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王子Side ~レオンの独り言5~

 作戦を実行していたある日、私は王妃(母上)に呼ばれた。

 母上に会いに行くため廊下を歩いていると、バーロウ侯爵と途中で出会った。


「これは王太子殿下。ごきげんいかがですかな」

「ええ、変わりないですよ。バーロウ侯爵はなぜここに?」

「ほほ、いえ。最近我が家の事業が実にうまくいっておりますので、その報告を陛下にしてきたところです」

 ああ、ダレルが開発したという新肥料か。評判がかなり良いらしいが、つまるところ王宮の庭にも使ってくれと言う売込みだな。


「ところで殿下。最近女性の好みが変わられたと小耳に挟みましたが、是非ともうちの娘のシャルロットとも時間を取って頂きたいですな。うちのシャルロットはそれはそれは心の広い女性ですからな。愛人の1人や2人いたところで焼き餅を焼いたりは致しません。やはり王妃となるにはそれなりの格がないと周囲が納得しませんからなぁ」

 バーロウ侯爵はあご髭を撫でながら娘の売り込みも忘れない。

 17歳にもなって婚約者がいない今の状態は異常だ。それは分かっている。

 だが私はディア以外はいらないのだから仕方がない。

 

 私の正式な婚約者が決まっていないせいで、ここ数年有力貴族たちの娘の売込みが酷い。

 気持ちは分からないでもないが正直かなり鬱陶しい。


「そうですね、今は少し忙しいので時間が取れるようになればそのうちに」

 曖昧に誤魔化して去る。


 ふぅ、あの押しの強いバーロウ侯爵からよくもまあダレルみたいな息子が出来たものだ。

 いや、あの押しの強い父親のせいで息子が気弱に育ってしまったのか?


 それでも先日協力を得る為に久しぶりにダレルと会ったが、随分と逞しくなっていた。新事業が当たったことの自信とリリアーナ嬢への愛情が彼を変えたのだろう。良いことだ。このままいけばあの父親を押し返すことも出来るようになるだろう。


 そう考えていたら王妃の間についた。ノックをして入る。

 王妃(母上)は刺繍をしていた手を止めて私に傍に来るように言った。


「最近身分の低いご令嬢と頻繁にお会いになっているそうね」

 

 とうとう母上の耳にも入ったか。

 しかし私は顔色も変えず答えた。

 

「ええ、色んな身分の方と知り合うことで見聞が広められますので」


 ほほ笑んで答えれば母上はそれ以上の苦言は言わなかった。


「あなたが選んだ道なら何も言う事はありません。あなたは聡い子です。きっと(わたくし)には言えない訳があるのでしょう。でもね、レオン。あなたはもうディアの事はどうでもよろしいのかしら?」


「どういう意味でしょう?」


 冷静なつもりでいても眉がピクリと反応してしまう。

 そんな私を見て母上は軽くため息を一つ吐いた


「やっぱり知らないのね。(わたくし)も先ほどアンブローシアから直接聞いた話だもの。アンブローシアはあなたに愛想を尽かして今ディアに婚約者を探しているのだそうよ。あなたの言葉を信じディアに婚約者を探さず今まできたのになんという裏切り行為かとそれはそれは怒っていたわ。(わたくし)では止められないほどに」

 

 エストラル侯爵夫人か!

 エストラル侯爵には訳を話してあったから、そっちで抑えてくれるものだと思っていた。

 案外エストラル侯爵は夫人の尻にしかれているのかも知れないな。

 とにかくどこまで婚約話が進んでいるのか近いうちにディアに確認を取らないといけない。

 

 アーサーに無理を言って早朝ならと承諾を貰いディアと会った。久々に会えてとても嬉しかった。

 だがやはりディアは当然のことながら私に(となぜかアーサーにも)怒っていて。婚約者の話が聞けそうになかった。仕方なく軽く挑発をして口を割らせてみると、やはり思った通り国外の人間が候補者に上がっていた。


 まずい。

 国内の人間ならなんとでも出来るが、国外のしかも王族ともなればうかつに手は出せない。

 一刻も早く残党を排除してディアと向き合わなければ本末転倒になってしまう。


 私はアーサーに計画短縮を命じバート男爵令嬢にもそう伝えた。

 アーサーはかなり文句を言っていたが、今はそれどころではない。残党狩りなどというただのおまけに時間を取られるわけにはいかないんだ。


 計画を前倒しにしてシルヴィ伯爵の夜会に男爵令嬢と出た。

 シルヴィ伯爵もクーデターには関わってはいないが、色々と黒い噂が絶えない御仁だ。


 そういう黒い者同士はどこかで繋がっているもので、現に私の食事に毒を盛ったのもシルヴィ伯爵の手がける商会の筋が有力だ。


 バート男爵令嬢にジルコンの髪飾りを渡し私達が婚約したかに見せかければ、黒い筋からの噂が入り残党共は間違いなくバート男爵令嬢に食いついてくるだろう。


 さっさと仕上げに入らなければ。


 しかし入場してすぐに気が付いた。


 ディアがいる。


 何故だ?いや、シルヴィ伯爵の夜会なのだからいても不思議ではない。

 しかし誰がパートナーを務めたんだ?

 いつもは私かアーサーが務めるのに。


 アーサーは無理だし、エストラル侯爵も今は忙しくて無理だろう。


 一体誰に頼んだんだ?


 笑顔で周囲に寄ってくる貴族をあしらっていると、シルヴィ伯爵の息子が見えた。

 シルヴィ伯爵は息子(ジェイコブ)を呼び私に挨拶をさせた。


「レオン王太子殿下、本日はようこそお越しくださいました。本日殿下にお越しいただけたこと子子孫孫まで自慢いたします」

 大げさなお愛想に口が引きつる。

 そう言えばジェイコブはやたら大げさな物言いをする男だった。


「先ほど誰かをお探しのようでしたが、見つかりましたか?」

「ああ、いえ。クラウディア嬢がパートナーがいないというので私がお相手をしていたのですが、この人ごみで見失ってしまいまして。不安がっておられるのではないかとお探ししております」


 コイツか。


 私の寵愛がディアからバート男爵令嬢に移ったという噂を聞いてもう大丈夫だと思ったのだろうが、愚かな真似を。

 バート男爵令嬢とダンスを踊りながら私はさりげなくディアとジェイコブの位置を確認していた。


 案の定ジェイコブはディアを見つけるとディアの肩を抱き庭へ連れ出した。

 私のディアに何をするつもりだアイツは。


 ディアは子供の頃から剣を学んでいる。

 騎士団には護身用の技を中心に教えるように言い含めておいた。

 だからあんな鍛えてもいない男にみすみす手籠めにされることはまずないだろう。

 

 分かってはいたが心配で適当な理由を付けて庭に出て追いかけてみれば、ディアはジェイコブをのした後だった。

 プリプリと怒りながら去って行くディアに笑いが零れた。


 さて、この許しがたい愚か者をどうしてくれようか。


 私は息を吐き一歩ジェイコブの前に出た。


 ジェイコブはお腹の痛みを堪えて蹲っていたが、私の靴が目に入ったのか顔を上に上げ、私の顔を見たとたん悲鳴を上げて後ずさった。


「ち、違うんです。私は何も。合意!そう合意の上です。私とクラウディア嬢は想い合っているんです。今日私がクラウディア嬢のパートナーを務めたのもその為で。両家の合意はまだですが、これからボチボチと進める予定だったんです」


 よくもまぁ回る口だ。


「その割には怒って戻られたようですが。あなたも随分と痛い目に遭われたようで」

「違います、クラウディア嬢は少し恥ずかしがり屋なのですよ。恋人同士なのだから少しくらい良いと私は思っているのですが、奥ゆかしい方なのでね」


 ほう、ディアと恋人同士だと。


「あの、レオン王太子殿下。分かっていただけたでしょうか。決して私は無理やりクラウディア嬢に襲い掛かったわけではありません。恋人同士の・・・そう、恋人同士の軽いスキンシップですよ。ハハハ」

「黙れ」

「はい?」

「黙れと言っている。その軽薄な口を今すぐ閉じろ」

 私の怒りのこもった低い声がジェイコブを押さえつける。

「ひっ!ひゃっひゃい!」

 

 無事だったからといって許せるものか。

 可能であるならば今すぐこの男をこの世界から消滅させてしまいたい。


「あなたに一つだけ選択肢を選ばせてあげましょう。どちらがいいかあなたが決めてくださって結構ですよ」

「は?はぁ」

「あなた自ら破滅するか、私に破滅させられたいか。どうぞあなたのお好きな方を」

「あの、それはどちらも同じ意味なのでは・・・」

 私はクスリと笑った。

「そうですか、私に破滅させられたいのですか。よろしい。それでは草の根一本残らず殲滅してあげましょう」

 踵を返すとジェイコブが追いすがってきた。


「お、お待ちください。王太子殿下は何か誤解をされておられるのではないですか?いきなりそのようなことを仰られる理由(わけ)をお聞かせください」

 

「・・・私のディアに手を出したことがすでに許しがたい大罪だと気づかないことがもはや罪ですね」


「そんなっ!クラウディア嬢はもう殿下の寵愛から外れたと噂で。今日だって!」

 今日も違う女性といただろうと言いたいのだろう。

「だから?」

 私が冷たく問い返すとジェイコブは言葉を失った。 

 

 私はガックリと項垂れるジェイコブを無視して会場に戻った。


 近いうちにジェイコブが動かなければ、残党退治のついでに掴んでいたシルヴィ伯爵家の悪事の証拠を使って潰してやるまでだ。

 知らべてみるとかなり悪辣な行為を行っていたことが分かったので、残党殲滅が終わったらどの道次はこちらに取り掛かろうと思っていた。今回の件で潰す順番が変わっただけに過ぎない。


 しかしその後ジェイコブはシルヴィー伯爵と共に王宮に訪れこりずに悪あがきをしようとしたので、掴んでいた証拠の一部を見せてやったら二人とも一気に大人しくなった。

 

 王都から去ることを条件に今後生きていくだけの最低限の財産の持ち出しを許可すると、彼らは急いで出て行った。

 これでディアがジェイコブを見て不快な事を思い出すことは二度とないだろう。

ブックマーク&評価をして下さった皆様ありがとうございます(*^_^*)


誤字連絡&感想をしてくださった皆様ありがとうございます(*^_^*)


シロエ様より以前蛇男さんの没落早くない?裏がありそうという感想を頂き、ギクラリホと思っておりました。(*^_^*)


皆様レオのやりそうなことをよく御存じでいらしゃる。^^;

明日はその後編をちょこっといれます。


曜日感覚間違えて明日が土曜日かと勘違いして次は間が空きますと最初に書いてしまいました。m(__)m

申し訳ありません。


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