86.今後の方針
「お腹がいっぱいになったところで、会議をしたいと思います」
今後どうするかを決めたいのだが、僕の独断というのはもう辞めたい。
「お兄ちゃんがそんなこと言うってことはさ、何も分からなかったんだね?」
僕はひとつ頷いた。
「そこで僕と霞で十分に話し合い、精霊たちの意見を取り入れた上で、行動を決めようと思う。どうだろう?」
「良いと思うよ。この世界のことは私たちよりも精霊さん達の方がわかっているものね」
「儂らが旦那様の行動を左右してしまうというのは、どうかと思うがの」
「私はご主人様の行かれる先なら、どこにでも付いて参ります」
意見を述べるのは畏れ多いと口々に漏らす、精霊たち。
「お前たちに求めるのはだな。まず、僕と霞がこれからの行動の指針を決めるだろ?
それが本当に可能かどうかの判断をして欲しいんだよ」
僕たちの常識では可能だとしても、この世界の常識に照らし合わせた上で可能なのかを知りたい。精霊たちにその判断を委ねるのは危険な気もするが、ここには僕たち以外は精霊たちしか存在しないので致し方ない。
「儂らに人間や魔族の常識は解らぬの。それでも良いのかの?」
「それは重々承知しているよ。それでも聞いておいた方が良いと思うんだよね」
「それでお兄ちゃんはどうしたいの? 私はお兄ちゃんに任せるのが一番だと思うんだけどね」
「それじゃ今までと何も変わらないだろ? お前の意見も積極的に取り入れたいんだよ、霞」
結果が思わしくない時に良い逃れをしたい訳ではなく、後悔したくないだけなのだ。その為にも霞の意見も取り入れるべきだろう。
「僕としては、霞の意見を先に聞きたいかな」
僕が先に意見すれば、霞はそれ肯定するだけで終わりそうだもんな。
「私はもう家に帰れなくても構わない。お兄ちゃんが居るんだもん、それだけで十分だよ」
霞は最初からあまり帰る意思を示してはいなかった。だからって本当に帰らなくて良いというのも、些か短絡的すぎるのではないだろうか。
「僕は帰るべきだと思う。父さんと母さん、爺ちゃんや婆ちゃんは心配していると思うんだよね。それどころか、もっと大変なことになっているかもしれない」
両親のことを想うと心が痛む。子供を二人とも失ってしまった両親の心境はどのようなものだろう?
「お兄ちゃん、お父さんやお母さんのことも考えていたんだね。私は自分のことしか考えてなかった」
反省でもしているのか、霞はしゅんとしてしまった。
「まあ、気に病んでもしょうがないよ。それでことが解決する訳じゃないし」
「調べようよ! とことん調べて、駄目だったらスパっと諦めよう?」
前向きなのか、後ろ向きなのか訳の分からない。あっさりし過ぎだろう。
「ふむ、他の大陸に渡るのはどうかの? 他の大陸は人間が大勢を占めるらしいからの」
そうか! この大陸に拘る必要は無いのか。
「この大陸も全て調べたわけじゃないけど、大陸は一つだけじゃないんだよな」
「でもそれだったらさ、この大陸を先に調べた方が良くない?」
それもそうだ。
「最初に訪れたのがこの大陸であるならば、何か理由があるのかもしれませんよ?」
ルーの意見。確かにそう言われてみれば、そうなのかもしれない。
うーん、困ったな。埒が明かない。
「どうしよう? 悩むな」
「まずこの大陸を調べようよ、その後に他に行けばいいじゃん」
調べるたって町にある文献を漁るのが関の山なんだから、そんなに苦労はないはずだ。
「じゃあ、この大陸の全ての町を回ってみるか?」
「私はそれが良いと思います!」
「儂もそれが良いと思うの。大体、儂もこの大陸から出て事が無いからの。冒険はちと怖いのじゃ」
本来はあんな巨体なのに、何を臆病なことを言っているんだ? 何でも力押しで解決出来そうなのに。
「そうすると、だ。地図が欲しいな」
「ここがどこら辺かもわからないね」
「儂も適当に飛んだからの」
ほとんど迷子だよね。
「ここはぼぼ大陸の中央に位置しますよ」
「本当なの? ルーちゃん」
「はい」
「ルー、この近くに町はあるか?」
ルーを目を瞑り、首をグルグルと廻している。
「ここから更に西、少し北ですかね。魔王都と比べると小さな街ですが」
首都である魔王都と比べるのがおかしいのだ。
「よし、まずはそこから始めようか。町を目視できる位置まで夜霧に飛んでもらって、そこから歩いて移動しよう」
「夜霧ちゃんが見つかると大騒ぎになっちゃうもんね」
「出発は明日の朝一番。明るいと見つかっちゃう確率も高いけど、夜だと何も見えないしね」
夜闇の中、夜霧に乗って飛ぶのが怖いという理由ではない。絶対に違う。
「それとアレだな、小さな町だとお前らを連れ歩くのは無理があるな」
「儂は此奴らのように消えることは出来ぬぞ」
「夜霧ちゃんはしょうがないよね」
夜霧はもう仕方がないから、除外。
「他は……交代制にするか」
誰と誰を組ませるかとても難しいけど、町に入れなくなるよりはマシだ。
イフリータやスノーマンはジルヴェストと相性がいい。シュケーはオンディーヌとガイア。ルーは……、ルーはジルヴェスト組に加えてしまえ。
「チームを分けるぞ。ジルヴェストとルーでイフリータとスノーマンの面倒を看るのがAチーム。オンディーヌとガイアでシュケーを担当するのがBチームだ。
基本的には日替わりだな。あとはその時々で指示を出すので、きちんと従うように」
『わかったー。呼ばれたら来るけど、ちゃんと帰るよー』
『おー』
最近の幼少組は物分かりが良くなってきた、精神的に成長しているのかな?
「なんで今から行かないの?」
「こいつらがどうかは不明だが、霞お前、疲れてるだろ?」
獲物を探し求めて適当に歩き回っているはずだ。いくら精霊たちが付いているとはいえ、多少の無理はしているのではないだろうか。
「そんなことないよ、体育の授業でマラソンするよりはマシだよ」
そんなものと比べられてもな。
「明日と決めたのだから、今更変更しないよ。今日は移動する準備を整えておこう」
「準備も何も食べた後の片付けくらいしかないけどね」
霞が精霊たちに用意させた、簡易なバーベキューセットの後始末くらいしか確かにやることはない。明日の朝ガイアにドームを潰してもらえば、準備は完全に整う予定だ。
「お母さんたち、やっぱり探してるよね?」
「だと思うけど、どうだろう」
実は夢でした。とか、都合の良いことは起こらないだろうか?
僕もまだ疲れているのかな? 希望的観測を抱いてしまっている。物事は悲観的観測を元に考慮しないとね、父に怒られてしまう。
『最悪を想定して物事を考えろ』と、いつも言われていたっけ。
だから、最終的に帰れない時のことも考えておく必要がある。




