親密度100%
シルヴィ伯爵は手広く色々な事業をやっていて顔が広い為、夜会は大盛況だった。
入場こそジェイコブに付き添われて入ったが、その後はすぐに逃げた。
ジェイコブは「あ、クラウディア嬢!」と叫んでいたが聞こえないフリして人ごみに紛れ込んだ。
無理。本当にあの人無理。
ねっとりとした視線が首筋から胸元に掛けて往復してるのが分かるし、薄い唇が時折私を見てニヤァとするのが本能的に受け付けない。まるで視線で裸にされている気分だった。
だからこんなドレス嫌だったのよ。
お母様とマリーに脳内で文句を言いながら、出来るだけジェイコブに見つからないように人ごみの中を移動して行った。
帰りはジェイコブじゃなく知り合いの人を見つけて乗せて行ってもらおう。
逃げるついでに知っている人がいないかキョロキョロしていたら、ドアの方が騒がしくなった。
何かしら?
ジェイコブに気を付けながらドアの方を見ると、レオが入場した所だった。
隣にはアナベルがいる。
周囲の貴族が王太子の隣にいるご令嬢は誰だと囁き合っている。
「知らないのか、最近王太子殿下が夢中になっているバート家のご令嬢だよ」
「バート家?聞いたことないな、爵位はなんだ?」
「男爵だって話だぞ」
「男爵!?なんだってそんな地位の低い令嬢を?エストラル侯爵令嬢はどうなったんだ?」
え?ここで私の名前が出て来るの?
「飽きて捨てられたらしいぞ。エストラル侯爵令嬢は美人だがあのバート男爵令嬢は可愛い感じだな。冷たい美人より慕ってくれる可愛い女を選んだってことだろ」
誰が飽きて捨てられたのよ!!
可愛くない女で悪かったわね!!
婚約者でもないのになんで捨てられただの飽きられただの言われなくちゃいけないのよ、もう嫌っ!
噂話をしている貴族の二人に後ろからわざと軽くぶつかる。
「あら、ごめんなさい」
「エ、エストラル侯爵令嬢!!」
噂をしていた張本人が目の前に現れて、二人は驚き慌てふためいていた。
「ぶつかってしまってごめんなさいね。少しよそ見をしていたものですから。お怪我はありませんこと?」
「は、はい。大丈夫です!」
「そうですか、それは良かったわ。ではごきげんよう」
にっこり微笑んで立ち去る。
二人は無言のままだ。
ふぅ、やっと噂話がやんだわ。良かった。
さて、誰か知り合いを探さなくっちゃ。
立ち去った後で残された二人はしばらく呆然と突っ立っていた。
「なぁ、世の中にあんな綺麗な人いるんだな」
「ああ、初めてあんな間近でエストラル侯爵令嬢を見たよ。花の女神かと思った」
「だよな。王太子殿下なんであの人捨ててバート男爵令嬢にいったんだろな」
「王太子殿下が捨てられたのかもよ」
「ああ、そうかもな」
◆
噂話が微妙に変わっていることも知らない私は出来るだけ目立たない様に隅の方に移動して行った。
もはや何のために夜会に来たのか分からないが、今日のミッションはジェイコブに見つからない事だった。
カーテンの影に隠れていると音楽が鳴ってダンスが始まった。
レオとアナベルも部屋の中央に出て踊りだした。
レモンイエローの可愛らしいドレスが踊りに合わせてクルリクルリと回る。
あのドレスが急いで作らせたと言われているドレスだろうか。
小花が散りばめられていて愛らしく、アナベルにとても良く似合っていた。
アナベルが音楽に合わせクルッと回った瞬間アナベルの髪留めがキラッと光った。
ん?
あれはもしかして。
周囲でも数人の貴族がザワザワしだした。
皆アナベルの髪留めに注目している。
イヤリングとネックレスはアナベルの髪と瞳に合わせたアクアマリンだった。
でも、髪留めは違う。
あれはダイアモンドだ。
インディア国では婚約の証に男性からダイアモンドのアクセサリーが贈られる。
通常は指輪だが、中には気軽に付けたいからと髪留めやブローチにする人もいる。
とうとう二人の親密度が100%になったようだ。
レオはアナベルにプロポーズし、アナベルはOKしたのだ。
その証拠があの髪留めだ。
二人は続けて2曲目も踊り、周囲に仲の良さを見せつけた。
二人は中央の光の中にいて、私は隅っこの影で隠れるようにして立っている。
一体私は何をしにきたのか。
今日はもう帰ろう。
シルヴィ家の使用人の誰かに頼めば馬車を出してもらえるだろう。
私はカーテンの影からソッと出てドアへ向かって歩きだしたが、その途中でジェイコブに見つかってしまった!
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