攻略対象の公爵子息
農学科は南の校舎のはずれにあった。その特質上畑が必要だったりするので、生徒数が多くない割に一番日当たりの良い場所をあてがわれていた。
そこに所属する生徒のほとんどが農園等を持つ地方領地の子息で男女比率はなんと8対2だった。
確かにこれではリリ一人で見学に来るのはキツかっただろう。
3人で見学に来たことを伝えると、奥からプラチナブロンドの青年が現れた。
あら、この人って。
「初めまして、女子生徒が見学に来てくれるなんて嬉しいな。僕は農学科のリーダーを務めています3年のルーカス=サンドフォードです。どうぞ宜しく」
やっぱり。
攻略対象者の公爵子息だわ。
アナベルをそっと観察してみるが、ふむ。顔合わせだけでは何も変化なし。
当たり前か。
親切なルーカスに連れられて農学科を一通り見学することになった。
リリは実に熱心にルーカスの説明を聞いていた。
アナベルは良く分からない。
私はアナベルとルーカスの観察で忙しくてほとんど聞いていなかった。
一周回ったところでリリは土壌開発をしている部署にもう一度お話を聞きたいからと行ってしまい、アナベルは予定があるというので帰ってしまった。
私一人ルーカスと共に残されてしまった。
二人にされたところで会話もないし、私もアナベルと一緒に帰れば良かったと後悔していた時ルーカスから話しかけられた。
「クラウディア嬢はあまり農学科にはご興味がないようですね」
上の空だったのがバレていたようだ。
「すみません。そんなことないんですけど、ちょっと他に気になることがあって」
アナベルがルーカスに興味を惹かれるかどうか気になって気になって他が頭に入らなかったんです。
「何かお困りごとでしたら力になりますよ?」
柔らかく慈悲深く笑むその顔がレオに良く似ていた。
「ああ、やっぱり良く似てますね」
思わず言ってしまってから、しまった!と口を押さえた。
確かこれは極秘事項だったはずだ。
ルーカスは学園では地方領主の息子となっているはずだった。
恋仲になってから実は公爵子息だと打ち明けられたはずだった。
やっばい、やっちゃったぁ。
どんなに淑女のマナーを勉強しても迂闊な所は本当に昔から変わらない。
何とか今から誤魔化せないかしらと冷や汗ダラダラで考えるが、焦っているせいで良い考えが浮かばない。
「あの、その。違うんです。私が言いたかったのは、つまり」
口から言い訳にしかならない言葉しか出てこない。これではあなたの正体を知っていると言っているのも同然だ。
ルーカスは驚いて私を見ていたが、私の様子に諦めた笑みを浮かべた。
「レオン王太子殿下からお聞きになられたのですか?」
「いえ、いいえ。王太子殿下からは何も聞いておりません。本当です」
私のせいでレオが誤解されるのは申し訳ない。
レオは本当に私に何も言っていないのだから。
勝手にゲームの知識で私が知ってしまっていただけだ。
「本当です、信じてください。王太子殿下はそういうことをむやみに言ったりはなさいません」
「ではなぜ?」
ゲームで知りました!・・・って言えたら良いんだけど。それこそ信じてもらえない。
仕方なく消去法で選んだ。
「笑顔が王太子殿下に良く似てましたし。私歴史の勉強が好きなものですから」
つなぎ合わせて答えを出しました。とちょっと苦しい言い訳をした。
「ハハ、そうですか。笑顔が似ていましたか。初めて言われましたよ、そんな事。折角髪色まで抜いて変えていたのに。こんなにあっさりとバレてしまうようでは私もまだまだですね」
あー、やっぱり髪の色抜いていたのね。
金髪は王家の象徴だから金髪のままだとすぐにばれちゃうもんね。
「公子でいらっしゃいますよね」
「ええ。あなたの仰る通り。私は公子です。先代国王に反旗を翻した愚かな男の子孫です」
インディア国ではクーデターを起こした一族は全員処刑が常だった。
しかし発起人が王家の者であったこと、その末息子がまだ0歳の赤子だったことから0歳の赤子だけは処刑を免れた。
けれどもそのまま王族に置くわけにはいかず、なんの力も権力もない名前ばかりの公爵を付けて臣下に落とされた。
ルーカスはその赤子の子供というわけだ。
レオンとはハトコの関係になる。
インディア国の爵位は上から
公爵
侯爵
伯爵
子爵
男爵
準男爵
騎士
となっている。
通常であればサンドフォード公爵家が臣下の筆頭にくるのだけれど、その諸事情の為侯爵家であるうちがインディア国の筆頭貴族と言われている。
大人達は何も言わない。暗黙の了解でサンドフォード公爵家の存在を消している。
罪人の一族だから。
ルーカスも生まれながらにしてその業を背負わされている。
「僕の正体に気が付いたのでしたら、もう近寄らない方が良いですよ。あなたに変な噂でも付いてしまったらレオン王太子殿下に申し訳ないので」
私に壁を作って去って行こうとするルーカスの腕を掴んだ。
「なんですか?エストラル侯爵令嬢?」
さっきまではクラウディア嬢って呼んでくれていたのに。
「ディアです」
「はい?」
「私の愛称はディアです。これから私の事はそう呼んで下さい。ルーカス様はこの学園の先輩で私は後輩にあたるわけですから愛称で呼び合ってもおかしなことではありません。できればお友達になっていただけると嬉しいです」
「あなたは、ご自分が何を言っておられるのか分かっているのですか?」
「はい、優秀な先輩とお友達になれればテストの時とか便利で良いなーと思っております」
知ってるんだ、ルーカス様が成績良い事。ゲームで確か学年3位だったから。
1位は当然レオだけどね。
「レオン王太子殿下に見てもらえば良いではないですか」
「王太子殿下に見てもらったら依怙贔屓と皆から言われてしまうではありませんか。地方領主の息子のルーカス様なら誰も怒る人はいないでしょう?」
「あなたって人は」
私の言いたいことが分かってルーカスは泣きそうな顔をした。
「分かりました。良いでしょう、お友達になりましょう」
私が手を差し出すとルーカスも手を出して私たちはがっちりと握手した。
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