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かくおの短い物語集

「無人島と笑い声」

作者: かくお

水平線を眺めながら男は笑った。

アハハハハーと声を出して笑ってみた。


小さな島で一人暮らす男はテレビもラジオも持ってない。

雨をしのげる程度のほったて小屋で寝泊まりし、テニスコート程の畑を耕し、その横に建てた小さな鶏小屋、それが男の持ち物だ。


魚を釣ったり畑の野菜を収穫したりの自給自足な生活をしている。


男の朝は早く、日が出る少し前に目覚めると、急いで磯場に向かい釣り糸を垂らす。

この時間帯がよく釣れるのだ。


そこそこのサイズの魚が5匹も釣れれば一日分の食料としては充分で、竿を畳んだらすぐに畑に向かい朝露に光る野菜を収穫する。


次に鶏小屋で卵を3つほど拾って食料調達は終了だ、その頃になってようやく太陽が顔を出す。


地下に掘った食納庫に食料を一旦しまいこむのだが、魚だけはエラと内蔵、さらには丁寧に血抜きもしてから塩を軽くふり、外で天日干しにしておく。

野菜と卵はそのまま食納庫に放り込んでおく。


魚は下処理さえキチンとすれば長持ちするから、今日食べきれなくても明日に回せるわけだ。


ここまで終えたところで一息つく。

それでも太陽はまだやっと上り始めた頃で、今日の一日もまだまだ長い。


二度寝をする事もあるけれど、今のところ特に眠くもないけれど、特にする事もないので砂浜に寝そべって時間を過ごす事にした。


本当にやる事がないし、自分以外誰もいない。


砂浜は一面が真っ白で、透明感のある海もとてもキレイだ。

波の音だって普通なら単調に聞こえるかもだけど、毎日聞いていると単調の中に複雑でランダムなリズムがある事に気付く事が出来る。


まるでオーケストラに囲まれてる気分にすらなる。


それでも1人で小一時間も聴いていれば飽きてくるし、一緒に楽しめる相手が欲しくなってしまう。


そうすると男は鶏小屋に向かい、腰を下ろして鶏達に話しかける。


「今日はいいサイズの魚がつれたぞ」

「君達を食べたりはしないがね」

「波音のオーケストラは聞こえたかい?」


何を話しかけても鶏はココッコッーと勝手なタイミングて鳴くだけだ。


太陽が真上に来るのはまだまだ先だ。


それでもさすがに少し眠たくなってきたし、腹も減ってないので、小屋でひと眠りする事にした。

すきま風が心地よくて、3時間位うとうとと眠っただろうか。


太陽は真上を少し過ぎたあたりにいた。


眠ったせいか少しだけ小腹が減った気がしたので、食納庫から卵を2個とほうれん草を取り出し炒めて食べた。

塩コショウだけでも結構いけた。


それでもやはり夜までやる事もないので、島を散歩する事にした。

とはいえ島の中央部の山に登る程の元気はなかったので、近場の草むらを棒きれで振り払いながら歩いた。


森の手前まで来た時、木の上にとまっていた鳥が、ケタケタケタッと鳴きながら飛び立った。


その鳴き声を聞いた男はふと気が付いた。


そういえば最近笑ってないな。

たしかに自分は笑っていない。

独り言の時だって、鶏に話しかけてる時だって笑ったという記憶がまるでない。


魚がたくさん釣れた時は楽しいし、野菜が元気に育っている時、卵からヒナが孵った時、どれも楽しかったはずだが、どの時でも笑ってはいなかったな。


それはなんか良くない気がする。

喜怒哀楽の感情は大げさにでも表に出した方がストレス解消になるはずだ。


そう思った男は振り返り、海の彼方に見える水平線に向かって笑い出した。

出来るだけ大きな声で。

アハハハハー。


しかし、そもそもここに暮らしてから、特にストレスを感じた事もない。


まーいいか。

あははははー。

男は少しだけ心から笑った。




おしまい。


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