5:合言葉は…
アヤに待っていろと待機させて部屋を飛び出していった研究者は今頃化け物に食べられてしまったか、あるいはその仲間になったのかもしれないとエクスは思ってしまう。
死亡フラグを言って見事フラグを成立させてしまった典型的な例だ。
ゲームや映画では、そういって帰ってこなった者は後半に無残な死体となって発見されるか、化け物の仲間になって主人公たちに襲い掛かってくるのがお約束である。
きっと二つのうちのどちらかだろう。
エクスはなるべく縁起の悪い言葉は使わずに、これからどうするか考えていた。
「しかし…これからどうやっていこうか…武器はこれだけしかないからな…」
右手に握っているSSP220拳銃が身を守る唯一の道具だ。
先程2発撃ち込んだので、残りは28発だ。
今後これだけで切り抜けるのは些か心細い。
何処かに武器がないかとエクスはアヤに尋ねた。
「アヤ、この近くに武器は無いか?」
「武器…ですか…そうですね、この講義室は一通り探して見つけたのですが…武器は研究者の方が持って行ってしまいました…」
「あーっ………そうか、うん、まぁしょうがない。武器の保管庫とかは無いのかい?このA区画内で…」
「A区画内でしたら兵士が駐在する警備室があります。そこにいけば武器があるかもしれません、私が行きましょう」
武器があるのか、エクスは少しだけ前向きに考えることができそうだ。
拳銃だけでは何かと不便だ。
出来ればショットガンが欲しいところだ。
散弾銃であれば狭い廊下や部屋では弾が拡散して近接の標的に大ダメージを与えることができる。
警備室には拳銃や散弾銃が置かれている可能性が高い。
少々危険だが、身の安全を守るためにも武器を揃えなければいけない。
もう一つ、エクスが行かなければならない理由があった。
「アヤ、警備室までの道のりを教えてくれ、俺が武器を取ってくる」
「で、ですがそれはあまりにも危険です…!!エクスさん!!!私が武器を取って来ます………!!!」
「アヤ………気持ちは有り難いが、お前さん充電が切れそうなんじゃないか?ほら、胸元の部分が黄色に点滅しているじゃないか………ちょうど充電マークが出ているし………」
そう、エクスがアヤに武器のある場所を尋ねていた際に、アヤの胸元が光りだしたのだ。
そして、その光は充電をしてくださいという警告マークでもあった。
恐らくアヤはエクスを犠牲にしたくないが為に言っているのだろう。
「もし行っている途中でアヤが充電切れになったどうする?今度は俺が彷徨うことになるんだぜ?そうなったら御終いだ。なーに、銃火器を扱う事には問題ないさ。必ず帰ってくる。アヤの場合はバッテリーを交換すればいいのか?あと、この部屋のコンセントでは充電が出来ないのか?」
「はい………その、私の場合は通常のコンセント規格では充電できない特殊な端末を使用しているのでホームベースで充電する必要があるのです。ですがホームベースは恐らく感染者が多くいるでしょう………非常用のポータブル方式の簡易充電器があれば規格に合う端末接続による充電ができそうです」
「なるほどね、ポータブル方式の簡易充電器だな…なるべくフル充電してあるのを持ってくるよ」
「ありがとうございます…。警備室はこの講義室を出て右側の通路を進んで消火器が設置されている場所を左に曲がってお手洗い場のすぐ隣にあります。距離は200メートル先になります」
「オッケー、任せておけ。とにかく俺が講義室から出たら化け物が入ってくるかもしれないから戸締りはしっかりしてね。あと合言葉を決めておこう、部屋に入るための音声認識を決めておけば俺だって分かるでしょ?」
「合言葉…ですか、はい、了解しました。では合言葉は何にしますか?」
「そうだな…合言葉は………………」
エクスは合言葉をアヤの音声認識機能の役割をしている耳の部分に囁くように応えた。
するとアヤは少し恥ずかしそうな仕草をするも、合言葉としてその言葉を音声認識として使うことに合意した。
呼吸を整えたエクスはアヤに「頼むぞ」と言葉を残すと講義室のドアをゆっくりと開けて周囲を警戒しながら銃を構えて警備室へと歩きだした。