説明
騎士団の皆さんが犯人達を捕縛輸送していって館には私達5人だけになった。
今すぐ説明して!と私が言ったので、全員が玄関ホールに円になって立っていた。
私を基準として左回りにレオ、アナベル、ルーカス、アーサーといった順番だ。
「つまり最初からお芝居だったってこと?」
皆の説明を聞いて私が口にすると全員が頷いた。
私は信じられず全員の顔を見回した。
あの苦悩した日々はなんだったのか。
そもそも事の発端は、過去にクーデターを起こした残党共がレオに対して度々ちょっかいを出して来るので、いい加減うんざりしたレオがいっそのこと綺麗さっぱり殲滅させてしまおうと考えたことが切っ掛けだった。
しかし犯人たちは指示は出しても自らは決して動かず、失敗しても自分たちに繋がらないように使い捨ての人間を常に使っていた為、真犯人が分かっていても捕縛するには決定的な証拠が足りなかった。
そこでレオは犯人を油断させるために罠を張った。
まずレオが恋人を作り、恋に狂った愚かな男を演じる。
恋人の為にルールを無視し、傲慢に振る舞い恋人に貢ぐことでレオの世間での評判を落とし、貴族達にレオへの不満を抱かせる。
それを知った犯人たちが、貴族の支持を失ったレオを王太子の座から引きずり落とすチャンスだと動き出す。
いい感じに貴族たちの不満が熟した頃、犯人たちはレオをおびき寄せる餌としてガードの緩いアナベルを狙い誘拐する。
レオは騎士団を引き連れ配置が終わった後さも一人で来たかのように見せかけて館に入り、犯人たちが一か所にまとまったところを一網打尽にしたというわけだった。
「え、じゃあアナベルさんが誘拐されたのってわざとだったの?」
「はい、事前に私が街へ出かけるとわざと犯人たちに情報を流しておいて、道に迷ったふりをして人気のない道を歩いていました」
それを私が正義感丸出しで飛び出して行って危うくフイにしちゃうところだったのね。
「ご、ごめんなさい」
「いえ、結局成功しましたし。それにあの時のクラウディア様戦いの女神みたいで格好良かったですよ」
褒められてちょっと照れてしまう。
「バート男爵令嬢に付けていた影から何故かディアまで捕まったと聞いた私達がどんな気持ちだったのか、少しは考えて貰いたいものですね」
はいっ!申し訳ありませんでした!
レオから冷たい目で見られて褒められて緩んだ気持ちがピシッとなった。
ルーカスの役目は、接触してきた犯人たちに旗印になることを了承しながらさりげなくレオの計画通りに誘導することだった。
レオが用意しておいたお金や隠れ家を犯人達以外の自分の後見者が用意したと偽り、予定通りの場所にアナベル達を閉じ込める。誘拐犯たちには褒美だと言って酒をたらふく飲ませ泥酔させておく。
後はアナベル達のいる部屋の窓のカギを開けておいて騎士団が入って来れるようにした。(私の部屋のドアのカギを開けておいたのもやっぱりルーカスらしい)
「影の後援者が誰か聞かれなかったの?」
「もちろん聞かれたよ。是非とも仲間にと言われたから、政界を引退した老い先短いご老人で立役者の皆様の手柄を横取りするわけにはいかないから陰ながら応援すると申しておりますと言ったら簡単に納得していたよ。ああいう権力志向の強い人間たちはライバルが少ない方が嬉しいと言うのが本音だからね」
はぁ~ルーカスはやっぱり頭が良いわね。
色々説明を聞いて納得はしたけれど、疑問が残った。
「なんでアナベルさんの役私じゃダメだったの?」
初めから説明してくれていたら私だって協力したのに。
「ディアだと犯人が食いつけないからダメなんだよ」
レオに否定されても意味が分からない。
どういうこと?
「元々なんで犯人たちが今まで動かなかったかと言うと、私の側近に武官トップのシモンズ家の子息であるアーサー。婚約者候補に文官トップのエストラル家の息女であるディアがいたからだ。さすがに犯人たちも王家と武官文官トップの大貴族2家を敵に回してクーデターが成功するとは思わないだろう。そのまま大人しくしていれば見過ごしてあげても良かったんだけど、最近またちょこちょこ嫌がらせをしてきていたのでね。鬱陶しいから壊滅させることにしたんだ。元々治安の静定はエストラル侯爵からの条件の1つでもあったしね」
え、ここでお父様の名前が出てきちゃうの?
何その条件。
「ディアを私の婚約者にしたいと願い出た時、エストラル侯爵から2つの条件を出されたんだ。1つはディアの心を手に入れること。2つ目はディアを嫁がせても良いと思えるだけの国内の安定を図ること。だから今回の計画も国王とエストラル侯爵にだけは事前に知らせておいたよ」
お父様、娘の知らないところで何サラッとレオに無理難題出してるの?
「ディアが私の婚約者候補と世間で見られている内は、犯人たちはしっぽを掴まれるような大きな動きはしないだろう。だから代わりに他の女性を恋人役に仕立てる必要があったんだけど、それを誰にするかずっと悩んでいたんだ」
「そこで選ばれたのが私です!」
アナベルが手を上げてにっこり笑う。
「そう、バート男爵令嬢は条件にぴったりだったんだ。身分も容姿も性格も。普通のか弱いご令嬢には到底無理だからね」
「なんか、トゲがありませんか?王太子殿下」
「褒めてるんだよ。君がいなければこの計画は成り立たなかったからね」
「まあいいです。お礼金はずんでくださいね」
「いくらでも」
やった!とアナベルが喜ぶ。
「私じゃダメだったのは分かったけど、じゃあなんで私に冷たく接したの?」
普通にアナベルとラブラブしてればいいだけの話なんじゃないの?
「私がディアを溺愛していることは貴族達の間では周知の事実だったからね。普通にバート男爵令嬢と過ごしていても結婚前の浮気位にしか思われないだろう。犯人たちが動き出す為には私からエストラル侯爵家の後援が外れたと思わせる必要があったんだ。だからわざと大勢の前でディアを貶めてバート男爵令嬢を優先させるフリをした。ディアを傷つけたと思う。ゴメン」
そりゃまあ傷ついたか傷つかないかで言えば思いっきり傷つきましたけどね。
寝る前にレオ禿げろって呪いかけてたし。
「侯爵令嬢を振って男爵令嬢にうつつを抜かし、傲慢に振る舞い税金を湯水のように使う愚かな王太子を演じることで、やっと慎重だった犯人達が動き出したんだ」
最初に犯人に接触したり、レオの愚かな行動を犯人たちに教えていたのはなんとダレルだったという。
「ダレル君は商売をしていたからね。新商品の肥料の試供品の具合を見るという名目で度々犯人たちの家に潜入してもらった。ただで肥料をあげると言ったらどこの家のご婦人も喜んでダレル君を招き入れてくれたよ。あとはダレル君からそれとなく世間話として私やルーカスの情報を犯人たちに流してもらった。案の定犯人たちはルーカスの存在を知るとすぐに接触してきたよ」
「だから僕は悲劇の公子を演じて犯人たちに協力するフリをした」
ルーカスが続ける。
「え、じゃああの身の上話嘘だったの!?」
「うん、ウソ。さすがに1つのパンを皆で分けたりしないよ。僕が惨めな生活をしていて現状に不満を持っていることにした方が犯人達の仲間になるのに違和感がないからって、レオン王太子殿下が作ったシナリオだよ」
えー騙された。ルーカス物凄い演技力ね、アカデミー賞ものだわ。
「あ、じゃあアーサーは?アーサーはなんで私に冷たくしたの?」
私の問いにアーサーは眉をひそめて否定した。
「俺はお前に冷たくした覚えはないぞ」
「したじゃない!私見て嫌な顔したりアナベルさんに私が剣を教えるって言っても自分がやるって言って却下したし、挙句の果てに帰れって言ったじゃない!」
あれすっごい傷ついたんだからね!
「あれは、出来るだけお前とバート男爵令嬢を接触させたくなかったんだよ。お前がこの計画を知ったら絶対首突っ込んで来るだろう?それに剣についてもお前じゃまだ人に教えられる腕前じゃないと事実を言っただけで他に意味はない。バート男爵令嬢は危険な囮役を任されていたんだ、出来るだけ生存率をあげる為に俺が教えた方が良いだろうと思っただけだ」
え、全部私の勘違い?
うそー。
アーサーが私の顔を見てニヤッと笑った。
「ああ、だからお前俺にも怒ってたのか」
ぐっ、恥ずかしい。
穴があったら入りたい。
「まあまあ、勘違いさせる行動をわざと取っていたのは私達ですし。クラウディア様がそう思われても仕方ないですよ」
アナベルが優しくフォローしてくれる。
「じゃあ、アナベルさんは誰とも恋人同士ではないの?レオともアーサーともルーカスともダレルとも?」
「はい、もちろんです。王太子殿下とはお金で雇われただけの関係ですし、アーサー様には護身用に剣を教わっていただけです。ルーカス様とダレル様もただ単に王太子殿下が動くと目立ってしまうので、私が伝令役をしていただけです」
マジかー、じゃあ私とリリの奮闘はまるっきり空回りだったわけね。
はぁと大きくため息を吐く。
「すみませんでした。クラウディア様私のせいで一杯傷ついてしまいましたよね。王太子殿下はちゃんとお返ししますので安心してください」
返すって元々私のじゃないんだけど・・・。
でもこの後二人はどうするつもりなんだろう。あれだけ派手に婚約が広まってしまっているのに。
「はっそうだ、忘れてた。ダイアモンド!レオ、アナベルさんにダイアモンドの髪飾りプレゼントしてたわよね。それって婚約したってことじゃないの?今さら別れたらアナベルさん修道院行きになっちゃうじゃない」
「あれはダイアモンドじゃないよ。ジルコンだ」
は?ジルコン?
「ダイアモンドに良く似た天然石だよ。遠目だと分からないだろうが、見る人間が見ればすぐにダイアモンドじゃないと分かるよ」
また騙された。
もう、本当にレオの掌の上で転がされてたんだわ、私達。
「でもこれだけ婚約したって噂が広まってしまっていたら、いくら王家からの正式発表がなくても二人が別れた後アナベルさんが傷物扱いされてしまうんじゃないの?そもそもなんでアナベルさんはこんな危険な任務をOKしたの?」
「お金の為です!」
キッパリとアナベルが言い切る。
「私の心配ならご無用ですよ、クラウディア様。元々私結婚願望全くないんです。私の父がお人よしのバカなせいで騙されては借金を作るの繰り返しで、母がせっせと働いても全部借金の返済で消えちゃって。しまいに無理がたたって母も最近倒れてしまいました。うちがお金に困っていることを知った父の知り合いの商売人の男が借金の肩代わりをしてやるから、代わりに私を後妻にくれと言い出しまして、そんなオヤジに嫁ぐ位ならどこかお金持ちのおぼっちゃんの愛人になってくるから待っててと言ってこの学園に入ったんです」
え、愛人?妻じゃなくて?
「貧乏男爵家の娘ですから、高位の方の正妻にはなれないのは分かっています。というか父のせいで結婚に全く理想も希望ももっておりませんし、お金貰える愛人位が丁度良いかなと思って」
ペロッと舌を出すアナベル。
いや、その顔は可愛いけれど15歳にしてその思考はどうなのかしら。
立派?いや、立派っていうのもちょっと違う気がするわ。したたかでもないし・・・たくましい。そう、たくましいが合ってるわね。
「クラウディア様のおかげで王太子殿下にお近づきになれたので、なんとか色仕掛けで落として愛人にして貰おうと思ったんですけど、まんまとこちらの思惑を読まれてしまって、逆になぜこんなことをしたのか白状させられてしまいました。失敗したもうだめだーって思っていたら、王太子殿下から今回の提案を持ちかけられて、偽の恋人役をやって囮になったら母の入院費と借金の全額返済と当分の生活費を下さるって仰られたので、1も2もなくOKしちゃいました。命の保証はすると言ってもらえましたし」
レオ・・・鬼畜ね。知ってたけど。
「でも今回のせいでアナベルさんには不名誉な噂が付いてしまったわ。それは平気なの?」
アナベルはカラカラと笑った。
「王太子殿下を誑かした悪女、ですよね。気にしてません!そんな噂より目先のお金です!王太子殿下と接触を持たなくなればそのうち噂なんて消えますし、先程言った通り元々結婚願望持ってないので求婚者が現れなくても全然問題ありません。むしろ断る手間が省けて助かります。王太子殿下にはそういった迷惑料分諸々含めて請求するつもりですから、お気になさらずに」
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明日で本編終了となります。その後編とレオsideとアーサーsideも書きたいなと今の所思っております。(*^_^*)