきたのだ。それよりもう姿を戻すぞ。そろそろ他の者達が追いついてきたからの」
そう言うと神馬は馬の姿に戻った。
そのすぐ後で数頭の馬の蹄の音がした。
「やった、俺が一番乗りだ!ってあれエストラル侯爵令嬢いつの間に先頭に?」
「あ、本当だ。ほぼ一本道だったのに、いつの間に」
やっばーい。
「他の道から参りましたのよ。迷って進んだ道が運よく近道だったみたいで。ほほほほほ」
その道はどれだと言われたら空を指すしかない。絶対突っ込んで来ないでね!と視線に圧力を込めれば生徒達はビビってそれ以上何も言ってこなかった。
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神馬の回はこれで最後です。(*^_^*)やっと次レオとアーサーが出せます。ほっ
予約投稿するつもりが間違えて押しちゃいました。あああああ(・・;)