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おまけ -アーサーと婚約後ー

「どうしたの?ディア」

 突然やってきた私にすっかり母親の顔になったリリが優しく訊ねてくる。

 

「ごめんなさい、リリ。子育てに忙しいのに突然訪ねてきてしまって」

「良いのよ。ちょうど今日はアナベルさんも遊びに来てくれていたの」

 案内された部屋の中でお茶を飲みながら手を振っているアナベルがいる。

 過去には色々あったけれど、すっかり二人は仲良くなったようだ。


「可愛い子供服が手に入ったのでお届けに来たんです。内緒話でしたら私お暇いたしますよ」

 ウィンクしてアナベルが帰る為にこちらに歩いてくる。


「帰らなくて良いわ。アナベルも良かったら一緒に聞いて頂戴。出来れば二人の意見を貰いたいの」

「まあ、アーサー様と婚約して結婚間近で幸せ一杯の時期だと言うのに一体何の悩みなの?もしかしてマリッジブルー?」

 二人の丸い瞳がこちらに突き刺さる。


「ん・・・マリッジブルーとはちょっと違うかな」

 しょんぼりした私を見てリリは私をお茶会テーブルに誘導する。


「まあ、まずは飲んで落ち着いて。ここは人払いするから」

 目線で侍女を下がらせる姿はすっかり館の女主人だ。

 あんなに幼かったリリも結婚して子供を産むとこんなにも立派になるのか。


 入れてもらった紅茶を一口飲んで口を開く。

「あのね、この間結婚式の細かい打ち合わせの為にアーサーの家に行ったの。そこで聞いちゃったのよ」

 カップを置くとカチャンと軽い音がした。

 


ーシモンズ家にてー


 シモンズ家の執事が案内すると言うのを忙しいのに悪いからと押し留め、勝手知ったるシモンズ家とばかりにアーサーの部屋に一人で直接向かった。

 ノックをしようと手を上げたら、中から声が聞こえた。

 この声はアーサーの一番上のお兄様だ。


「子供だ子供だと思っていたお前がとうとう結婚とはなぁ。月日は早いなぁ」

「いい加減部屋から出て行け。もうすぐクラウディアがやって来るんだから」

「おやおや、可愛い婚約者に夢中でお兄ちゃんと話をする暇もないなんて。余裕のない男は振られるよ」

「くだらない戯言は時間の無駄だから帰れと言っているんだ。本題に入らないならつまんで放り出すぞ」

「待て待て待て!・・・分かったよ、全く昔は兄様~って私の後をいつも追いかけていたのに。いつの間にやらこんなガタイが良くなっちゃって」


「・・・いつの話だ?少なくとも俺の記憶の中でそんなことをした覚えはないぞ」

「んー君が2歳くらいの話かな♪」

「出てけ」

「やだよーん。・・・分かった!本題に入るから!」

「さっさとしろ」

「レジナルド伯父上を覚えてるか?」

「父上の一番上の兄だろう」


「そう。親戚付き合いしてないのに良く覚えていたね」

「夜会でちょくちょく挨拶されるからな」

「そうなのかい!?いつの間に。伯父上私には一度も挨拶して来ないし私が近づこうものなら逃げていくのに。アーサーだけには接触してくるなんて一体何を考えているんだか。アーサーもアーサーだ!なぜ私にそれを今まで報告しなかったんだい!?」

「聞かれなかったからな」

「聞かれないから言わないっていうのはどうかと思うよ。何かあったらどうする気なんだい」

「? 何があるんだ?」

「何があるか分からないから言って欲しいんだよ。まあ父上と伯父上の確執を隠していたこちらが悪いのか・・・良く聞くんだアーサー。レジナルド伯父上は父上を恨んでいる。この国は多くの貴族が長子もしくは長男が相続権を持つ。でも我がシモンズ家だけは武官の家として代々一番強い者が家督を継ぐことという家訓だったんだ」


「? そうなのか?」

「君が知らないのも無理はない。父上の代から我が家も長男相続に変えたからね。レジナルド伯父上は当時最強の剣士だったらしい。当然シモンズ家もレジナルド伯父上が継ぐもんだと本人はもちろん周りからも思われていたそうだ」

「それがなんで父上になったんだ?」

「愛の力だよ、アーサー。痛っ!ふざけてるわけじゃないよ。本当だよ。今度父上・・・は無理だろうから母上に聞いてみると良い。当時母上の父上・・・我々にはおじい様にあたる方が娘が欲しければ家督を継ぐことという条件を出したそうだよ。それで当時若かりし父上が発起して当時最強と名高かったレジナルド伯父上を倒して家督を継いで母上を手に入れたそうだよ」

「そんな過去が」

「レジナルド伯父上はシモンズ家を出て未だに独身だそうだ。家督を継ぐ予定で結ばれていた婚約者からもそのせいで振られたそうだからね。これで伯父上が父上を恨んでいるという理由が分かっただろう?」

「分かったが、それと俺の何の関係がある?」


「伯父上が影で君とクラウディア嬢の結婚に文句を言っているらしいんだ」

「は?」

「レオン王子が好いていた女性を横から奪った君が変わらず王子の側近でいるのは良くないのではないかと吹聴しているらしい」

「ふーん」

「ふーんってアーサー感想はそれだけかい?」

「レオが俺を側近から外すというなら従うが、関係ない伯父上がいくら影で言ったところで俺が従う謂れはない」

「貴族というのはそんな簡単なものじゃないんだよ、アーサー。その声が大きくなれば王家やレオン王子だって無視は出来ない」

「大丈夫だろ、レオがクラウディアにプロポーズしていたのを知っているのは王家とエストラル侯爵家だけだし。レオのことだから追及されたところでうまくやるだろ」

「レオン王子はクラウディア嬢にプロポーズしてたのかい!?アーサー、君よくも主君の思い人を横から掻っ攫えたね。しかも王子も良くアーサーを許したもんだ。普通は首だし狭量な王なら一族断絶じゃないかな」

「はぁ?人の事言えるのかよ。俺はまだお互いフリーな状態だったけど、兄上なんか上司の妻を横から掻っ攫った癖に」

 え?とびっくりして思わずドアに耳を寄せるクラウディア。


「人聞き悪いこと言わないで欲しいなぁ。あれはお互い運命の恋だったのだよ。元々上司とアビーは親が決めた婚約者同士でそこに愛はなかったんだ。結婚してもお互い恋愛感情を持てなくて友人のような関係だったと二人共言っている。そこに上司が本気で愛する女性を見つけてしまった。けれども離縁してしまったらアビーは修道院に行くしかない。かといって愛する女性を妾には出来ない。丁度身分も釣り合っていたしね。悩んでいた上司を見かねて心優しいアビーは自ら身を引こうとしていたところに私と知り合ったのさ。一目見てお互い恋に落ちたんだ。あれはドラマチックだったね。夜会で大勢いた人々が一瞬にして消えたんだ。私にはアビーしか見えず、アビーも私しか見えなかった。あとは怒涛のごとく話が進んだよ。上司にも感謝されたしね。こんなに周りが幸せになる略奪愛もないだろう」


「自分で言うな馬鹿」

「自分で言わなければ誰も言ってくれないじゃないか。周りが何を言おうと私たちは幸せなんだから良いんだよ。まあ、そんな訳だからレジナルド伯父上には少し警戒しておいてくれ」

「分かった」

 小さな沈黙が流れたので話が終わったのかと思ったら、また声が聞こえてきた。


「なあ、アーサー。君さえ良ければシモンズ家を継がないか?」

「は?」

「父上は自分が伯父上から家督を奪ったことを後悔したから家訓を曲げて自分の代では長男相続に変えたんだ。でも本来シモンズ家は一番強い者が継ぐはずだったんだ。この間私を打ち負かしたアーサーが本来は継ぐべきだと私は思う」

「断る」

「・・・」

「何をいきなり寝ぼけた事を言っているんだ。俺にその気は一切ない。しかも先日レオから新しい領地を貰ったばかりだ。そっちに手が一杯になるのに、シモンズ家の領地まで俺が治められるわけがないだろう」

「クラウディア嬢に手伝ってもらえば良いじゃないか。彼女なら余裕で一つの領地位治められるだろう」

「断る」

「なんでさ」

「俺はクラウディアを幸せにする為に結婚するんだ。苦労させる為に結婚するわけじゃない」

「苦労もまた新婚の醍醐味だろう。うわっ、そんな目をしないでくれアーサー。お兄ちゃん傷ついちゃうよ」

「ぬかせ。クラウディアはただでさえ俺を選んだことで心に一生消えない傷を付けてしまったんだ。これ以上あいつの負担になることはさせられない。・・・ずっと笑顔で幸せにしてやりたいんだ」


 アーサー・・・。

 ジンと心が温かくなるようだった。


「分かったよ。じゃあもしシモンズ領が欲しくなったら言ってくれ。高値で売ってあげるから」

「売るのかよっ!」

「私もアビーを幸せにしてあげるにはお金が必要だからね」

「欲しくならないからしっかり兄上が治めてろ」

「はいはい。じゃあクラウディア嬢に宜しくね」

「ああ」


 話が終わったようで、クラウディアは慌ててドアから駆け足で離れた。

 ドアが開いてアーサーのお兄様と顔を合わせる。

 クラウディアはさもさも今来たかのような顔をした。


「おや、これはクラウディア嬢。相変わらずお美しいですね。アーサーに会いにいらしたのですか?」

 その声を聞いてアーサーが奥から現れる。


「クラウディア」

 太陽のような笑顔がこちらに向けられる。


「アーサー」

 てててと小走りで走ってぎゅっとアーサーのシャツを掴む。


「おやおや、結婚間近の二人にアテられてしまった。邪魔者は退散しますよ」

 アーサーは片手で私を抱きしめ、空いた片手でシッシッと兄を追い払っていた。


 しまった。先ほどアーサーの気持ちを聞いて心が一杯になってしまって、アーサーの顔を見たらお兄様の存在を一瞬にして忘れてしまった。


 恥ずかしい。

 真っ赤になってしまった顔を隠すようにアーサーの胸に顔を押し付けたら、ぐいっと引き寄せられ部屋の中に入れられたと同時に部屋のドアが閉められた。


「アーサー?」

 赤くなった顔でアーサーを見つめれば、アーサーが噛み付くようにキスをしてきた。

 

「んっんん」

 まるでこのまま食べられてしまいそうな程荒々しいキスに足が持たなくてカクンと崩れ落ちるのを、アーサーのたくましい腕が支えた。


「悪い」

 抱き上げられてソファーに宝物のようにそっと降ろされる。


「お前が可愛過ぎてちょっと理性が持たなかった」

 唇を拳で押さえてこちらとは反対側を向くアーサー。

 気分を押さえているようだ。

 耳が真っ赤になっている。


「あ、うん」

 なんと言っていいか分からずに変な返事を返してしまった。


 その日ギクシャクしながら二人で真っ赤な顔をして結婚式の話を進めた。



ーお茶会に戻るー


 ここまで話をした所で、二人がニヤニヤとした顔でこちらを見ていた。

「あの、二人共なんでそんな顔をしてるの?」

「いやぁ、話始めがなにやら真剣な顔だったので深刻な話かと思ったら、まさかのノロケ話だったので」

 アナベルの答えに隣でリリがうんうんと頷いている。


「ちっ違うわよ!ノロケ話じゃないんだってば。私が相談したかったのはアーサーの伯父様の事で」

「えー、そんなのクラウディア様が心配しても仕方ないじゃないですか。放っておけば良いんですよ」

「でもそのせいでアーサーやレオに迷惑を掛けたりしたら」

「アナベルさんの言う通りよ。お二人が気にしてない事をディアが気にしてもしょうがないわ」

「そうですよ。第一アーサー様の伯父さんが何を言っても大丈夫だと思いますよ」

「どうして?」

「アーサー様とクラウディア様の結婚は貴族の間でも結構噂になったんですよ。どちらかといえば玉の輿婚ですし。この間アーサー様が領地と爵位を貰ったことでさっそくエストラル侯爵家のご令嬢を頂いた恩恵かなんて口の悪い貴族なんて噂してましたけどね」

「そうなの!?」

 なんてこと。領地と爵位は私との結婚とは別に決まっていたことなのに。


「レオン様がクラウディア様にご執心なのは貴族の間では有名な話でしたけど、私との噂のせいで浮気した王子様に愛想をつかしたクラウディア様がアーサー様に乗り換えたというのが貴族の間ではもっぱらの噂ですし。今更レジナルド様が王子様の思い人をアーサー様が奪った云々騒いだ所で、レオン様の自業自得だと思われるのが大多数なんじゃないですかね」

 

 ・・・そんな風な噂になってたのね。知らなかったわ。


「アーサーからはレジナルド様に関して何も言われなかったのよね。もし偶然お会いしたらどんな態度を取れば良いのかしら」

「まあ、警戒しておくにこしたことはありませんね。夜会では出来るだけアーサー様とくっついていれば良いですよ。どんな噂が流れようと結局はただの嫉妬ですから」

「嫉妬?」

「そうですよー。決まったお相手のいなかったお二人は独身貴族からは喉から手が出る程欲しい珠玉の存在でしたからね。そのお二人がくっついたと知ったらがっくりして嫌な噂の一つや二つ流したくなるのが心情って奴ですよ。嫉妬したところで女性はクラウディア様に家柄も容姿も人格も叶う訳ないですし、その逆もまた然りです。放っておけばそのうち諦めついて大人しくなりますよ」


「そ、そうなの?」

「幸いレオン王太子殿下はまだ決まったお相手もいませんし、最有力候補だったクラウディア様がアーサー様とくっついたことによって王子様へのアタックはこれから激しくなると思います」


 ・・・レオ、重ね重ねごめん。


「ね、ディア。今あなたに出来ることはアーサー様と幸せになることだと私は思うわ」

「リリ」

「そうですよ、私たちクラウディア様の花嫁姿をそれはもう心待ちにしてるんですから、世間が落ち着くまで延期にするとか止めてくださいね」

 ギクッとなる。


 私の顔を見てアナベルがはぁ~とため息をついた。


「やっぱりそんなつまらないこと考えていたんですね。少しはアーサー様の気持ちを考えてあげてください」

「アーサーのことを考えたから延期した方が良いんじゃないかと思ったのだけど」

「それが余計なことなんですよ。これ以上お預けしたらアーサー様爆発しちゃいますよ。よくもまぁあれだけ溺愛なさっておりながら今まで我慢なされたものだとその強い理性に感心してるくらいなんですから」


 一体何を言っているのかアナベルは。


「ディア。あなたはただアーサー様の前で何も知らないフリして笑っていれば良いのよ」

 リリが人妻の貫録で助言してくれる。


「笑えば良いの?」

「そうよ、それが妻の役目よ。夫が隠したいと思っているのなら知っていても知らないフリ。花のようにほほ笑んで夫を癒すのが妻の役目」

 えー。


「それでも何か役に立ちたいのなら、裏でこっそり手を回すのよ」

 ウィンクするリリ。


 さすが。


「ありがとう、二人共。勉強になったわ」

 私は二人に別れを告げて立ち去った。


 そうね、私は私に出来ることをやればいいのだわ。




お久しぶりです。なんとなく書き足りなかったかなと思い、今頃こそっと書き逃げします。

もう話なんて覚えてないよーという方が大多数なよか~ん。思いせるよう呪文を唱えておきます。

 「ストーカーキングレオ召喚!」

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