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Episode:0

 黒髪の少年は、汗を流し、息を切らしていた。

 しかし、ここで焦ってはいけない。

 (母なる生命へ......感謝します。)

 少年は決して祈りを忘れるような人間ではなかった。

 寒さに細い体を震わせながら、手をかかげた。

 数秒、静止した。

 そのあと、少年は懐からナイフをとりだした。短剣ダガーより一回り小さい、狩猟用のナイフだった。15㎝ほどの刃渡りの、小柄なナイフだった。装飾の施されていない柄に、刃がついている。

 祈った後は、すぐに息の根を止める。それが礼儀なのだと、両親から教わった。

 相手の命を尊重し、一撃で仕留める。

 力はいらない。左手で体を抑え、右手にナイフを握る。

 細い手首を返し、首元に狙いを定めると、一想いに突き刺した。

 とてもやわらかかった。動脈を貫いたのだと分かると、するりとナイフを抜く。柄を握る手が、血でぬれていた。

 たちまち、吹きだした紅に、泥まみれの毛が染まる。

 小さな傷口から、血がとめどなく流れていた。魂が、無に帰る。少年はそれを、虚ろな目で見届けた。

 少年はハッと我に返り、左手を無造作に動かした。

 冷たい体に生える、銀色の毛並みが心地よい。そうして手を這わせていくうちに、ぬめっとした感触を認めた。

 矢は、足のやわらかい肉の部分に深く突き刺さっていた。そこも、矢の刺さった辺りが染まっている。

 力をこめて、矢を引き抜く。先端の突起が引っかかったので、なかなか抜けない。

 力任せに、引っ張った。

 筋が切れる音がして、少量の血とともに矢は抜かれた。

 抜いた部分だけ、肉がえぐれている。

 少年はため息をつき、腰を下ろした。背負った鞄からロープを取り出し、ぐるぐると巻いていく。

 ”オオカミ”の群れの、一番小さい奴を狙ったので、それはいとも簡単に担ぐことができた。

 滲んだ血が垂れるが、気にはしない。

 そのまま積もった雪に血の跡をつけながら少年は村の裏山を下りて行った。

 夜のことだった。

 

  

 

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