アーサーと東屋と
4人でこのまま話すのかと思っていたら、アーサーが二人に「少しクラウディア嬢と話がありますのでお借りしても良いですか?」と断って私をその場から連れ出した。
どこへ行くのかと思っていたら、アーサーは私の手を引いたままずんずんと奥へ向かって行った。
このまま進んだらお茶会会場から外れてしまうんじゃないかしらと心配していたら、案の定アーサーは会場ではない東屋まで来てしまった。
「ふー、窮屈だった」
着くそうそうジャケットを脱ぎ、首まできっちり止められていたシャツのボタンを3つも外して、どっかりと椅子に座りこみ私にも隣に座るよう手で促した。
「抜け出す口実に私を使ったわね」
「いいじゃないか、お前だってああいう場所嫌いだろ」
「別に私は嫌いじゃないわよ」
一緒にしないでと怒ったら、
「ふーん、じゃあ戻れば」
と冷たいことを言われた。自分が連れ出したくせになんて身勝手な。
「ウソウソ。お前をあそこに戻したら俺が叱られる。頼むからもうちょっとだけ一緒にここにいて」
甘えるように言われて逆らえない。だって可愛すぎるでしょう、なんなのこの生き物。
「もう、しょうがないわね」
にやつく顔を隠しながらアーサーの隣に座る。
じいっと顔を凝視される。
「なに?」
「いやーお前さ、あのダレルって奴に興味があるの?」
「ダレル?まああるといえばあるし。ないといえばない」
自分の恋愛的には全く興味はないが、リリアーナの相手としては興味がある。
「なんだそりゃ。お前って相変わらず変だな」
「変って何よー。っていうかいつまでアーサー私のことをお前って呼ぶのよ。私にはちゃんとクラウディアって名前があるんだから、ちゃんと名前で呼んでよ」
「呼んでなかったか?」
呼んでもらったことありませんー。
私が頷くと、アーサーはなんだそんなことと屈託なく笑って呼んだ。
「クラウディア」
「!!!!!」
やっばい。破壊力半端ない。
笑顔で名前呼びってなんのご褒美。頭クラクラしちゃう。
「じゃあ次はディアって呼んで」
てっきり簡単に呼んでくれるものだと思っていたのに、それは渋い顔をされた。
「あー、それはちょっと無理」
「なんで?」
「俺が殺される」
「は?誰に?」
「それは言えない」
なにそれ。けっきょくまだ私と愛称で呼び合う仲じゃないってことじゃない。ブーブーブー。
むくれていると、アーサーは苦笑しながら私の膨れた両の頬を親指と人差し指で挟んで潰した。
「そんなにむくれるなよ。お前の取り柄は顔なんだから、もったいないだろ」
良く聞けばかなり失礼なことを言われているのだが、アーサーの醸し出す無自覚な色気にもはやノックダウン。
本当にこの人ズルいと思う。
「なあ、じゃあレオのことはどう思ってる?」
なぜ先ほどからアーサーと恋愛話をしなくちゃいけないの?愛称呼びもしてもらえない仲なのにと思って無視しようと思ったが、存外真剣な顔をアーサーがしていたので、仕方なく答えた。
「腹黒」
私がそう言うとブハッとアーサーが噴き出した。
アハハハハハハハと静かな東屋にアーサーの笑い声が響く。
「ねえ、ちょっと笑い過ぎ」
ただでさえサボっているのにバレたらどうするつもりなのか。
「いや、やっぱお前ってサイコー。まさかあの完璧王子様を腹黒と表現する奴が俺の他にもいたなんて。アハハハハ、ダメだ。笑いが止まんねー」
アーサーが笑い袋と化してしまったので、仕方ないので治まるまで放置した。
なにがそんなにツボだったのか。
「はー、笑った笑った。1年分笑った感じ」
「そう、それは良かったわね」
あまりにも長い間笑われていたので、呆れてどうでも良くなった。
「最初レオの奴からエストラル侯爵家の令嬢と婚約するって聞かされた時は反対だったけど、お前なら俺も良いと思う。あいつの事上辺だけじゃなくちゃんと分かってるみたいだし」
「婚約してないから」
はっきりきっぱり断ってますから。
「今のところはね。でも、相手はレオだぞ。お前逃げられるのか?」
ぐっ。それを言われると自信ない。けど、逃げられる根拠ならある。
7年後にヒロインちゃんと出会うからね!
王子はヒロインちゃんにベタボレになるはずだから、私なんてすぐ用無しよ。ポイッよポイッ。
「訳は言えないけど、大丈夫。レオはちゃんと自分で相手を見つけるから」
こんな家同士の都合で選ばれた婚約者候補じゃなくて、真実の愛で二人は結ばれるのよ。
「もう見つけてると思うけど。まあお前がそういうならいいさ、俺がでしゃばることでもないしな」
アーサーは腕を頭の後ろに組んでコロンと横になってしまう。
良い風が吹いてきてアーサーは気持ちよさそうに目を瞑る。
キスしちゃうよ、コラ。
「ねえ、アーサーはなんでレオの側近になったの?」
ゲームでもアーサーはレオの側近だったから今まで気にもしなかったけど、この自由が大好きなアーサーが自らの出世の為にレオに媚を売ったとはとうてい思えない。
アーサーは昔を思い出すように眉間に皺を寄せた。
「んー、3歳か4歳の頃だったと思うんだけど、父上に連れられて王宮に行ったら俺の他にも同じくらいの年の奴らが一杯いて、レオに引き会わされた。多分それが側近選びだったと思うんだけど、周りの奴らは親に言われていたのか一生懸命レオの機嫌取っていて、俺はそんなの知らなかったからつまんねーなーと思って途中で帰っちまったんだけど、なぜか俺が選ばれた」
「ええ?なにそれ」
「だろー。途中で帰ったことで父上に散々説教という名のしごきを受けてさ。蓋開けたら俺が側近に選ばれてんの。俺説教される謂われなくない?」
・・・いや、それはあると思うわよ。王宮に呼ばれてるのに勝手に帰っちゃダメでしょ。
「そもそも王子の側近選びだっていうなら父上も俺に最初から言えば良いんだよ。それなのに俺にはとにかく逃げるな。ここにいろしか言わないしさー」
それはアーサーのお父様が正しいと思います。
王子の側近選びなんて言ったらアーサーの事だから、そんなくそつまんない役目いらねーって逃げそうだもの。
あ、どっちにしても逃げたか。
「まあそんなわけでそれからずっとレオとは腐れ縁だよ」
「仲良いよね」
私がそう言うと嫌がるかな?と思ったけど、アーサーは片目を開けてニヤッと笑い
「まぁな」
と同意した。
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