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王子Side ~レオンの独り言6~

 イングラム侯爵家滞在中ディアに来客が告げられた。

 カーラ帝国にわざわざ訪ねてくるような知人はまだいない。

 ディアは何も疑うことなく応接間に向かって行ったが、嫌な予感がした私はディアにばれないようにこっそりと後を付け、応接間の隣の部屋に入った。

 

 バルコニーに出て欄干を飛び移り、応接間のバルコニーに到着する。

 窓からそっと除くと聖女の後ろ姿が見えた。


 やはり訊ねてきたのは聖女だったか。

 こんな遅くにディアに一体何用か?

 ディアもディアだ。先ほどまで散々聖女の危険性を私が説いていたのに、なぜホイホイと一人で会う真似をするのか。

 

 もし聖女がディアに危害を加える気ならすぐさま窓を割って中に入ろう。

 そう心に決めながら私は二人の会話に耳をすませた。


 そうして盗み聞いた二人の会話の内容は奇想天外と言うべきものだった。

 いつものディアお得意の妄想話で片づけても良かったけれど、今回は聖女がいる。

 知り合ったばかりの二人による会話の整合性を考慮に入れると、想像や妄想の類で片づけられる話ではない事はすぐに理解できた。


 これは本当の話だ。

 私は外壁にもたれ外を眺めながら昔を思い出していた。


 ディアは子供の頃から良く本を読む子ではあったけれど、単純に読書量で言えば私の方が多い。それにも関わらず、ディアは私の知らない言葉を良く口にしていた。

 それは何かと問えば答えてくれる時もあれば、なんでもないと誤魔化す時もあった。

 ディアには何か秘密があるのではないかと薄々と思ってはいたが、どうやら本当だったらしい。

 

 前世、転生、精霊、ゲーム?。


 クラウディアの細い身体の中には一体どれだけ秘密が詰まっているのか。

 目を瞑り聞いた言葉を頭の中で整理しようとするのだが、中々進んでくれない。

 理解出来ない言葉や内容が多すぎて頭の中が混乱しているのだ。


 それでも分かることだけはある。

 クラウディアと聖女がこの世界の人間ではないということだ。


 いや、正確には生まれる前の記憶があるということなのか。

 ではここにいるクラウディアは誰なのか。 

 クラウディアではなく、クラウディアの顔と体を手に入れた別の誰かなのか。


 では私が愛したクラウディアは一体誰なのか。

 そもそもクラウディアではないから私は彼女を愛したのか。

  

 ぐるぐると思考が回り続ける。まるで蛇が己の尾を噛んで回っているかのようだ。

 考えすぎて気分が重くなり欄干にもたれる。

 外の風が頬を撫でて気持ちがいい。


 中ではまだ二人の会話が続いていたが、どうやら話が一段落ついて私とアーサーを呼ぶことになったらしい。

 

 私は二人にばれないように再び欄干を飛び移ってこっそりと自室に戻った。



 後日夜会に行く為にディアの支度が終わるのをアーサーと二人で待っている時、凛とたたずむアーサーを見てふと聞いてみたくなった。


「アーサー」

「なんだ?」

「もしディアが君の知っている女の子じゃなかったとしたらどうする?」

「? どういう意味だ?」

「そうだね、例えばディアが別の星から来た人間だとしたら?」

「別の星の人間?なんだそれ。本の話か何かか?」

「まあそんな感じかな」

「ふーん。相変わらず変な本も読んでるんだな。別にどうもしないだろ」

 あっさりと答えられてちょっと拍子抜けする。


「別の星の人間なんだよ。この世界の人間じゃない。それでも君は何も気にしないのかい?」

「何かこの世界の人間と違うことでもあるのか?例えば水の中でも永遠と生きていられるとか。火に当たっても平気とか。毒を食べても大丈夫とか」

「いや、そういったものは何もないかな。全部同じだよ」

「じゃあ何も悩む必要はないだろ。あいつはあいつなんだから」


 ハッタリでもなんでもないアーサーの答えに笑いが零れる。


「相変わらず手ごわいね、君は」

「なんだよ、なぞなぞか?」

 俺そういうの苦手なんだけどとアーサーが渋い顔をする。


「いや、即座に私と同じ答えを出すとは思わなかった」

「なんだよ、じゃあアタリだな」

「当たり?」

「お前と同じ答えならアタリだろ?」

 一ミリも疑わない態度に苦笑が漏れる。


「そうだね。当たりだよ」

 やった!とアーサーがガッツポーズする。


「随分簡単な問題だったな」

「簡単だと思うのは君だけだと思うけど」

「そうか?クラウディアも同じこと言うと思うぞ」

「ディアが?」

 ああ!とアーサーが軽やかに返事を返す。


「例えばレオが別の星からきた人間だったとしても、クラウディアは態度を変えないと思うぜ。まあ、それは俺もだけどな」

 どの道お前の頭は元から人間離れしてるしな、とアーサーは続ける。


「ふふ、そうか。そうだね。でもアーサー、君がもし別の星の人間なら私は君を確保して人体実験をさせてもらうよ」

「なんだよ、俺だけかよ!」

「当然だろう。まずは女性を魅了するその声の秘密から解き明かさせてもらおうかな」

「そんなの知らねぇよ。それを言うなら(女性を魅了)まず自分の面でも研究しとくんだな」

「それはつまらなそうだから止めておくよ」 


 アーサーとのくだらない会話はディアの支度が整ったことによって中断された。

 美しく装ったディアをエスコートしながら考える。


 ディアをこの世界に飛ばした存在は誰なのだろうかと。




ブクマ評価感想誤字連絡いつもありがとうございます(*^_^*)

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