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84.古き龍の姉妹

「もう一度確認するぞ。夜霧の妹さんは白くて、お前よりも小柄なんだな?」

「そうじゃの。小生意気じゃが可愛いところもあるのじゃよ」

 そんなオプションは訊いていない、容姿だけ分かれば多分だが大丈夫だろう。


「よし! それじゃあ、始めよう。

 雪のように白い龍、夜霧みたいに馬鹿デカくないっと」

「儂は別に馬鹿デカくなどないのじゃ、儂より大きい奴も居るのじゃ」

 目を瞑り頭の中で思い描いてみるが、夜霧の反論で掻き消えてしまった。

 それにしても白くて、それなりの大きさというだけではイメージするのも難しい。もっと詳しく訊いておかねば。


「姿形は夜霧と同じような感じで良いのか? 4本足で立つとか」

「儂を小さくした感じじゃの。儂も少し大きなだけで可愛いものじゃしの」

 何か寝ぼけたことを抜かしているが、ここはスルーするところだろう。

 夜霧が怒るので口には出さないが、西洋のドラゴンに似た白い姿だと思えば良いみたいだな。


「改めてやり直しだ。

 雪のように白い龍、夜霧の1/3程の大きさっと」

 今度はちゃんとイメージ出来た。続けて、頭の中から呼び掛ける。

『えーと、初めまして、夜霧の、ああ、えっと漆黒の大きな龍の妹さん聞こえますか? もしもーし』

 うんともすんとも言わないな。少し試してみよう。

「夜霧、ちょっとこっちに来い。そこで大人しくしとけよ」

「なななな、何をするのじゃ? いきなり積極的になりおってからに」

 人化した夜霧は僕よりも背が高いのだが、無理矢理に肩を組んだ。


「この状態で試してみよう。イメージは固まっているから、呼び掛けるぞ。

 お前も妹さんをイメージしてくれると助かるよ」

「よく分からぬが、やってみるのじゃ」

 夜霧の意思も僕を介して送ってみようと思う。試して駄目なら、他の手を考えるしかないけどね。


『もしもーし、漆黒の龍の妹さん、居たら返事してください』

『儂じゃ、妹よ、返事せい』

 夜霧の意思が僕の中に流れ込んできている。それを僕の意思と共に相手へと発信する。繋がっているかどうかすら判然としないのだが、やってみるしかないのだ。


『……この声は……お姉さん? ……何か別のものも含まれている?』

 聞こえた! 上手くいっているかは別として、繋がってはいるようだ。

「夜霧、聞こえたな?」

「うむ、聞こえたの。あれの声じゃったの」

 夜霧が妹と認識している以上、間違いはないだろう。否、そうでないとやってられない。

『もしもーし、聞こえたら返事してください』

『儂じゃ、おい返事せよ』

『お姉さん、これはどういうこと? 新たな魔法を編み出したの?』

 今度は上の空ということもなく、きっちり返事をしてくれた。


「夜霧、説明を頼むよ。僕が入るとややこしくなりそうだからさ」

「任せよ」

『新たな魔法ではあるやもしれぬが、儂がやっておるのではないのじゃ。儂の旦那様がお主と繋げてくれておる』

『お姉さん、旦那さまってつがいを見付けられたのですか? おめでとうございます』

 なんか話の流れがおかしな方へと向かっているぞ。

「旦那様なんて、紛らわしい言い方するからだぞ」

「黙っておれ、気が散るのじゃ」

 ぐっ、任せるといった以上、見守るしかないのか。


『儂の旦那様は人間じゃ、異界の人間じゃの。名も貰うたのじゃ、ヨギリという名をの』

『お姉さん、人間を番に選ばれたのですか? 龍の番が人間などと初めて耳にしますよ』

 夜霧と妹さんの会話は、上手く噛み合っていないのではないだろうか?

『旦那様というのは主のことじゃの。名を貰い仕えておるのじゃよ』

『あのお姉さんが人間に仕えていると仰るのですか? それに異界の人間とはまた珍しいものに? どうして?』

 おっ、なんかそれらしい話になった気がする。

『儂の姿をの、美しいと褒めてくれたのじゃよ。儂は旦那様と添い遂げたいのじゃ』

「痛い、やめろ夜霧。お前力が半端なく強いんだから、無理矢理抱き寄せるんじゃない!」

「つれないのう、旦那様は」

 魚じゃないんだから、僕は釣れないと思うよ。


『お話は分かりましたが、その旦那様という人間はどちらに?』

『旦那様なら今、儂の腕の中に居るの』

「だから、誤解を招く言い方はやめろっての!」

「何を言うておる、実際腕の中におるじゃろう?」

 妹さんの口調が最初の頃と違ってかなり静かになっていることに気付いていないのか、こいつは?


『初めまして、僕は異世界から来てしまったアキラと言います。お姉さんにはお世話したり、されたりしてます』

『人間! お姉さんに何をした!』

『何をしたかと仰られても、お姉さんに求められて名を授けただけですが……』

「おい夜霧! 妹さんなんか怒ってるぞ?」

「意味が解らぬ」

 お前がわからないでどうすんだよ? 僕にわかる訳ないだろ。


『お主、何を怒っておる?』

『あの美しく気高いお姉さんが異界の者であろうとも、人間など共にあるなど考えられません。何かされて強制されているのではありませぬか?』

 美しく気高いねえ? 確かに黒い龍の姿は綺麗だよ、でも気高いとは……。

『儂は何もされておらぬ、儂から名を求めたのじゃ。お主とて過去に魔族と仲良くしていたであろう? 同じことじゃよ』

『魔族は私たちに劣りはしますが寿命も長いです。しかし人間はそうではなく、すぐ死んでしまうではありませぬか?』

 妹さんはだた単に夜霧の心配をしているらしい。


『寿命など、どうということはないの。儂は旦那様に惚れたのじゃ、儂が! 惚れたのじゃ。例えお主とて、この件に於いては文句は言わせぬぞ』

『出過ぎた口を利きました。もう一度、その人間と話は出来ますか?』

「旦那様よ、これで良いかの?」

「うん、上出来だ。夜霧、ありがとう」

 僕に惚れてくれたということにも感謝を示しておきたい。


『初めまして、僕はアキラと言います』

『先程は申し訳ありません。お姉さんと話すのが久しぶりで興奮してしまいました』

『興奮ではあるまいに』

「夜霧、ちょっと黙っていなさい」

「はい、なのじゃ」


『それで、私に語り掛けてこられた理由は何かあるのですか?』

『ええ、僕と妹は望んでこちらに来たわけではないのです。そこで帰る方法が無いか探している最中でして、何か知りませんか?』

『お姉さんを虜にしたににも関わらず、帰られると仰るのですか?』

『は、はい、そうなりますね』

『まったくお姉さんはどうしてこんな輩に……。残念ですが私は何も知りません』

『本当じゃろうな? 嘘を吐いておったら許さぬぞ』

『嘘ではありません。私は異界の者と接するのは今回が初めてですもの』

『そうですか、ありがとうございました。……暫く、姉妹で会話でもどうぞ』


「夜霧、僕の質問は済んだ。少しの間だけだが、自由に話でもしたら良いよ」

「儂は別に話すことなどないのじゃよ」

「長い間、音信不通だったのだろ? たまには良いと思うぞ」

「ならば、甘えさせてもらうのじゃ」

 夜霧と妹さんは僕の意思を介して会話をしているので、僕がやる気をなくせばそこで繋がりが途絶えてしまう。もう少しだけ頑張って話くらいはさせてあげよう。

 龍姉妹の会話は丸聴こえだが、それを無視しても考えなくてはならないことが出来た。振出しに戻ってしまったのだ、これからどうするべきか?

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