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王子side LAST

 カーラ帝国の帰国後久しぶりに時間が取れたので、ディアの顔でも見に行こうかと休日にエストラル侯爵家でお茶をしていたら、ディアから質問された。


「ねえ、レオ。帰国してからなんだかんだ忙しくて聞きそびれちゃったんだけど、なんでレオはレナーテの侍女が水の精霊だって知ってたの?」


 コ、クンと紅茶を飲み込んだ。

 まずいな、まさか盗み聞きしたなんて言えないし。


「聖女から直接聞いたんだよ。丁度高台で二人っきりになった時にね」

 いないことを良いことに聖女のせいにしてしまう。


「そうなのね、レナーテったらそんなことまでレオに言ったんだ。じゃあどうしてレオは災厄の魔物が水の精霊だって分かったの?」


「水の精霊だって知っていたわけじゃないよ。ただ水に関連する魔物だろうなとは思っていた」

「どうして?」

「カーラ帝国から上がって来る災害のほとんどが水関連だったからね。まあ外れていたとしても火魔術は攻撃力高いから丁度良いと思ったしね」

 そのせいで自分も危うくやられそうになってしまったが。


「ああ、そうね。大雨に洪水ですものね、それに蝗害も確か大雨が原因だったはずだし。・・・地震も解離した水の爆発現象で起こるって聞いたことがあるわ。海外で水圧破砕後の排水によって地震が起きたとも聞いたことあるし・・・」


 ディアが私を無視してブツブツ独り言を言い出した。

 たまにこうしてディアは私の知らない言葉を呟く。

 今までディアの妄想かと思っていたけれど、きっと前世の知識だったのだろう。

 この世界より随分発達した文明のようだ。生まれ変われたら是非私もそちらの世界に行ってみたい。


「ねえ、ディア。君の命を加護精霊が繋いでいるって言ったけど、ディアは自分の中で加護精霊と会話って出来るの?」

「え?神馬と!?出来ないわよ。やったこともないけど。っていうか、いるって言われても今までと全然変わらないから分からないのよ」

 ちょっと嗜好が変わった位だものとディアは言う。


 無理か。

 でも一応ダメ元で言っておくか。会話が出来ないだけでこちらの声は聞こえているかも知れないしね。


「そうなんだ。残念だな、もう少し精霊と話がしてみたかったんだけど。例えば精霊界はどこにあるのかとか、神は存在しているのかとかね」

「聞いてどうするの?」


「もし神がいるならお願いしようかと思って。来世はディアと同じ年で生まれ変われるように。学年が違うと学園で同じ体験が出来なくて寂しいからね」

「レオが下の学年に来ちゃうと、アーサーが年上になっちゃうけど、それは良いの?」

「そうか、じゃあついでにアーサーは年下で生まれてくるように頼んでおこう」

「なんで年下なの?」

「ディアが年下が好みじゃなさそうだから」


 そんなことないわよとディアの目が泳ぐ。

 本当に分かりやすい。


「ディアはいつも他人の為に動く癖があるから、甘えてくる人は恋愛対象外になっちゃうんだろうね。私なら君を逆にドロドロに甘やかしてあげられるけど?」

「そんなのやぁよ。レオに甘やかされたら私確実にダメ人間になっちゃうもの。私はちゃんと自分の頭で考えて自分の力で生きられる人間になりたいの」


「君のそんな所が私は好きだよ。君は良い王妃になると思うんだけどな」

 甘く見つめればディアは焦ったように目を逸らす。


「もうっ、からかわないで。それより話の続き!レナーテの加護精霊がどうして本体だって分かったの?」

「消去法だよ。あそこにいた水を操れる者は災厄の魔物と加護精霊の2人。一方を攻撃しても無駄だったから、試しにもう片方を攻撃した。それだけ」

「それだけ?え?本当にそれだけ?」

 何かもっと確証みたいなのがあったわけじゃないの?とディアが目を丸くする。


「ないね」

「嘘ー!じゃあ間違ってたらどうするつもりだったのよ。聖女の加護精霊に手を出したなんて、下手したらカーラ帝国と開戦するところだったじゃない」

「あの状況で間違っていたら、どの道全滅だったんだから良いんじゃない?」

「あ、そうか。え、でもそれで本当に良いのかしら・・・」


 う~んと悩んでしまうディア。可愛いなぁ。


「もう終わったことに悩んでも仕方がないよ、ディア。過去は変えられないからね。それよりも未来の事を話さない?」

「未来のことって?」

「私との結婚についてかな?」


「レオから私を振っておいて、何回このやりとりするのよ。コントじゃないんだから」

「コント?」

「あ、ううん。なんでもない」


 コントね。また一つこの世界にはない言葉を知った。

 ディアの暮らしてきた世界は一体どんな世界なんだろう。

 知りたい、見てみたい。


 ディアと同じものを体験し、ディアと同じ言葉で語りたい。

 君の感じた物全てが知りたいよ、ディア。




ー 七十年後 ー


 隣国との和平を強固にし国内の治安安定に尽力を突くし賢王と呼ばれ国民から愛されたレオン王が、病床の只中にいた。

 枕元には側近として最後までレオン王に忠誠を誓い、かつて王国最強の騎士と呼ばれたアーサー=シモンズが立っていた。


「アーサー」

「なんだ」

「どうやら私はもうすぐ死ぬようだよ」

「そうか」

「悪いね、先にディアに会いに行って来るよ」

「ああ、あいつも待ってるはずだ。向こうで会ったらよろしく言っておいてくれ」

「そうだね。やっとだ」


「あいつはせっかちだったからな。俺たちの中で一番若いのに、一番先に逝っちまった」

「アーサーはゆっくり来ると良いよ。暫く私がディアを独り占めしたいからね」

「ああ」

「アーサー、君とは向こうで30年後に会おう」

「ああ・・・あ?なんで30年後なんだ?」

 レオはふふふと笑うだけで教えてはくれない。


「アーサー」

「なんだ」

「少し眠るよ」

「・・・ああ、じゃあな」


 レオからの答えはない。

 アーサーはそのまま王の間から出て行った。


 数日後、王の崩御を告げる鐘が王国中に鳴り響いた。


「レオン王が御逝去なさいました」


 家臣たちや貴婦人たちの嗚咽の声があちらこちらで聞こえる。

 国民も大勢王宮の周りに駆けつけて、レオの死を悼んでいる。


 悲しみの声が王宮中を渦巻いている。

 

 そんな中レオン王の唯一の側近だったアーサー=シモンズは、一人中庭に降り立ち空を見上げていた。


「・・・クラウディア、レオがそっちに行ったぞ。仲良くな」

 

 目を瞑ると子供の姿のクラウディアが笑顔でレオに手を伸ばし、やはり子供の姿に戻ったレオがその手を掴んで笑いながら空の向こうへ走って行く姿が目に浮かぶ。


 まるで二人の笑い声までもが聞こえるようだ。


 シワシワになってしまった手を目の上に置くと溢れる涙が零れて行った。


「・・・じゃあな、二人共。()()な」


 その八年後、アーサー=シモンズ 家族に見守られながら安らかに逝く。

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