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レオ If Story  -パラレルワールド編ー

パラレルワールドのレオハッピーエンド編です。


 本編ではあっさりディアに「君との婚約は破棄するよ」と言ってのけたレオですが。


ーもしもレオが破談を宣言しなかったら来たであろう未来編ー



 白いウェディングドレスが見える。

 着ているのは、クラウディアだ。


 私の愛おしい女性。

 ブーケを持って誰かを待っているようだ。

 

 私を待っているんだね、ディア。

 今、そこに行くから。

 踏み出そうとした足が止まる。


 ディアが笑顔を浮かべて一人の男性の腕を掴んで絡める。

 ディアは男と腕を組みながら急速に私の前から去って行く。


 待つんだクラウディア。その男は誰だ!

 私からディアを奪っていくなど許せない!

 顔を見せろ!


 追いかけて男の肩を掴んで振り向かせると、


「アーサー!!!!!」

 ガバッと布団から起き上がる。


「夢か」

 ほうっとため息を吐く。

 

 またこの夢を見てしまった。一体これで何度目だろうか。

 毎回毎回シチュエーションは違えども、ディアがアーサーと一緒に去っていくのは同じだ。


 理由は分かっている。

 罪悪感からだ。


 ディアは本当はアーサーを愛している。ただ本人が自覚していないだけだ。

 自覚したところであのディアとアーサーのことだ。私を裏切ることなど絶対にしないだろう。

 なのに、私だけがこんなバカげた夢を毎晩見てしまう。


 ディアの命を貰って満たされてしまったからだ。

 心が悲鳴をあげていた当時は人に対して罪悪感や思いやりなど持った試しがなかった。

 どうせ周りの人間など私が慈悲深くふるまっていればそれに満足して、私が本当にそう思っているかどうかの真偽など気にしない。


 第一情に流されていては人の上に立つことは出来ない。出来るだけ多くの人間を助ける為に少数の人間を切り捨てることが出来なければ、国が沈んでしまう。

 感情を捨てろと教えた最初の教師はあながち間違ってはいなかったと思う。


 やるべき時に非情になれる人間こそが王の椅子に座る資格を持つ。


 今でも私は基本冷たい人間だと思う。けれどもクラウディアに対してだけは別だ。

 彼女がいたから今の私がいる。

 穴だらけで人間として不完全だった私がクラウディアと一緒にいることでようやく人間になれるような気がしていた。

 彼女が命を吹き込んで私を人形から人間に戻してくれた。

 

「人間になったせいで彼女に対して罪悪感を抱くようになるなんてなんて本末転倒だ」

 はははと笑い立てた膝に額を押し付ける。


「参ったな」


 悪夢を見るせいでまともに夜眠ることが出来ない。

 日中目の下に出来たクマはこっそり化粧で隠していたが、連日ともなると疲労が出て来る。


 これまでは若さで乗り切ってきたが、さすがに短時間睡眠が続くと疲れが溜まって動きが鈍くなる。

 私は仕方なく日中ソファーで仮眠を取ることにした。


 本当は眠りたくはない。

 寝るとあの悪夢がやってくる。


 ディアが私以外の男と腕を絡めて去っていく夢だ。

 寝たくない。

 寝たく・・・い。

 寝た・・・ぃ。


 瞼が落ちて夢の中に潜っていく。


 ああ、やっぱりまたあの夢だ。。。

 一連の流れを見た後で目が覚めるのも一緒だ。


 しかし今日は目を覚ました瞬間、目の前に心配顔のディアがいた。

 いつの間に王宮にやって来ていたのか。

 ディアが部屋に入って来たことすら気づかなかった。

 

 ディアは手にハンカチを持って私の額の汗を拭ってくれていた。


「ねえ、レオ。何か心配事があるんじゃないの?」

「いいや、ここのところ少し忙しくてちょっと仮眠を取っていただけだよ」

「でもうなされてたわよ」

 内心ぎくっとなる。


「そう?何か言っていた?」

「あんまり聞こえなかったけど、待ってくれとかなんとか言ってた」

 マジか。


「私には言えない悩みなの?」

「悩みがあったら真っ先に君に相談するさ。でも悩みがないから何も相談出来ないんだよ。何の夢を見ていたのかさえももう覚えていない位だからね」


 ディアが睨んでいる。

 嘘だとバレバレでも君には言えないよ。

 君を失う夢を見て泣いているなんて。


「・・・もしかして、私のせい?」

 息が止まる。

「やっぱりそうなんだ。レオ、私と結婚するって言ったの本当は後悔してるんでしょ」

「何を言っているの?ディア」

「ここ数日どんどんやつれて行くレオ見てればいくら鈍い私でも分かるわよ。ハンカチでこすったら簡単に化粧が取れたわよ。その酷いクマを見る限り、もうずっとろくに寝れてないんでしょ」

 ほらとディアが見せてくるハンカチにくっきりおしろいがついている。


「私がディアと結婚するのが嫌になることなんてありえないよ」

「嘘ついてもダメよ。理由は分からないけど、レオが悩んでるの位私分かるんだからね。何年の付き合いだと思ってるのよ」   

 

 そうだった。ディアとアーサーだけはなぜか私の嘘が通用しないんだった。

 ありがたいような、厄介なような。


「私がディアと結婚したいと思っているのは本当だよ」

 ディアが頷く。


「でも、それ以上に結婚したくないって思ってるでしょ」

「ありえないよ」

 しかしディアは頑として譲らない。

 もはや確信しているかのようだ。


「・・・分かった。本当の事を言うよ。確かに私はディアとこのまま結婚していいのか悩んでいる」

 ディアが息を飲む。


「誤解しないでくれ。私がディアを嫌いになったとかそんな理由じゃない。ただ、君を私のエゴで縛っていいのか悩んでいるんだ」

「どういうこと?」

「君はアーサーが好きだろう」

「・・・」

「それを知っていて私は君をアーサーから奪ってしまった。君が私から逃げられないように婚約という形で」

「・・・」

「申し訳なかったと思ってる」

「・・・」


 沈黙の後、クラウディアが口を開いた。


「私帰国してすぐにお父様とお母様にレオと結婚するって言ったわ」

「うん」

「お父様は喜んでくれて、お母様はちょっと複雑な顔をしていたけどやっぱり最後には喜んでくれたわ」

「うん」

「私もこれで良かったって思った。ああ、レオを選んで良かったって。それなのに、私のせいで今レオは苦しんでるの?私がアーサーも好きだったから?私がレオ一人を見れなかったから・・・」

「ディア、それは違うっ!」

「違わないっ!」

 クラウディアの瞳から涙が零れる。


「確かに私はアーサーも好きだった。でもレオを選んだ時点でレオだけを見て行こうって決意したわ。レオだけを愛してレオを幸せにしようって。それなのに私が今レオを苦しめているなんて」

「違うんだクラウディア」


「何が違うの?レオが言ってることを要約すれば、私がアーサーを好きなの知ってるけどやっちゃったから責任とって結婚するけど、これで良かったのかなぁーってことでしょ」

 身も蓋もない言い方に思わず赤面する。


「ディア、ちょっとその言い方は語弊があるから止めてくれ」

「どう言い繕うが結局は同じことじゃない。そんな理由で結婚なんてされたくない。そんなことなら破談で結構よ」


 言うだけ言うとクラウディアはドアをバーンと開けて出て行ってしまった。

 すぐに追いかけようと思ったが、ここ連日の睡眠不足のせいで貧血を起こして床に膝をついてしまい、たまたま廊下を歩いていた女官に気付かれて騒がれ、ディアを追いかけることが出来なかった。


 違うんだ、クラウディア。

 私は君を愛している。

 私は君を手放したくはない。

 でも、君は本当にそれで幸せなのかい。満足なのかい。

 心を殺して私に一生を捧げて、君は死ぬ時に本当に幸せだったと思えるのかい。

 

 私はそれが心配なんだ。

 君に救われたのは私の命だけじゃない。心もだ。

 だから君には誰よりも幸せになって欲しい。


 君の笑顔が好きだから。


「破談かな」

 女官たちに無理やり寝かされたベッドの上で一人ごちる。


 ディアの幸せを願うならその一択しかない。

 分かってる。

 すぐに判断すべきだった。しなかったのは私の未練に他ならない。


 明日、ディアの家に言って破談を申し入れよう。

 そう決めたら悪夢も落ち着いて見れるようになった。

 この悪夢はいつか現実になるだろう。それでも良い。君が幸せでいることが私の幸せだから。


 翌日ディアに会いにエストラル侯爵家に行った。

 執事が何やらごちゃごちゃと言い訳をして私とディアを会わせないようにしていたが、


「良いの。会うわ」

 後ろからディア本人がやってきた。

 目が真っ赤になっている。

 どうやら泣いていたようだ。


「お嬢様」

「玄関ではなんだから、私の部屋に来て」

 執事が私をディアに会わせまいとした理由はこれか。

 けれどディアを泣かせたのは私だ。

 ずきりと胸が痛んだ。

 君の幸せを誰より望んでいるのに、結局私は君を傷つけることしか出来ないんだな。


「どうぞ、座って。マリーお茶は私が煎れるから良いわ。少し席を外してくれる?良いと言うまで誰もこの部屋に近寄らせないで」

「かしこまりました」

 マリーはお辞儀をして部屋を出て行った。


「さて、レオン王太子殿下は何の御用でこちらにいらしたのかしら?正式に私との婚約を破棄するためかしら」

「ディア」

「今更よねぇ、本当に。だったら最初からプロポーズなんてしないで欲しかったわ。散々私を振り回しておいて、なんなの」

「ごめん」

「確認だけさせて。レオは私が好き?」

「好きだよ」

「私と結婚したいと思ってる?」

「思ってるよ」

「私がアーサーを好きだからこの結婚をなかったことにしたいの?」

「そう」

「それ以外の理由はないのね」

「ないよ」


 ふーんとディアが頷く。

「分かったわ。じゃあ破談にしてあげる。その前にちょっとこの手紙を見て。カーラ帝国から来たのよ」

 机の中から一通の手紙を出してくる。

 差出人はクリストフ皇太子だ。

 振られたのに相変わらずディアにちょっかいを出しているのか?


 まだ未開封だったのでペーパーナイフを希望したけれど、ディアがどこかに置き忘れてしまったらしく見当たらないと言う。

 しかたないから手であけようかと思ったら、


「ナイフならあるわ」

 と言ってディアはナイフを差し出してきた。

 まあ、ないよりかは良いかとナイフを受け取ると、なぜかディアが私の手を掴んで横に引いた。

 その引いた先にはディアの左腕があった。


 スパッとナイフが一瞬ディアの腕にかすめ、血が流れた。

「ディア!君一体何を!」

 痛そうにディアが左腕を押さえている。


 ポケットからハンカチを取り出してディアの腕に巻く。

 白いハンカチがディアの血で赤く濡れていく。


「何でこんなことをしたんだ!?早く回復魔法を自分に掛けて」

「嫌よ」

「!?」

「ほら見て」

 ディアが傷ついた左腕を私に見せてくる。


「レオのせいで私お嫁にいけない体になっちゃったわ。責任とってくれる?」

「何を言っているんだ」

「だってそうでしょ、こんな目立つ場所に傷跡があったら誰も私をお嫁さんになんかしてくれないわ。レオが責任取ってくれないと」

「・・・こんな傷すぐに消えるよ」

「だったらまた同じ場所に傷をつけるわ。永遠にね。だからあなたは私に対して永遠に責任取らないといけないの。これは脅しよ。レオが私を縛ってるんじゃないわ、私がレオを縛ってるのよ。それも卑怯な手を使って無理やりね」

「君はアーサーの所へ行くべきなんだ。本当に好きな男の所に。私の傍にいちゃいけない。やっと決意出来たのに」

 拳で顔を覆い苦悩している私の後頭部をディアが殴る。


「しつっこいわね。今確かに私はアーサーを好きなのかも知れない。でも未来はどうなるかなんて分からないじゃない。男なら私の心をアーサーから自分に引き寄せてみなさいよ。そんな自信もないわけ!?ないなら仕方ないわよ。破談を受け入れるわよ。そんな腰抜け男なんてこっちだって真っ平御免だもの」

「・・・良いのかい?それで。本当に君は後悔しないのかい」

「ねぇレオ。人生ってまともに過ごせばとても長いと思うのよ。今レオが悩んでいることがあと10年後20年後には笑って聞き流せるようになっているかも知れないわよ。なんであの時あんなに悩んだのかなぁバカみたいだよなって。今こんなに幸せなのになって」

 ディアの瞳からぽろぽろと涙が零れる。

 泣きながらディアは笑っている。


「人生最後に笑ったもん勝ちだと思わない?私レオとなら最後に笑顔で死ねる自信あるんだけど。レオにはないの?」

「あるよ。最後どころか今日からだって、君と一緒なら笑顔で死ねるよ」

「じゃあ、もう破談にするなんて言わない?」

「君に脅されるから怖くて破談になんて出来ないよ」

「ふふ、天才のレオを脅せるのは私くらいでしょ」

「それさえも心地良いんだから、私は一生君から離れられないよ」


 ディアの細い腰を抱き寄せ、そっと唇に口づける。

 涙の味がして少ししょっぱかった。


 ごめんね、ディア。君を解放してあげようと思ったのに。結局私は君を手放せない。

 いつだって私の心を救ってくれるのは君だから。

 

「え、ちょっと。レオ」

「ん?」

「んん、これ以上はちょっと・・・」

 ディアの足が後ろに下がる。

 そのまま追い詰めてソファーに押し倒す。


 ディアを跨いで上からディアを見下ろす。

「あの、レオ?」

「どうやら私はクラウディアを手籠めにしたから責任とって結婚するという話らしいから、折角だからそのシナリオ通りにさせてもらおうかなと思ってね」

「いや、あれはキスのことで・・・ちょっと待って、私今怪我してるから」

 ホラと左腕をアピールされる。

 私は巻いたハンカチを取って血が止まった傷跡を舐める。


「ひっ」

「痛い?」

 ぺろりと舌で唇を舐めると、ディアの血の味がした。

 ディアが顔を赤くして頷く。


「あとでゆっくり治療してあげるね」

「!?」

 そう言うと再びディアの唇に口づける。何度も角度を変えて口づけしていると息が苦しくなってクラウディアが口を開けた。その瞬間を狙ってディアの口に舌を入れる。

 口腔を舐め舌を絡ませディアの豊満な胸に手を置けば、ビクンとディアの身体が反応した。

 落ち着かせるように優しく頭を撫でる。


「ディア。愛してる」

 囁けば頷き返してくれる。


 これはOKということで良いのかな?

 勝手に判断して先に進む。


 耳の裏を舐め首筋にキスをし、手を腰から下に沿って撫で回した後で膝裏を持ち上げるとディアの白い太ももが丸見えになった。

 ディアはすでに今までの愛撫で息も絶え絶えになってしまい言葉が出ない。

 

 可愛い。

 前回変な言葉を口走ったディアを注意するつもりで手を出したけれど、逆に自分が嵌まってしまって止まれない。

 

 いただきます。


 ディアの滑らかで白い太ももに口づけその味を堪能していると、ノックの音がした。

 無視して続ける。

 が、しぶとくノックの音がする。


「お嬢様、旦那様がお帰りになりまして、レオン王太子殿下がお見えになられているなら二人して応接間に来られるようにとのことです」

 マリーの声がドアの外から聞こえる。


「・・・・・・」

 仕方なく私はディアの身体の上からどいた。

 ディアは私がどくと急いで身だしなみを整えた。

 ディアの乱れた髪は私が直した。


 全くエストラル侯爵のタイミングの良さと言ったら。わざとか?

 父親にのみ発揮される娘を守るエスパー能力という奴か!?


 惜しかった。

 名残惜しくてディアの方を見ると、私の視線に気づいてディアが私から離れて行った。


 そんな胸をクロスして逃げなくてももう何もしないよ。

 今日はね。


 婚約は破棄しなくて良いと言ってくれた君の心に応えるためにも、もっといい男にならないといけない。君が私を選んでくれたことを後悔しないように。

 君が私の隣でずっと笑顔でいられるように。

 君の笑顔をずっと守れるように。


 そのために邪魔なものは全て排除しよう。

 君への愛に掛けて。



ー 5年後 -


 小さな手が母親の古傷をなぞる。


「お母様、このお手てどうなさったの?」

 母親は自分の左腕に付いた白い傷を心配する娘の頭を撫でた。


「もう痛くないのよ。大丈夫」

「痛くないの?じゃあどうして消さないの?お母様なら消せるでしょ」

 母親の回復魔法の威力を知っている娘は不思議に思って訊ねる。


「いいのよ。これはお父様とお母様の愛の証だから、わざと残してあるの」

「愛の証?」

「そうよ、これがある限りお父様はお母様から逃げられないのよ。おーほっほっほっほ」

「・・・ディア、人聞き悪いこと言わないでくれ」

「あら、あなたもうお仕事終わったの?折角娘と昼ドラごっこしてたのに」

「昼虎?」

「あー、リアルおままごとのことよ。ドロドロの。ねー」

 ねーと娘も同じように首を横にする。


「楽しそうで何よりだよ。奥さん」

 子供を抱き上げ、妻の頬に口づける。

 妻はくすぐったそうな顔をして、夫の頬にお返しのキスをする。


「んふふ、だって楽しいもの。優秀な旦那様のおかげで戦争の心配もないし、やっぱり平和が一番だわ」

「君が望むならいくらでも平和を君にプレゼントするよ」


「ありがとう」

 子供は目線が高くなったおかげで欲しかった花が見つかったようで、降ろしてと父親にねだって花壇に向かって走って行った。

 走り去る子供の背中を見送りながら、夫婦はそっと寄り添った。


「ね、十年なんて必要なかったわね」

「うん?」

「幸せを感じるのによ。私今とっても幸せ」

 コテンと夫の肩に頭をもたれかける。


「私は君と出会ってからずっと幸せだよ」

「あら、ふふふ。相変わらず口がお上手」

「本心だよ。分からないなら今日もたっぷり夜に思い知らせてあげるよ」

「あのね、ヴィヴィアンが弟か妹が欲しいんですって。リリの所でこの間二人目が生まれたのを私と一緒に見に行って弟妹が欲しくなったみたいよ」

「君はどちらが欲しい?」

「私?私はどちらでも良いけど、レオに似た男の子なんてのも良いわよね」

 ふふふと笑って言うと、途端に夫が嫌そうな顔をする。


「それは、ちょっと、大分嫌かな」

「欲しくないの?男の子」

「男の子は別に良いんだ。でも私似だけは勘弁」

「どうして?」

「だって絶対君の取り合いになるじゃないか。しかも私似なんて年々手ごわくなりそうで嫌だ」

 妻は呆れた顔で夫を見る。


「次のライバルは我が子なの?」

「そうならない為にも次は君似の男の子にしよう。ね、奥さん」

「はいはい、旦那様。でも夜はもう少し早く寝てね。いつも私が寝るまで起きてるでしょ」

「だって君の寝顔を隣で見ていられることが私の幸せだから、勿体なくて寝れないんだよ。君の寝顔なら朝までだって見ていられるよ」

「体を壊すから止めて頂戴。やめてくれないなら寝室別にするからね」

「それは嫌だ。分かった、じゃあちょっとだけ短縮する」

「どれくらい?」

「1時間・・・いや、30分かな」

「待って、いつもどれ位起きてるの?」

「3時間くらいかな」

「バ、バカーーーーー!!!」

 妻の声が中庭に鳴り響いた。二人の後ろで驚いた鳥が羽ばたいて飛び立ち、花を摘んでいた我が子が振り向いた。

 私は急いで妻の口を片手で塞いで、もう一方の手で笑顔で我が子に手を振った。

 子供はいつものことかと納得してまた花摘みに戻った。


 賑やかで明るくて楽しくて眩しくて。こんな日常が自分自身の人生に起こるとは思わなかった。

 気づくと笑っている。横を見るとディアも笑っている。

 愛し合って慈しみ合って人生が終わるその時まで君の隣で笑っていたい。

 願わくば次の人生も君の隣で。


 愛しているよ、ディア。 




書き終えて人生の分岐点の選択次第でこんなエンドもあったんだなぁとしみじみ思いました。


レオ派の方の希望でIF STORYを載せてみました。 



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