王妃の懺悔
私はインディア国の王妃として国民の為、そして王の為に生きて参りました。
それは私の誇りであり私の罪でもあります。
私には2人の王子がおります。
嫡男のレオンは誰もが認める天才で将来王になることを幼少の頃から期待されるほどの逸材です。
弟のハインツは兄に似て顔立ちは整っておりますが、いかんせん次男ということもあり、少々甘えたところのある普通の男の子です。
問題はこの出来の良い王太子です。
レオンは王宮の決まり通り王宮指南役に物心ついた頃から指導されておりました。
しかし、これがそもそもの間違いでした。
レオンの顔立ちは亡き先代そっくりで、この年配の王宮指南役は先代の冷酷政策を嫌という程間近で見てきた人物だったのです。
当然レオンの顔に先代を重ね、畏怖すると同時に先代のようにさせてはなるものかと幼いレオンに対し人格破壊教育を行っておりました。
私達がレオンの異常に気がついたのは既に壊されてしまった後でした。
わずか3歳の幼子に笑うな怒るなと機械のようになる事を教え込んでいたと知り、我々はすぐにこの指南役をクビに致しましたが、時既に遅くなまじレオンが優秀だったこともあり、レオンの中で自分ではない完璧な王太子像が出来上がっておりました。
優しげな微笑みを浮かべ慈悲深く振る舞うレオンに非があるわけもなく、注意も出来ず否定も出来ず為すすべもなくただ時が過ぎるのを指を咥えて見ているだけでした。
兄弟でも出来れば少しは心を開くかと弟を作ってみたものの、逆にレオンの周りを不穏にするだけでした。
誰かレオンの心を救って欲しい。情けないことを承知で他力本願に縋っていたところ、親友のアンブローシアから愛娘であるクラウディアの仮病や逃亡などとても普通のご令嬢ではない振る舞いを聞き及び、もしかしてこの子ならばレオンの死んだ心を取り戻せるかも知れないと一縷の望みをかけて2人を引き合わせました。
2人の間に何があったかは知りませんが、見事にレオンはクラウディアに興味を持ちました。
私はもちろん喜んでレオンに協力致しました。これで少しはレオンも自分の心を取り戻してくれれば良い。その一心でした。
クラウディアと知り合うようになってから、みるみるうちにレオンは瞳に光を取り戻しました。
家臣達の前では相変わらず仮面のような笑みを浮かべていましたが、クラウディアやアーサーの前では年相応の顔を見せていることに嬉しくて涙が出ました。
ハインツにも兄らしく愛情を持って接してくれるようになりました。
全てはクラウディアのおかげです。
愚かな両親のせいで犠牲になってしまった幼いレオンの心を取り戻してくれたあの子は天使のような子です。
このままレオンと結ばれて欲しい。そう願ったからこそクラウディアには私の出来うる限りの王妃教育を施しました。
クラウディアは実に飲み込みの良い子ですぐに教えた事は覚えてくれました。
たとえ飲み込みが悪くともレオンが望むならもちろん私はクラウディアを王太子妃に押したでしょう。
全てが上手くいっていたのに、何故かレオンは途中で身分の低い女性と噂になることをしでかしました。
もちろん私にはレオンがクラウディアを諦めたなんて少しも思えませんでした。
必ず何か訳がある。私にはそれが分かっておりましたけれども、それがレオンの悪手にならないかととても心配致しました。
案の定激怒したアンブローシアに内々定の婚約破棄を申し付けられました。
あ〜レオン。頭が良いのに女性の感情に疎いのは一体どうしたものか。
女性の心を手に入れるのに必要なのは策略や陰謀ではなく、己の素直な感情であることをきちんと私が伝えておけば良かった。
男性にとっては問題ないだろうと投げた小さな小石が、女性にとっては車輪の道筋を変える大きな転換になってしまうかも知れないのに。
愛おしいレオン。
どうかあなたのこれからの人生が幸せなものでありますように。
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