王子Side ~レオンの独り言2~
クラウディアの部屋は侯爵夫人が言っていた通り本に溢れていた。
私は立場上必要であったから詰め込んだだけの知識をクラウディアは楽しいから読んでいると言った。
同じことをしていても彼女と私の見る世界は正反対のように思えた。
羨ましい。彼女の傍にいれば自分もその景色が見れるだろうか。
もっと彼女のことが知りたい。
婚約者になることを嫌がるクラウディアの為にまずは友人から入ることにした。迂闊な彼女は「友達」というワードを使えば大抵のことは甘受してくれた。
クラウディアを王太子妃にするには色んな段階を経なくてはならない。
王妃教育には時間がかかる。政治経済歴史世界情勢の勉強等出来るだけ早い段階で王宮で勉強をした方が良い。
だが勉強させようにもクラウディアはまず王宮に来ること自体を嫌がる。
そこで私は王宮が保管する大量の本を餌にクラウディアを呼び寄せることに成功した。
初めて王宮へきたクラウディアは私の予想以上に喜んで図書室の本を読み漁った。大人でさえ辟易しそうな分厚い本を嬉々として開いている姿は異様な程だった。
1冊の本を読んでいた時クラウディアが私に尋ねてきた。
「ねぇ、この単語なんて意味かしら。グスタフ王は謁見中にゲップしたとあるのだけれど、その間の単語の意味が分からないの。グスタフ王は『ケプ』とゲップしたの?それとも『グエッフ』とゲップしたの?どっちかしら?」
「・・・そこって重要なの?」
「まあ、当然でしょ。もし『ケプ』ならグスタフ王はとても繊細で可愛らしい王だったと想像出来るし、『グエッフ』だったら豪胆で髭もじゃの人を想像するじゃない」
そういうものなのか?
「その単語は強調を意味するから『グエッフ』が正しいと思うよ」
私が教えるとクラウディアは目を輝かせて喜んだ。
「まぁ、そうなのね。じゃあグスタフ王は大柄のクマさんみたいな人だったに違いないわ。こーんな大きなお肉とか毎日食べてそうよね」
こーんなの部分で両手を広げてジェスチャーするクラウディア。
私もこの本を読んだがその場面でそんなことを思ったことはなかった。
ただグスタフ王が謁見中にゲップをしたという事実だけを頭に入れていた。
クラウディアの想像力が豊かなのか私が貧困なのか。
一度読んだ本もクラウディアがいると全く違った側面が見えてとても楽しかった。
王宮に来ることも私と会うことも最初あんなに拒否していたから、仲良くなるには時間が掛かるかと思ったが、一度友達と言うカテゴリーに入ってしまうと後は緩々だった。元々人懐っこい子なのだろう。
1日一緒にいただけでクラウディアは私に懐き、私もクラウディアの前では気取らなくて済んだ。
クラウディアの傍は居心地が良かった。
クラウディアは私を王太子として見ない。あくまでレオンという存在があり王太子という付属が付いた。
王太子なのだから。王太子でしょう。王太子らしくない。王太子の自覚を持ちなさい。
そんな言葉に囲まれていた私がクラウディアの前でだけはただのレオンでいられた。
もっと彼女と親しくなりたい。
私は一度拒否された愛称呼びをクラウディアに再度提案した。今度は自分の愛称も伝えた。
断られることを半ば覚悟していたが、友人枠に入った私はあっさり承諾された。
嬉しかった。
これでまた一歩君を手に入れる道を進めた。
クラウディアが何度目か王宮に訪れたころ、そろそろ王宮への恐怖もなくなった頃かとマクスウェル先生の授業に誘ってみた。
王妃教育への第1歩だ。ここは外せない。
勉強好きなディアの事だからいけるんじゃないかと思ったが、警戒心を出されあっさり拒否されてしまった。そこで君だけが特別なわけではないとアピールして誘い込んだら、まんまとかかった。
アーサーは無理やり引きずり込まれたことでブーブー文句を言っていたが、元々彼の父親からも彼の勉強嫌いについて悩み相談を受けていたから都合がよかった。
ただアーサーには昔から逃亡癖があるので、決して逃げるなとくどいほど念押しした。それでもこの男は私との約束などあったか?位の意識しか常に持っていないので、油断はできなかった。そこで念には念を入れ早朝にアーサーの家に従者を送り、無理やり王宮へ引っ張ってきた。
アーサーを勉強同伴相手に選んだのは私の側近という他にも、彼が女の子からすこぶる人気がないことを知っていたからだ。同性人気はものすごく高いのに、その目つきの悪さと態度の悪さから異性に敬遠されていることを知っていた。
シモンズ伯爵夫人が婚約話を持ち掛けてもどこの令嬢もアーサーを怖がって受けてくれない。受けてくれたとしても顔合わせで泣き出したりしてまとまらないとお茶会でこぼしていた。
だからディアに紹介しても大丈夫だろうと高をくくっていた。
しかしアーサーを紹介する日ディアは明らかにいつもより気合の入った格好をしていた。
いつもはつけない香水までつけていた。
嫌な予感がした。
案の定ディアはアーサーがどんなに邪険にしても気にする様子が全くなかった。
むしろ時々嬉しそうにアーサーを見ていた。
失敗した。
ディアを普通の令嬢と同じに考えてはいけなかった。
私は二度とアーサーとディアを会わせまいと決心した。
しかしアーサーが来ないと知ったディアはそれなら自分も来ないと言い出した。私は仕方なく再びアーサーを呼び寄せることにした。
二人の仲が親密にならないようにアーサーにはくどいほど釘を刺しておいた。
クラウディアに手を出すことは絶対に許さないと。
アーサーは女になんか手ぇ出さねーよ!と言っていたが、魂が似ている二人が傍にいるだけで惹かれ合う気がしてならなかった。
戦技盤でアーサーがディアに負けた後、アーサーがディアに向かって腕を振り上げた。
アーサーは粗野だけれど女性に手を上げることは絶対にしない。
頭では分かっていてもクラウディアが殴られそうになっている図を見ただけでとっさに飛び出してアーサーを殴り倒してしまった。
いつも以上に強い力だったと思う。
アーサーに抗議されたが、やった自分が一番驚いていた。
私は幼い頃から感情のままに動くな、大局を見ろと言われてその通りに行動してきた。
その私が後先も考えずに行動してしまった。
なんということだろう。
自分で自分が信じられなかった。
クラウディアに良く思われたくて、いつもは勝つと面倒そうだからと適当に負けていたアーサーとの戦技盤も初めて本気を出した。
結果は私の全勝だった。クラウディアは私を尊敬のまなざしで見た。アーサーよりも上だと証明できて嬉しかった。
しかしクラウディアは負けて落ち込んだアーサーの頭を撫でて慰めていた。
こんなことなら勝つんじゃなかった。私も負けてクラウディアに頭を撫でられたかった。
クラウディアには手を出さないと誓っていたアーサーが大人しく撫でられているのが気に入らなくてつい脅してしまった。
ふとこの間来ていたバーロウ家の招待状のことを思い出した。明らかに私狙いのお茶会だと分かっていたので不参加の予定だったのだが、先日母上から聞き捨てならない噂を聞いて引っかかっていた。
バーロウ家が奥手で引っ込み思案な子息の為に婚約者を探していると。
つまりこのお茶会開催はバーロウ家の息子と娘のお見合い場なのだ。
家柄からいってもバーロウ家はディアを狙っているに違いない。
ディアに確認を取ると侯爵夫人の命令で参加予定だと言う。
エストラル侯爵夫人の真の狙いは分からないが、大方ディアが私との婚約を本気で嫌がった時の保険のつもりだろう。
そうはさせるものか。
私も急遽参加することにして、私が動けない時の保険用にアーサーも参加させることにした。
お茶会では案の定大勢のご令嬢に囲まれて動けなかった。
隣には頭を盛りに盛ったバーロウ侯爵令嬢がガッチリキープしていてディアに近寄れない。
あわよくば衆目の中ディアと親しげに会話して周囲とダレルをけん制しようと思っていたのだが、肝心のディアが私の姿を見ると逃げまくる為うまく行かなかった。
そうこうしている内に侯爵夫人に言われていたのかダレルがディアに近寄って行った。
遠目から見てもディアに近寄りたくてウロウロしていたのが分かっていた。私は隅でのんきにジュースを飲んでいるアーサーを呼び、ディアの傍にいてくれるよう頼んだ。
アーサーは面倒くさそうにしながらも従ってくれた。しかししばらくすると二人の姿がパーティのどこにも見えなくなった。
何か事件にでも巻き込まれたのではないかと私は密かに影を使って調べさせた。
影はしばらくすると庭の外れの東屋で二人が寝ていることを報告してきた。
呆れると同時に脱力した。
こんなところに来てまであの二人は何をしているのかと。
他の子息や令嬢は少しでも目ぼしい結婚相手を探したり人脈を広げようと幼いながらも懸命になっているというのに、あの二人はなんて自由な。
羨ましくあったが叱らないわけにはいかない。二人はこの国の筆頭令嬢と私の側近なのだから。
まあそのおかげでディアには私のダンスレッスンパートナーを承諾させられたから結果的には良かった。ダンスも王太子妃となるには必須科目だからね。
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