アナベルとレオン
本科終了の鐘が鳴って生徒がバラバラと立ち上がり始める。
リリも隣で専科へ行く準備をしている。
「リリは今日も農学科へ行くのでしょう?」
「ええ、昨日あれからダレル様がOBとして農学科にいらして下さって、とても為になるお話を一杯聞けたからちょっと試してみたいことがあって」
あらあら、ダレルったらリリが心配で顔を出したのね。そうよね、リリみたいな可愛い子をあんな男女比率8対2の場所に一人で置いておけないわよね。
それでも入るのを止めない辺りがダレルの優しい所だけど。
「あの、クラウディア様。ダレル様とはどなたですか?」
隣でアナベルがきょとんとしている。なんと、今日はアナベルの方から私に近づいてきてくれたのよ。
もう私達お友達よね!
「ダレル様はダレル=バーロウ様と言ってリリの婚約者よ」
リリが嬉しそうに微笑む。
「もしかしてバーロウ侯爵家のご子息ですか?最近新事業がうなぎ上りだと言う、あの?」
「あら、ご存じでしたの?ええ、そうよ。その新事業もダレル様が立ち上げたのよ。ね?リリ」
「ええ、ダレル様は優秀なお方ですから」
あらま、盛大に惚気ましたわねリリ。羨ましいことで。
「そうですか、あれはご子息様自らがお作りになられたんですか。あのっ、今日もバーロウ様はお越しになるんですか?」
「え?いいえ。今日はお忙しいので来れないと仰ってましたわ」
「そうですか」
あからさまにアナベルはガッカリする。
アナベルも園芸が趣味なのかしら?
ヒロインも夢中にさせる肥料を作っちゃうなんてやるわね、ダレル。
「アナベルさんは今日はどちらの専科へ?また農学科へ行かれますか?」
「いえ、今日は止めておきます。クラウディア様は今日はどちらへ?」
「私は今日は政治経済学科へ行く予定です」
レオと約束したからね。
「まあ!政治経済学科ですか?あのレオン王太子殿下がおられるという。私も一緒に付いて行ってもよろしいですか?」
「え、ええ。構いませんけれど」
なんだろう、グイグイ感が凄い。
ヒロインちゃんはやっぱりレオ狙い?
「きゃあ、嬉しいです。さ、早く行きましょう!」
アナベルは可愛く悲鳴を上げて、私の腕に自分の腕を絡め引っ張っていく。
「あ、じゃあリリ。また明日ね」
振り返ってリリに挨拶する。
リリは何やら変な顔をしていた。
どうしたのかしら?リリ。
気になったけれども、アナベルに強く引っ張られているので止まれない。
何かダレルとあったのかしら?
でも朝は変じゃなかったし。
明日もおかしかったら話を聞いてみよう。
そう決めてアナベルと二人で政治経済学科へ向かった。
「アナベルさんは昨日の農学科はどんな印象でした?」
本当はルーカスに惹かれた?と聞きたいのだけれど、そんなことまだお友達になったばかりで聞けないから遠まわしに聞く。
「特に惹かれるものはありませんでした」
「農学科は農園を持っている方の学科ですものね。アナベルさんのご実家は農園をお持ちではないの?」
「はい。うちは領地を持たないただの男爵家ですから」
あーそうだったかも。ゲームではヒロインの実家までは詳しく出なかったから良く知らないけど、男爵家だったのは確かだ。
「では、農学科は必要ありませんね」
じゃあルーカスの線はなしかな。
「そうですね。でもちょっと気になる人がいるので、たまに顔を出すかも知れません」
おお、もしかしてそれはルーカスの事!?
さすがヒロインちゃん。ルーカスのあの影に気が付いたのね!
ルーカスは幼い頃から友達が出来ても身分がバレると皆自分の傍からいなくなってしまうことから、人と深い関係になることを恐れていた。
表向き親切な好青年だけれど、その実とても傷付いているルーカスをヒロインが丸ごと受け止めてあげることで、ルーカスは救われるのだ。
うんうん、さすが虹恋のヒロインちゃんだ。何も知らずとも気が付くなんて。
これでルーカスも大丈夫ね!
良かった良かったと安堵していると、政治経済学科へ着いた。
エリート学科なだけあって希望者が殺到していた。
「まあ、これでは今日は見学出来そうにないわね」
ドアの前にいる大勢の1年生を遠くから眺めていると、対応していた上級生が私達に気が付いた。
「失礼。クラウディア=エストラル侯爵令嬢でしょうか?王太子殿下から連絡を受けております。どうぞこちらへ」
大勢の入科希望者を尻目に別のドアから中に入れてもらった。
良いのかな?何かズルした気分。
隣ではアナベルが嬉しそうにはしゃいでいる。
「やっぱりクラウディア様と一緒にいるとお得ですよね」
「え?何か仰った?」
「いえ、別に」
にっこりとほほ笑まれる。
そう?ならいいけど。私の頭の中はアナベルとレオのことで一杯だ。
さあ、いよいよヒロインとメインヒーローが出会うわよ。
緊張しながら待っていると、奥からレオが現れた。
相変わらずキラキラエフェクトでも掛けているんじゃないかと思うほど、レオの周りの空間が光って見える。
アナベルを見ると完全に魂が飛んで行っている。
まあ、生レオを初めて至近距離で見るとそうなるわよね。
「ディア、いらっしゃい。待ってたよ」
キラキラ笑顔のおまけ付き。
直撃を受けたアナベルの魂はもはや成層圏。
アナベル、しっかり!戻ってきて!!
「外に一杯希望者がいたのに、私達だけ入ってしまって良かったのかしら?」
「構わないよ。外の希望者には後から試験を設けると言っているのに勝手に騒いでいるのだから。逆にマイナスだという事に気づかない愚かな連中だよ」
怖っ!!
まあ話を聞かない時点で入科出来ないわよね。ここはエリート学科だし。
「それよりそちらのご令嬢はディアの新しいお友達?」
ついにレオがヒロインに気がついた。
ドキドキするわ。
「ええ、そうよ。同じクラスのアナベル=バートさん。彼女も一緒に見学させてもらっても良いかしら?」
「ディアのお友達なら大歓迎だよ。初めましてレオン=マクレガー=バッテンベルクです。ディアがいつもお世話になってます」
レオンが差し出してきた手に震える手で乗せるアナベル。
レオンはそっとその手を持ち上げてアナベルの手の甲にキスをした。
「!!!!!」
アナベルは声も出せずに失神した。
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