第二段階出動
完全美形のただ者ではない王子様と、自分で言うのもなんだけど両親譲りの外見だけは完璧美少女の私と、可憐な一輪の花リリとどこからどうみても育ちのよさそうなおぼっちゃまダレルの4人が集まっていたせいで、いつの間にやら周囲の注目を浴びていた。
「周りの方々の迷惑になりますから、良かったらどこかお店に入りませんか?」
レオが提案し2人が頷いた(というか王子の提案に否と言えるのはアーサーと私位なもんだから)。
レオが先頭に立って案内してくれる。どうやらおしのびの最中に寄る懇意にしている店らしかった。
外観はこじんまりとしていたが内装は上品で上流階級専用のカフェだった。
2階の特別室をレオの顔で借りて改めて座りなおすが、皆何を話したら良いのかとまどっていた。
それはそうだ。いきなりデートの最中に侯爵令嬢と王太子殿下が現れて、なぜかお店に連れて行かれるはめになったんだもの。一体何を話せばいいというのか。
ダレルは緊張のあまり暑くもないのに額に汗をかいていた。
そんな中レオ一人自然体で、顔見知りの給仕に皆の分をまとめて注文してくれた。
私はお茶を待っている間に話を進めようと思ったけれど、一体どうやって切り出したらいいのか悩んでいた。
まさかいきなり実はリリとアーサーの婚約話が出ててねーなんて言おうものなら、ダレルは驚いた後におめでとうと言いながら泣いて逃げ出すだろう。
うーん、何か上手な切り口はないものか。
良い考えが浮かばず悩んでいる間に紅茶が届いてしまった。
王子様注文だから届くのも早いね。
とりあえず飲もうかな。セットのケーキも美味しそうだしね。
ケーキを一口切って口に入れる。
美味し~い。
このフルーツタルト絶品!果実の甘みとちょっとした酸味がいいハーモニーを奏でてる。
お土産に持って帰れないかしら?
思わず笑顔で咀嚼していると、レオが私を見てニコニコしていた。
「ディアは本当に美味しそうに食べるね。見ていてこっちが嬉しくなるよ」
お恥ずかしい。顔に出てましたか。
「ねぇ、君もそう思いませんか?ダレル君」
「え、はい。そうですね、クラウディア嬢はとても美味しそうに食べていますね」
ダレルに無茶ぶりしないでくださいね、レオ。
「違いますよ、好きな女の子が笑顔になっているのを見るのは男として嬉しいですよねって言っているんです。あなたもリリアーナ嬢の笑顔がお好きでしょう?」
「え、はい。もちろんです。リリーの笑顔はとても可愛らしいですから」
おお、何気に愛称呼びしてるじゃないか。
言われたリリは真っ赤になっちゃってるけどね。
「ふふ、仲が良いんですね。二人はいつ婚約するのですか?」
まあ、いいわレオ!なんて自然な流れで聞き出してるの。
「え、こ、婚約だなんてそんな。まだ僕たちには早すぎますよ」
ああ?何言ってるのこのおぼっちゃま君は。私のリリをもてあそぶつもり?
見て見なさい、リリの顔が真っ青になっちゃったじゃない。
「それはいけませんね。リリアーナ嬢は立派な家柄のご令嬢です。二人が婚約するのになんの問題もないはず。まさか遊びで付き合っているとでもいうのですか? 」
レオの声のトーンが少し下がっただけで不興をかったとダレルの表情が焦る。
「ち、違います!僕はリリーと遊びで付き合っているわけではありません。真剣です!リリーが承諾してくれるなら、将来結婚して欲しいと思っています」
「ダレル様」
リリが喜びではちきれそうな笑顔を浮かべる。
「ただ僕にはまだ自信がないんです。リリーを幸せにできる。僕は優柔不断で意思が弱いです。勉強も運動もパッとしないし誇れるものと言ったら土いじりだけ。そんな僕がリリーに結婚を申し込んでいいわけがない。せめてもう少し自分に自信を持ててからとそう思っているんです」
「ダレル様は今のままで十分素敵ですわ。私は今のダレル様を愛しております」
おお、勇気を出したねリリ。
しかしダレルは首を横に振った。
「君の気持ちは嬉しいよ。でもダメなんだ、リリー。僕が今の自分を許せないんだよ。だから待っていてほしい、僕が自分に自信が持てるまで」
「ダレル様」
悲しげにリリが目を伏せた。
「待てないんですよ」
私の言葉にダレルがえっ?と驚く。
あーもう。いらいらして口出しちゃったわ。せっかくいい線までいってたのにこのヘタレ男が!
「クラウディア嬢その意味は?」
ダレルの問いにリリは悲しげにうつむいた。
私はため息を一つついて暴露した。
「リリにはアーサー=シモンズ様と婚約話が出ています。今あなたがリリに婚約を申し込まないとこの話がまとまってしまいます」
「そ、そんな。どうしてそんな大事なことを僕に黙っていたんだい、リリー」
それはあなたがヘタレだからでしょ。
「ごめんなさい」
謝らなくて良いわよリリ、こんなヘタレへちまに。
「リリを責めても仕方がないでしょう。それより問題はリリとアーサー様の婚約話をどうするかです。あなたはどうするおつもりなんですか、ダレル様」
「責めるつもりはなかったんだ、ごめんよリリー。ただ話が突然すぎてどうするって言われても僕には分からない」
分からないで済めば警察はいらないんですよ、おぼっちゃま!
「簡単なことです。あなたが今リリーに婚約を申し込むか申し込まないか。それだけです」
さあ、さあ、さあ、さあ!!!
半か丁かどっち!
私の圧力にダレルがタジタジになる。
「いや、そんなこと急に言われても。無理ですよ、いますぐ婚約なんて」
ダレルの言葉にワッとリリが泣き出して部屋から飛び出した。
「リリ!」
ダレルは追いかけない。しょんぼりした顔で座ったままだ。
レオを見るとすぐに察してくれてリリを追いかけてくれた。
あーもうこのヘタレポンチがぁ!!なぜリリを追いかけないの!!!
このままだと本当にリリを永遠に失っちゃうんだからね!
私が罵るとダレルは泣きべそをかきながら頭を抱えた。
「だって、だって僕がリリーに婚約を申し込んだって、向こうの家がOK出してくれるわけないじゃないか」
「どうしてよ、あなた腐っても侯爵家の子息でしょ。家柄ならアーサーより上じゃない」
「家柄は上でもアーサー君と僕では月とスッポンだよ。将来性が全然違う。アーサー君はあの完璧王子に側近になることを認められた唯一無二の人だよ。その腕はすでに近衛隊でも認められるほどの剣術の天才で、身分ある大人にも物おじせず自分の意見が言えて自分の意思は絶対に曲げない。その姿に憧れている男の子は山のようにいるよ」
な、なんか現実のアーサーとちょっとズレがあるような、ないような?
「それに比べて僕ときたら、侯爵家に生まれたのに影は薄いわ能力は低いわ言いたいこともろくに言えないわで。良い所なんてどこにもないんだ。そんな僕との結婚がリリーにとって良いと思うかい?折角そんな良い縁談がきてるなら、リリーはアーサー君と結婚した方がいいんだ」
やっぱり出たわアーサーの方が幸せに出来る理論。出ると思った。
あー、バカバカしい。
「あの、クラウディア嬢何してるの?」
「えー、耳くそほじってる」
本当は鼻くそほじりたい気分よ。
ほじくった耳くそをフッとダレルの方に吹き飛ばしてやる。
うわって逃げたわ、ザマミロ。
「あのねぇ、アーサーと結婚した方が幸せだってリリが言ったわけ?リリが幸せになれるかどうかなんてリリが決めることであってあなたが決めることじゃないのよ、分かる?そこのとこ」
分かってないでしょうね、分かってないからこんなバカなこと言うんだから。
「アーサーは確かに素敵よ。髪もサラサラのつやっつやで黒い瞳は神秘的で色気があって鼻筋は通っていて口元はいたずらっ子のようなのにフッと笑ったときなんか色気がやばくて、細い首から鎖骨に掛けてのあの芸術的なボディラインと細いのにしっかり筋肉がついた胸板にしなやかな手足の長さと言ったら既製品の服なんて買えないでしょうね。年を追うごとにますます格好良くなるからまぁ見てらっしゃい。って、あらなんでもうへこんでいるの?まだまだ言い足りないわよ私」
序章の段階で潰れていたらお話にならないわ。
「まぁじゃあこの辺でアーサー解説はやめてあげるわよ」
全然言い足りないけどね、ちぇ。
「それに比べてあなたは身長こそ高いけど筋肉なんて全く見当たらないし、顔も1回見れば忘れちゃうような平々凡々だし剣術も出来ない?頭も良くない?アーサーに勝てる要素なんて年が上って以外ないわよね、確かに」
だからこれくらいで凹まないで。
「でもね、リリはあなたが良いんですって。不器用で自分を表現するのが苦手だけどその分誰よりも優しいあなたが好きなんですって」
結婚する理由なんてそれだけあれば十分じゃない?
「リリー」
ダレルが涙と鼻水を流して感動している。
よし、あと一押しね。
「それにね、ダレル。あなたは知らないでしょうけど、アーサーと結婚するのって大変なのよ」
立ち上がって後ろからダレルの肩に手を乗せ耳元で囁いてやる。
「アーサーってすっごい女ったらしなんだから」
ブックマーク&評価をして下さった皆様ありがとうございます。
とても嬉しいです。(*^_^*)
アーサーの世間の評価について書きたくて書いた章なんですが、予想以上にダレルがヘタレで中々進まなくて困りました。次章に続きます。