7:愛は届かず
投稿時間を間違えたので初投稿です
警備室のドアには鍵が掛けられていた。
エクスは先程の兵士のズボンのポケットに入っていた鍵を使ってみる。
鍵穴に差し込んで右にひねるように回すと、ガチャンという音と共に施錠が解除された。
警備室には化け物はいるだろうか。
ゆっくりとエクスが警備室のドアを開くと、警備室の奥には頭を撃ちぬかれた兵士が倒れていた。
いや、よく見ると右手の一部は損傷しているのと左手にはエクスと同じ型の拳銃が握られている。
頭部と右手以外の損傷は見受けられないので、恐らく感染者に噛まれ、化け物になる前に自殺したのだろう。
兵士の胸元につけていたネームプレートから「アンドウ」という人物のようだ。
エクスはゆっくりとドアを閉めてから警備室内を物色する。
罠のようなものは確認されていない。
警備室はそれほど広くはないが、マンションの一部屋分ぐらいの面積はある。
部屋の真ん中に設置されている机に日誌が置かれている。
そこには自殺する直前に書いたと思われる遺書のようなものが残されていた。
エクスは日誌を見ながら、アンドウが自殺するまでの出来事を順に追っていく。
この日誌は18ページほど記入があるが、そのほとんどが警備の巡回内容であった。
4日前までは2行程度でしか書かれていないごく普通の業務日誌だが、あの化け物…感染者が施設内に侵入した3日前の午前中の業務が終了した後から怒涛の勢いで殴り書きしたように書かれていた。
『4月19日、午前中の警備内容確認:A区画のトイレの配水管の修理完了。およびタオルの補充完了。目立った異常は無し。午前中の警備業務終了。………くそくそくそ、どこからか侵入したかわからないが感染者が施設内部に湧き出やがった!警備巡回の休憩で偶々リョウと一緒にこの部屋にいたことで難を逃れたが、ドアの向こう側には感染者が徘徊している…うめき声をあげて他の入居者の連中を襲ってる………ドアを必死に叩く音が聞こえたが、相手が感染していないという保証はない。だから俺は見殺しにしたんだ。ああ、食われている音がする…やめてくれ…精神がおかしくなりそうだ………畜生、こんな悪夢から早く醒めてくれ!!』
『4月20日、ああ、薬の効果が切れてきた………身体中から痛みが止まらない。持病の薬は部屋に置いていたことが仇になった。いつも持ち歩いているのに昨日に限ってポケットに入れるのを忘れてしまった………昨日に戻れるのなら自分をぶん殴ってでももってくるべきだった、いたい、本当に痛い。ナイフを皮膚に突き刺すような痛さだ………苦しんでいる俺を見かねたリョウが薬を取りに行ってくると言って部屋を出た………そしてまだ戻っていない。ショットガンぐらいもっていけと言ったのに、重たいしリロードに時間がかかるからサブマシンガンのほうがいいと言って武器庫からMP5を持って行った………大丈夫かな、明日になれば来るよね………』
『4月21日、最悪だ最悪だ最悪だ………何もかも最悪だ。リョウは帰ってきた。だが、痛みを我慢してドアを開けた時には、リョウは感染者になって帰ってきたんだ、嫌にデカい一つ目の目玉になって…。MP5は何処かに落としたらしいし、おまけに俺の右腕に噛みついてきた。慌ててリョウを蹴り飛ばしてドアを閉めたが………もう身体は思うように動かない。なんとかやせ我慢して動かしている。こうやって文字を書くのもつらい。もう駄目だ。好きだったリョウは感染者になってしまうし、俺も噛まれた………もう嫌だ。疲れた。楽になりたい。リョウのような姿にはなりたくない、リョウ………ごめん、俺、お前を殺せない。ごめん。だからせめて俺は俺自身で先に逝くことにするよ。ごめん、俺が薬を忘れなければこんなことにはならなかったのに………ごめん、さようなら』
日誌はここで途絶えている。