12:職員専用室
エクスとアヤは講義室を出てから音を極力立てないように静かに移動していた。
エクスはSSP220を両手で持ち、アヤはショットガンを片手で持ちながら警戒しつつ、廊下を歩いていく。
ついさっき警備室前で銃を発砲した際に死んだ化け物達の死体は転がったままだ。
もう動くことはないが、相変わらず臭いがきつい。
左手でエクスは鼻をつまみながら前を進んだ。
300メートルほど歩いた先に、職員専用室の札が掲げられた部屋を発見した。
職員専用であるので、他の人間はいないのだろうか。
職員専用室は二部屋分もあるようで、エクスとアヤの奥にも同様の職員専用室と札が掲げられたドアがある。
もしかしたらこの部屋は安全かもしれない。
周囲には化け物の姿は見受けられない。
万が一部屋の中に化け物がいたようなら真っ先に逃げれる態勢をエクスは取る。
部屋に入室するには職員の身分を証明するカードが必要なようだ。
部屋のドアノブの上に取り付けられた認識装置に職員カードを差し込む必要があると注意書きが書かれている。
カード…そう、エクスが最初に一つ目の化け物を倒した際に、身体の上半身を食われていた研究者の近くで落ちていたので拾ったカードがある。
それが職員専用のカードなのだ。
エクスはポケットにしまっていた職員カードを取り出す。
(もしかしたらこれが使えるかもしれないな………)
エクスは試しに拾った職員カードを認識装置の差込口に入れる。
認識装置は中性的な声で職員カードの情報を読み上げた。
『A区画一般職員 識別番号 A402-09………オカベ・キョウタ………認証取得。ドアの施錠を解除します。』
認識装置はパスワードなどを要求することなくドアの施錠を解除した。
部屋の施錠が解除されたことで、エクスは右手で銃を構えて左手でドアノブを回してゆっくりと職員専用室のドアを開く。
蛍光灯が付いたまま誰もいない。
部屋の隅にはカーペットが敷かれていて、タンスやベッド、テレビに冷蔵庫や電子レンジも取り付けられている。
まるで宿直室のような雰囲気であった。
部屋を見て安全だと判断したエクスはアヤに部屋に入るように伝えて、アヤが部屋に入ると同時にドアを閉めて施錠を行う。
「この部屋は一先ず安全だと思う…冷蔵庫もあるし食べ物もあるかもしれないな、アヤ、何か役に立ちそうな物はありそうか?」
「そうですね………あっ、エクスさん。これは貴方に役立つものだと思いますよ!」
アヤがエクスに見せたのは手袋であった。
それも黒色のミリタリーグローブで、タンスの上に置かれていたようだ。
アヤに手袋は不要である。
ロボットであるので手が荒れる心配はない。
酷使して摩耗すれば交換する必要はあるかもしれないが、今のところそのような心配はない。
エクスの場合は化け物による接触感染の危険や、銃を振り落とすリスクを軽減させるものだ。
アヤから渡されたミリタリーグローブをエクスは受け取る。
「おお、サイズも申し分ないな………ありがとうアヤ、助かるよ」
「ありがとうございます。エクスさんのお役に立てれて何よりです」
ペコリとお辞儀をしてアヤはエクスからの感謝の言葉を受け取っていた。
そして、先程の化け物達のせいで台無しになってしまった食事だが、この職員専用室の冷蔵庫の中には先程食べ損ねたツナ缶や冷凍食品、お茶類などが詰まっていた。
エクスが冷蔵庫を開けると、その豪勢さに思わず感嘆を漏らす。
「おお、いいねぇ………この空間だけ天国に思えてくるよ、テレビや電子レンジは使えそうかな?」
「いま確認してみますね………ッ?!エクスさん!!!こ、これは!!!」
アヤが突然驚きの声を上げた。
エクスが振り向くと、テレビの画面が付けられていた。
テレビに映し出されていたのは渡された原稿を読み上げている一人の小太りの男が映し出されている。
小太りの男の後ろにはT89式アサルトライフルを抱えている複数の兵士の姿もあったのだ。




