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王子Side ~レオンの独り言~

 私はレオン=マクレガー=バッテンベルク。

 インディア王国現国王の長子として生を受け、王太子として幼き頃より厳しく教育を受けてきた。


 曰く。感情に任せて行動をしてはならない。

 曰く。喜怒哀楽を出してはならない。

 曰く。瑣末なことに囚われず大局に立って図るべし。

 

 感情を持っているのに、その感情のままに表現することは私には許されなかった。

 笑いたくなくとも笑わなければならず、怒りたくなくとも怒らねばならなかった。


 その場その場で相応しい感情を表せなければ王太子失格だと罵られた。


 私は幼いながらも周囲の大人たちを観察し、いつどのような場面でどの感情を出せば正解なのかを読み取り、その通りに表現してきた。


 おかげで私の顔にはいつも面で作ったような笑みが張り付けられた。

 そうしていれば人々は勝手に私を慈悲深い王子だと勘違いしてくれた。

 

 私の真の感情など周囲の者にとってはどうでも良かったのだ。

 都合の良い王太子殿下という器が存在すれば、中身など必要ない。


 私は齢3歳にして悟り皆の希望する王太子殿下として振舞ってきた。

 幸い記憶力は良かったので教わることは全部吸収した。教師たちはそれも私が将来の国王にふさわしい器であると称賛した。

 


 毎日が自分とは関係のないガラスの向こうの世界のように感じた。


 5歳となった頃、私に弟が出来た。それと合わせて周囲は私に婚約者を作るよう進言してきた。


 インディア国は祖父の代に一度、祖父の弟が周囲に唆され王位簒奪を狙ってクーデターを起こしかけた事がある。

 その時賛同した貴族たちは全員逮捕したが、証拠不十分によって免れた貴族達が何名かいた。

 

 その残党どもが再び私の弟を傀儡にして担ぎ上げ、クーデターを起こすことを懸念したのだ。

 

 また悲劇が起きる前に、私の地盤をしっかりと固め隙を作らぬよう後ろ盾となってくれる大貴族のご令嬢を婚約者にあてがおうということだった。


 その為王宮では3日間に渡って王妃主催のお茶会が開催された。参加条件は上級貴族のみ。

 全員が私の婚約者候補達だ。


 だがいざ大量のご令嬢達に引き合わされた所で、正直言って差異がなかった。髪の色がちがうとか瞳の色が違うとか。ドレスの色が違うとかそんな間違い探しのような感じだった。


 そんな中私にベッタリとくっついてきた少女がいた。最初の挨拶でエストラル侯爵夫人の隣にいた女の子だ。銀髪が見事で覚えていた。

 

 ということはこの子が母上たちの言っていた私の婚約者候補No.1だろう。

 幸い顔の区別もつくし、なによりこの子が傍にいれば他の女の子達が寄って来ないのが楽で良いと思った。


 思いっきり優しく接して私に惚れるように振る舞った。案の定幼い少女は私に夢中になった。


 後は待っていれば向こうから縁談を申し込んでくるだろう。そう思っていたのに、なぜか(くだん)の少女はそれ以降お茶会に参加しなかった。


 何か私は失敗したのだろうか。少女が現れずエストラル侯爵からも婚約申し入れがなかったせいで、私の婚約話は一旦保留になってしまった。


 その後も何度か候補者達を王宮に呼んだが、あの少女は2度と私の前には現れなかった。


 もう他の候補者達の中から選定した方が良いんじゃないかと言う声が高くなってきた頃、母上が私に明日お昼前に中庭の通りの道を歩いてくるよう命じてきた。


 どうやら誰かと私を引き会わせたいらしい。

 誰でも良かった私は快く返事をした。


 昼前に言われた通りに中庭の横の道を通ると母上が誰かとお茶をしていた。

 予定通り呼び止められ挨拶に行く。

 そこにいたのは5年前1回だけ会ったきり消えた少女だった。


 相変わらず見事な銀髪にエストラル侯爵夫人譲りの紫の瞳を持った少女は、誰もが認める美少女に育っていた。


 前回何に失敗したか分からないが、今回は失敗しない。


 普通の女の子であれば喜ぶはずの言葉で褒めたたえたのに、それを聞いた少女はほんの一瞬だが、ものすごく気持ち悪そうな顔をした。

 

 なぜだ?私は一体何を間違えた?


 頭の中は混乱していたが、母上に少女をエスコートするよう言われ笑顔で了承した。


 私が手を差し出すと渋々といった様子で少女は私の手を取った。


 これ以上の失敗は出来ない。何とか挽回をしないと。


 私は顔にいつもの笑みを浮かべ一生懸命話しかけたが、少女はつれない返事を返すばかり。


 そんなに私が嫌いか。


 私だとて私を嫌う少女を無理やり傍に置く趣味はない。

 女など放っておいても王太子の肩書があれば勝手にやってくる。


 しかしこの5年で予想していた通り、怪しい動きをしだした貴族達がいる。エストラル侯爵家の後援がもらえるものならば今は貰っておきたい。

 父上や母上も同じ考えだった。


 だから私はこの失礼な少女に対しぐっと我慢をして付き合った。

 少しでも距離を縮めようと愛称呼びを提案してみたが、無礼にも速攻で断ってきた。


 普通王太子から愛称呼びを勧められたら嫌でも受け入れるのが貴族としての常識だろう。それなのに何なのかこの少女は。愚かにも程がある。


 しかし少女は愛称呼びは結婚前提の相手でなければ嫌だと言ってきた。


 なんだ、そういう事か。

 つまりこの少女は私が婚約の申し込みをしてこないから不機嫌なのだ。


 簡単な事だった。

 そうと分かればすることは一つ。

 

 場所も丁度花に囲まれているし、子供相手ならこんなものでいいだろうと「結婚しよう」と持ちかけた。

 さすがにそれだけではムードがないかと思い直し、あなたには美貌がある教養がある王妃になるにふさわしいと大げさに褒めたたえてやった。


 少女は紫瞳を大きく見開いた。

 てっきり喜びの涙でも流すかと思いきや、その瞳は一瞬にして憤怒に変わり、少女のビンタが私の頬に炸裂した。


 私は一瞬何をされたか分からなかった。

 打たれたのだと理解した瞬間、一気に少女に怒りが湧いてきた。

 なぜ私がぶたれなくてはならないのか。私はただ少女を褒めただけなのに。


 しかし続く少女の言葉で私が何を間違えたのか分かった。

「スーパーでサンマが1匹100円で安いから今日の夕飯はサンマ焼き位の軽い気持ちで婚約者を決めるんじゃないわよ!私の事なんて好きでもないくせに。そこにいて丁度いいからって私を婚約者にするのはやめて頂戴。あなた私の気持ちなんてこれっぽっちも考えていないでしょう。いえ、きっと自分の気持ちも考えてないわねその分じゃ。お利口さんな王太子殿下でいるのは構わないけど、そんなにガチガチに自分を縛ってて息苦しくならないの?ヒロインちゃんと出会うまであと何年あると思っているのよ。それまでにあなた酸欠で死ぬわよ」


 一気に言い終わった後で見上げる首が辛かったのか、


「ちょっとあなたそこにお座りなさい。早くっ!」


 地面を指差され大人しく座る。私を見下ろせる立場になってちょっと少女は満足したようだった。


「いーい、大体ねなんであなたはそんな諦めた目をしてるのよ。もっと子供ってのは人生に希望を持って生き生きとしているもんでしょう。そんな目をするのは死ぬ間際の老人になってからで良いのよ。子供が夢と希望を失ってたらどうやって国が発展するというのよ。理想を抱いて現実を生きるからこそそれに向けて頑張ろうと思う訳でしょう?そんな陸に打ち上げられた魚のような濁った眼で世界を見ていたって灰色にしか見えないでしょう。少しは自分の心で感じたことに素直に生きてみなさいよ。あなたは私が好き?好きじゃないでしょう。ただ王太子妃っていう隣に座るにふさわしい人形を探していただけでしょう。残念ながら私はお人形じゃないのでお断りよ。都合の良いお人形扱いされたあげくにポイ捨てされて修道院行きなんて真っ平御免なの。あなた自身が今お利口な王太子人形だから見える物も見えなくなっているのよ。心を開きなさい、感じなさい。あなたは今生きているのよ」


 ポンポンと飛び出る今まで聞いたことのない言葉に呆然としていると、少女は満足げに頷いた。


「ほぅら、そんな顔も出来るんじゃない。いっつも能面みたいな顔して嘘くさい笑顔浮かべてるんじゃないわよ、子供なんだからもっと感情のままに振る舞いなさい、あなたは王家の人形じゃないのよ」


 少女の罵倒は私が入っている王太子という入れ物を一つ一つ打ち壊していくようだった。入れ物はひび割れて剥がれ落ち、(レオン)本来の魂が解放されたかのようだった。


 誰も言ってくれなかった言葉。

 誰もが見向きもしなかった(レオン)自身を(王太子)を拒否する少女が初めて見た。 


 おかしくて笑いたくて、でもこの状況で笑ったら少女に怒られそうで、私は俯いて笑いをこらえた。

 しばらくすると私達を探す母上達の声がして、少女は私の前から逃げ出してしまった。


 少女が目の前からいなくなったので、私は足を投げ出して遠慮なく大笑いした。


 ああ、なんて爽快なんだ。

 仰いだ空がこんなにも青いことに初めて気が付いた。


 翌日お見舞いと称して少女の様子を見に行った。少女はまだ寝ているが起こしてくると言われたので、私はそれを断った。大方私を叩いた不敬に気づき昨夜は眠れなかったのだろう。


 それよりも私には話を進めたいことがあった。

 母上や父上には既に相談済みだ。

 エストラル侯爵には父上から話が行くという事なので、私は侯爵夫人を説得することにした。

 

 私とクラウディア嬢の結婚について。


 侯爵夫人は驚いていたが元々私には良い感情を抱いてくれていたようで、あっさりと同意を得られた。

 あとは本人次第だが、これが一番難関に思えた。


 貴族にとって結婚など政略的要素が強いのが当たり前なのだが、無理やり婚約話を進めたところで自分の感情に素直に生きているあの少女が納得するわけがない。

 下手にごり押して進めると家出でもしかねない。

 逃がすつもりはないがそれは未来の王太子妃として外聞が宜しくない。

 

 侯爵夫人とどうやったらクラウディア嬢を攻略できるのか、クラウディア嬢の趣味は何なのか、何だったら彼女の興味を惹けるのか、本人が起きて来る前に散々協議した。

ブックマーク登録&評価を下さった皆様ありがとうございます。<m(__)m>

とても嬉しいです。


やっとチビ達編が終わってくれてようやく2部に入れそうです。

その前にレオの心境を書き込んでみました。

もう少しレオにお付き合いください。

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