アーサーSide ~アーサーの独り言3~
ー 五年後 ー
「そこまで!勝者、アーサー=シモンズ!」
剣の先を長兄に突き付け、俺は初めて近衛隊の剣術大会で優勝した。
「ははっ、とうとう末弟に負けたか。年々厳しくなってたからな」
地面に座り込んだ長兄に手を伸ばし起き上がる手伝いをする。
「しぶてぇんだよ。5年も首位を譲らないなんて。おかげで随分あいつを待たせちまったじゃねーか」
「ん?誰の事だ?」
分かっているくせにニヤニヤと笑って聞いてくる兄の手をペイッと放り投げた。
「まあ俺としても可愛い弟の婚期が遅れるのは本意ではなかったんだけどね、兄として弟に負けるのはプライドが許さなかったからね」
お兄ちゃんも断腸の思いだったよ。と言われたところで嘘臭過ぎて白けるわ。
「さっそく行くのかい?」
兄を無視して帰り支度をしている俺にレオが声を掛けてきた。
「ああ。今回は必ず勝つと宣言してきたからな」
「バカだね、ディアなら君がただの一騎士でも気にしないだろうに。こんなに待たせるなんて」
「ライバルが出来過ぎだったからな。最低騎士団の中で最強にでもならないとあいつに面と向かってプロポーズなんて出来ねぇよ」
レオがははっと軽く笑う。
「うまくいくと良いね」
「本気で言ってるか?」
「いや、社交辞令」
「だと思った」
こいつがディアを諦める訳がない。
それでも以前のレオとは比べようもない落ち着きがある。
正直今のレオと比べて俺に勝てる所なんてないんじゃないかと思う。
それでもあいつを譲る気はサラサラないが。
「じゃあな」
俺は剣を腰に付けてレオに拳を差し出した。
レオも笑って俺に拳を出した。
ゴツンと拳同士がぶつかりあって、俺はレオの傍から立ち去った。
本来なら着替えてから訪問すべきなのは分かっていたのだが、一刻も早くクラウディアに会いたくて騎士団の服のままクラウディアの家に直行してしまった。
「クラウディア!」
執事に案内されて中庭でお茶をしていたクラウディアに声を掛ける。
「アーサー、騎士団の試合終わったの?どうだった?」
俺は笑って親指を上げた。
クラウディアが破顔する。
「すごい!優勝したのね。さすがアーサー。こんなに若くして優勝したのなんて王国始まって以来初めてなんじゃないかしら」
クラウディアは手を叩いて喜んでいる。
そんな彼女を見つめながら、俺は黙って彼女の前に跪いた。
「アーサー?」
クラウディアが首を傾げる。
「クラウディア。俺と結婚して欲しい」
「!?」
とっくに用意しておいた指輪を取り出してクラウディアに差し出す。
「あ、ありがとう。あの、でも、私・・・」
手を出そうか引こうか迷って、クラウディアの手が宙に浮いている。
そんな中途半端になっている手を掴んで、俺は立ち上がった。
「クラウディアが何に迷っているのか分かってる。レオのことも好きなクラウディアの心丸ごとひっくるめて愛してる。だからお前は何も気にしなくていい」
「いいの?アーサーも大切だけど、レオのことも大切だって思う気持ちは多分私の中で消えないけれど、それでも良いの?」
「いいさ、俺の中にもレオがいる。それは恋愛感情ではないけれど、俺たちの中でレオは消せない存在なんだから、ある方が正常なんだよ」
「・・・でも私、アーサーが好きよ」
「知ってるよ」
「知ってたの!?」
「お前は顔に出やすいからな」
それ良く言われるとクラウディアが手で顔を隠す。
「隠すなよ」
手を掴んで外すと真っ赤な顔をしたクラウディアがいた。
「返事は?」
「・・・はい」
小さな小さな声でクラウディアは返事を返した。
アーサーはやっと手に入れた宝物を壊れないようにそっと抱きしめて、初めてキスをした。
◆
小さな男の子が木の枝を振っていた。
「やあ!とう!てやぁー!クリフらいだーのかちー!せーぎはかつのだわっはっはっは」
「クリフ、何をやっているんだ?」
「あ、とーたま!せいぎのみたかごっこだよ」
「味方な。ライダーって言うのは何だ?」
ひょいっと息子を肩に乗せ歩いて行く。
肩車をしてもらえて息子はご機嫌で「きゃー」と叫んでいる。
「ん、とねー。かーたまがせーぎのみたかはらいだーっていうのよって言ってた」
またあいつは訳の分からないことをと父親が頭を振る。
「あんまり母様の言うことは外では言わないようにな」
「なんで?」
息子は純粋に首を傾げる。
「多分他の人間は知らないからな」
「ふーん、かーたまものちりなのね」
「・・・そうだな」
「あのね、かーたま、かいじゅうもとってもじょーずなのよ。このあいだもぼくがえいってやったら、やられたーっていってくるくる~ってまわってかいだんごろごろ~したの」
ん?と父親が歩みを止める。
「まて、クリフ。それいつのことだ?」
クリフはんとーと考える。
1,2,3,4,5と指を5本曲げて、
「こんだけー」
にぱっと笑った。
「5日前か。どうりであいつの身体のあちこちに痣が出来てたはずだ」
呆れて物が言えない。
どれだけ身体を張って子供と遊んでいるのか。
そもそも貴族の奥方が怪獣役をやるのもどうなのか。
「クリフ、母様と遊ぶのは良いが、母様を怪獣に見立てて遊ぶのは止めなさい」
「どーちて?」
「母様は母様で怪獣じゃないだろう?正義の味方ごっこがしたいなら父様が相手をしてやるぞ」
「やだー!とーたまのかいじゅうつよいんだもん。とちゅーからけんのおけーこになっちゃうし。かーたまのほうがいい」
可愛い息子にあっさり振られて傷つく父親。
「今度からちゃんと手加減するから」
「ほんとー?」
「本当本当」
「んーじゃあ、おやくそくね!」
頭の上から小さな拳がおりてくる。
父親も自分の拳を作ってコツンとぶつけた。
「なんだか、物言いが母様に似てきたな」
「なぁに?」
くりっとした目で問われる。
「いや、なんでもないさ」
「あなたー、クリフー、お茶が入ったわよ。早くいらっしゃい」
「かーたまだ!」
頭の上の息子が喜ぶ。
「よし、じゃあ走るか」
「うん!」
父親は可愛い息子を肩に乗せ、愛する妻の元へ走って行った。