レオとお祝い
リリは結局その日のうちに農学科へ入ることを決めてしまい、私は明日から一人で専科を回ることになった。
幼い頃からただただ修道院行きを回避するためだけの選択をしてきたから、いざ自由になるとやりたいことが一杯ありすぎて困る。
やはりここは魔術学科に入り前世で憧れていた魔女っ娘になるべきだろうか。
いやしかし女騎士というのも捨てがたい。
でも、もしかしたら一生結婚出来ないかもしれないということを考えると、政治経済学科に行って官僚務めの道を考えるのが今後の為にはベストかもしれない。
帰りの馬車の中であーでもないこーでもないと考えていたらいつの間にやら館に着いていた。
「ただ今戻り、うぷっ」
玄関ドアを開けると、いきなり大量の薔薇の花束が顔面に襲い掛かってきた。
「え、なに?」
一面真っ赤に染まった視界を手で払いのけると、
「お帰り、ディア」
レオが笑顔で立っていた。
え?ここ私の家よね。王宮じゃないわよね。
「なんでうちにレオがいるの?」
「君のクラスに行ったら君は専科の見学に行ったって言うし、それなら政治経済学科に来るかなと待っていたのに来ないし、仕方ないから君の家で待たせてもらった」
持っていた花束を執事に渡すレオ。
「私に何か用だったの?」
「もちろん、今日は君の入学祝いだからね。ご両親にも許可を得てるから。さあ、行こう」
入ってきたドアに向かってそのままクルリと方向転換させられて押し出される。
「え、ちょっと待って。私帰ってきたばかりで着替えとかしてないんだけれど。ていうか、両親の許可の前に私の許可を取って!」
私の訴えをレオは笑って一蹴した。
「ドレスはこちらで用意しているから大丈夫だよ。それに君に許可を取ってしまったら、サプライズにならないじゃないか」
そうだろうけど、そうなんだろうけど。でもこれって拉致じゃないのかなぁ~。
あー、玄関でお母様が笑顔で手を振ってらっしゃるわ。
両親公認で拉致られていく~。
レオに連れられて今度は王宮の馬車に乗せられ再び馬上の住人となった。
「ねぇ、どこに行くの?」
「ん?まずはマダム・リッツカールトンのお店かな」
ゲッ、あの予約殺到で新着ドレスを作るには1年は余裕で待たないといけないお店?
「職権乱用したの?」
王子様特権使って無理やりねじ込んだとか?
「まさか、ディアがそういうこと嫌いなの知っているのに、そんなことするわけないじゃないか。ちゃんと1年前に予約したよ」
むむ。
ぬかりがないさすが完璧王子様。
「でも、私1年前とはだいぶサイズ変わったと思うけど」
なにせ成長期なもので。
身長も伸びたし胸も大きくなったし。1年前のサイズで作られても多分入らないと思うわ。
「そうだね、予測で作らせたからもしかしたら急遽サイズ変更しなくてはいけない個所が出て来るかもしれない。そうしたらごめんね」
にこっと綺麗に微笑まれてしまったらもう何も言えない。
アーサーも格好良く育ったけれど、例外なくレオもものすごく格好良くなった。
ゲームキャラ人気No1だったのも頷ける。
彫刻のような整った顔立ち。気品ある立ち居振る舞い。それでいて圧倒する存在感。
そういえば私もゲーム始める前は、アプリで宣伝しているメインヒーローのレオが格好良くてインストールしたんだった。
始めたら余りにもレオ攻略が簡単すぎて飽きちゃって、すぐアーサーに移行したけど。
男性なのに花束持って絵になるのは世界広しといえどもレオ位だろう。
「そういえば花束のお礼まだ言ってなかったわね、ありがとう」
「私の気持ちだからね。受け取ってもらえると嬉しいよ」
こちらの負担にならない言い回しもさすが王子様だ。
リッツカールトンの店に着き早速レオが注文したドレスを試着した。
白いレースがふんだんに使われたオフショルダーのドレスだった。
デザインは大人びているが、レースや白のドレスが可愛らしさを表現していて、ちょうど大人の仲間入りをした15歳の女性にピッタリのドレスだった。
「まあぁ、良くお似合いですわお嬢様。15歳ともなると皆背伸びをしたがって色気重視なドレスを選びがちですけれど、そんなもの年を取ってからいくらでも着れます。それに比べてこういったドレスはまさに今しか着れないものですわ。レオン王太子殿下は女性を引き立たせるコツを良くご存じでいらっしゃいますわね、お嬢様のお綺麗な銀髪と映えてまるで星の精霊のようですわ」
うん、悔しいけれどレオは私よりセンスあると思う。
髪を結われお化粧も軽くしてもらってからレオの前に引き出される。
レオは他の女性従業員となにやら話をしていたが、私が出ていくと振り返り破顔した。
イケメンのキラキラオーラが眩しいっ!
「よく似合っているよ、ディア。とても綺麗だ。こんなに美しい君を独り占めできるなんて嬉しいよ」
そう言って私の手の甲にキスを落とすレオ。
「ありがとう」
超絶美形のレオに褒められるのも面映ゆいけれど、褒められて悪い気はしない。
それに鏡の前でレオの隣に立って気が付いたのだが、何気に今日のレオの服とペアのような感じだ。
多分私のドレスに合わせて服を選んだのだろう。
こういう抜け目のない所が凄いと思う。同年代の男性でこれが出来る人はいないだろう。
それともう一つ。
サイズがね、ぴったりだったの。
1年前から比べて身長もバストサイズも変わっているのに。
こんなに体にフィットしたデザインなのに、どこも苦しい所もブカブカな所もない。
レオの未来予測恐ろしや。
折角綺麗なんだからと言われ、馬車に乗らずレオと腕を組んで街中を歩く。
この辺りは上流階級専門店ばかりだから治安も良いしね。
昼食を予約してくれていたようで、レオ御用達店の特別室に案内される。
出てきた料理はどれも絶品で、あまりの美味しさに完食してしまった。
おかげでちょっとドレスが苦しくなってしまった。失敗失敗。
口直しに食後のお茶を楽しんでいると、カップに口紅がついていることに気が付いた。
そうだった。リッツカールトンのお店でお化粧してもらっていたんだった。
いつもすっぴんに近いから忘れてた。
折角だからお化粧直ししようかなと席を外すことを伝えたら、レオがそれなら私がしてあげるよと言ってきた。
私から口紅を取り上げて私の口に塗ろうする。
「え、レオ出来るの?」
「ハハ、やったことはないけど多分出来るよ」
えー怖いんですけど。
しかしレオはやってみたいようで口紅を返してくれないので、仕方なくやらせてみることにした。
「見られていると緊張するから目を瞑ってもらっても良い?」
お願いだからはみ出さないでねと願いながら、大人しく目を瞑る。
すると首元にシャラッと冷たい感触が降りてきた。
「え?」
思わず目を開けて首元を見ると綺麗なアメジストのネックレスが掛かっていた。
「これ・・・」
「入学祝いのプレゼントだよ、君の瞳に合わせて作らせたんだ」
「こんな高価なものいただけないわ」
こんな大きな宝石一体いくらするの?
「いらないなら捨ててくれて構わないよ。そのドレス同様君の為だけに作られた物だから、君がいらないというのなら捨てるしかない」
「そんな言い方ズルい」
高身長のレオの目を見て睨むとレオがうっと詰まった。
「良いじゃないか、君は高価なものを何一つ私にねだらないんだから。入学祝いにこれ位させてくれ」
「この間の私の成人祝いの時も、今回は特別だからって高価なアメジストのイヤリングプレゼントしてくれたわよね」
それを言って気がついた。このネックレスあのイヤリングと対だわ、デザインが一緒。
一気に2つ渡すと私が断るから、わざと二回に分けたわね。
「ディアもはれて成人になったし、これからは夜会の参加も増えるだろう。アクセサリーは持っていて損はないよ」
それはそうだろうけど、婚約者でもない人からあんまり高価なものを貰うのは気が引けてしまう。
それを言うとじゃあ婚約しようって言われそうだから言わないけど。
子供の頃ならまだしも、ゲーム以上にイケメンに育った今のレオに迫られるとウッカリOKしてしまいそうになるから、なるべくそういう会話は避けたい。
折角ここまで無事婚約者にならずに来れたんだもの。最後の最後でコケたくないわ。
決して私の意思が弱いわけじゃない、イケメンの威力が半端ないのよ!
「じゃあ今回はありがたく頂くけれど、次はこんな高価なのやめてね。貰っても受け取らないからね」
「分かっているよ。でも次の夜会ではそれを付けて私と踊ってね」
ドサクサに紛れて次の夜会のダンスの予約をされてしまった。
やっぱりレオは抜け目がない。
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