婚約者お断りします。
お母様とお父様がお帰りになられお嬢様をお呼びですと侍女に言われ、私はゆっくりと歩いてリビングへ向かった。
あれから色々対策を練ったのだ。
まず第1に私から王子様の話は絶対にしない。
第2にさっさと他に婚約者を見つける。
これが私のハッピーライフへの道筋だ。
ノックをしてリビングに入る。
淡い金髪で紫瞳の美人なお母様。
星のように綺麗な銀髪のイケメンお父様。
眼福眼福。
私が部屋に入ると、お母様が体は大丈夫?と聞いてきた。
「はい、もう大丈夫です。ちょっと驚いただけですから」
前世を思い出してという言葉は飲みこんだ。二人はじいやの鬘のことだと思って苦笑していた。
「大変だったね、まあこちらに座りなさいクラウディア」
「はい」
大人しく私が反対側のソファに座ると、お母様とお父様が優しくこちらを見ている。
なんだろうと思っていると、お父様が私に質問してきた。
「アンブローシア(お母様の名前ね)から聞いたのだが、ディアは王子様が大層気に入ったそうだね」
「!」
内心ゲッと思ったが、帰りの馬車で散々王子様をほめたたえる言葉を言ってしまったのだから今さら取り消せない。
私は頭をフル回転させて答えた。
「ええ、私王子様を見て甘えていた自分が恥ずかしいなって思ったんです。王子様は私と2歳しか違わないのにあんなに立派で堂々としていらして、私も見習わなくてはいけないなって思ったんです」
決して恋愛感情じゃありません人間として尊敬したんですよ!とアピールする。
が、その努力は恋愛至上主義脳のお母様によって変な方向にねじ曲げられた。
「まあぁ、普通の女の子はレオン王子の顔やら肩書で好きになるのに、ディアは王子の態度や心がけで好きになったのね、偉いわディア。ねぇあなた、ディアがこんなにもレオン王子のことを好きなんですもの、なんとかならないかしら」
お父様にしなだれかかっておねだりするお母様。
ちょっと待ってお母様!私はレオン王子が好きだなんてひとっことも言ってません!!!
お父様もニヤニヤしていないで反対して反対!
「そうだなぁ、私としてはもう少しディアを私たちだけのディアにしていたかったけれども、アンブやディアがそんなに望むのならなんとかしないでもないかな」
なんとかしないでーーーーーーーーーーーーーーーーー。
「まって、まってくださいお父様お母様。私レオン王子の事は尊敬してますが、好きとかじゃありません」
私が必死に否定しても二人してあらあら照れちゃってと斜め上の解釈をしてくる。
やばいです。このままだとGoTo修道院です。
「私」
考えろー考えろー。
頭の中がいつもの倍速で動いていく。
どうしたら婚約を回避できる?
「私・・・私は、将来はお父様と結婚しますから王子様とは結婚いたしません!!!」
とっさに浮かんだのは秘儀お父様大好き作戦!
私の返答が予想外だったのかお父様とお母様がポカ―ンとした顔でこちらを見ている。
「あのね、ディア。お父様はお母様と結婚しているからディアとは結婚できないのよ。ディアには素敵な王子様がいるでしょう?」
お母様が至極まっとうな説得をしてきますが、私は断固として受け入れません。だって受けいれる=修道院へGoですもの。
「そんなのズルいです。私もお父様と結婚します。王子様よりお父様の方がずーっとずーっと格好いいです。そんなに王子様が良いならお母様が王子様と結婚すればいいじゃないですか」
プンっと横を向くとお母様が、んまぁディアと怒る。
「まぁまぁ、アンブ。まだディアは小さすぎて結婚の意味が分からないんだよ。今回はディアの意見を聞いてこちらから働きかけるのは止めようじゃないか」
私のラブラブ光線が効いてお父様がデレデレとした顔でお母様を諌める。
王子様より自分の方が格好いいと言われて嬉しかったみたいです。
「でもあなた早く動かないと王子様が誰かに取られてしまいませんこと?」
誰かに取られて構いませんよ、お母様。
「どうかな?ここだけの話レオン王子の婚約者の第一候補はうちのディアだから、そう簡単に他の令嬢に話を持っていくとは思えないけれど。とりあえず明日のお茶会で二人の様子を見てみたらどうかな?」
やっぱり私が第1候補ですか、お父様。
お父様もお母様も私が幼くて意味が分かっていないと思って話しておられるようですが、私はちゃんと理解しております。なにせ24年分の記憶がありますので。
お二人の前ではディアなんのことか分からなーいって顔しておきますけどね。
素知らぬ顔で紅茶を飲みながら、私は明日のお茶会をなんとかしなくちゃと考えていた。
そして大人の知識があっても地頭が良くない私の考えた策は典型的な「お腹が痛ーい」というものだった。
朝起きてすぐ言うとお医者様を呼ばれて仮病だとバレてしまう恐れがあるから、お着替えした後発動することにした。
「いたたたた。おなかが痛くて動けない。動きたくない。今日はもうベッドの中にいるー」
折角着せてもらった綺麗なドレスを自分でポイッと脱ぎ捨ててベッドにもぐりこむ。そしてタヌキ寝入り。
侍女から連絡を受けたお母様が私の部屋に入ってきて私を揺り起した。
「んーお母様?いたっ、いたたたたたた。折角寝て痛みが取れていたのにお母様に起こされてまた痛くなっちゃった。うわあぁぁぁぁん」
私の嘘泣きにお母様オロオロ。
「ごめんなさいディア。お医者様急いで呼ぶわね」
「いらない、寝てれば痛くないもん。それよりお母様もう行く時間でしょ。おーひさま待たせちゃダメでしょ。ディア一人でだいじょうぶだからいってらっしゃい」
布団の中に頭ごともぐりこんで手だけでバイバイする。
お母様は私が心配でしばらく私の部屋でウロウロしていたが、時間ですと侍女頭に促されて渋々出発していった。
はー暑かった。
私は、お母様を乗せた馬車が屋敷の門を出ていく音を確認してからスポッと布団から顔を出した。
作戦大成功。
なんだか学校へ行きたくない小学生の知恵レベルの作戦だったけれども、とりあえず成功したから良しとしよう。
見てなさいシナリオライター、私は絶対に王子様の婚約者から外れてみせる!
わーはっはっはっはっはと高笑いしていると、ノックの音がしてアンがお医者様を連れて入ってきた。
お母様、結局お医者様呼んじゃったのね。
嘘がばれない様にお医者様がお腹を押すたびに適当に痛いですー痛いですーって言っていたら、食あたりでしょうとものすごく苦い飲み薬を処方された。
青汁より苦い・・・。
でもこれも修道院回避への道の一つです。私は頑張ります!!