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69.魔王都-冒険者ギルド本部-8

 今日は朝から冒険者ギルド本部に来ている。カウンターにアメリアさんの姿は無かったので、他の職員に案内してもらい応接室にてクリスさんと対談している。


「話は分かったが許可は出来ない。先日のヨギリ殿のこともある、市民に混乱をきたす恐れがある以上無理だ。どうしてもというのであれば、都の外へ出ることだな」

 やはり、好ましい返事はもらえないようだ。でも、外でやるなら問題は無いのか。

「外に行くにはまた数日掛かるのですよね?」

「そうなるな、中央区に居る以上は仕方のない話さ。お前たちは南門から来たのだから知っているだろう?」

 街の見取り図で一目瞭然だからね。周囲の街を抜けるのに、どうしても日数が掛かってしまう。


「儂なら一飛びじゃがの」

「それだ! 夜霧の背に僕を乗せることは出来るのか?」

「旦那様や妹御ならば構わぬよ」

「まてまてまてまて、駄目だ。あの巨体で街の、都の空を飛ぶなど、とても私の一存では許可できない」

 夜霧がやって来た時の騒ぎを思うと、分からない話ではない。

「夜霧、もう少し体を小さくしたり出来ないのか? 人化が出来るんだしさ」

「なんと! 旦那様は儂にドラゴンへ化けよとでも謂うのか?」

「いや、ドラゴンがどういうものか知らないよ。僕の居た世界では、ドラゴンも龍も空想の産物だったからさ」

 ふぅ、危ない。虎ならぬ龍の尻尾を踏みつけてしまったのかと焦った。

 ドラゴンと一緒にされることを殊の外嫌うのだから、気を付けておかないと。

「知らぬなら仕方あるまい。それにどちらにしろ、儂には無理じゃがの。

 この術は妹に教わったものじゃから、下手に改変するのは危険なのじゃよ」

「そうか、ごめんよ」

「謝るでないわ。しかしの、夜闇に紛れて出て行くという手はあるのじゃ」

「冴えてるな、夜霧。でも霞を置いて行く訳にはいかないから、魔王様との約束の切れる日に出るとしよう」

 よく考えてみると、この都に用はもう無いのだ。元々、呼ばれたからやって来ただけだしね。

 帰る方法が見つかるかもと期待したけど、空振りだった訳だし、オサラバするには丁度良いかも。


「待て、アキラ。許可しないと言ったであろう?」

「大丈夫ですよ。ただ出て行くだけですから、氷像の約束が済むまでは滞在します。

 ああ、それで、9日後の夜に訓練場を貸し切りにして頂けますか? 無理なら広場から行きますけど」

「おい、アキラ! お兄様と相談するからな、氷像の契約が済むまでは大人しくしているんだぞ」

「わかってますよ。僕だって、霞を置いて行く訳にはいかないんですよ」

 夜霧とオンディーヌ、そして護衛として張り切っているガイアを連れ、応接室を出た。やることは決まったから、準備を万端に整えなくてはね。

 どこへ行くにしても、まずは食料かな? こんなことなら豆を売り払うんじゃなかったな。

 僕のリュックは少し大きいから、あまり硬くないパンを買い込むとしよう。硬くないということが重要なのだ。

 あとは道具類だけど、森を抜ける為に持って来たもので足りるだろう。

 あ、そうそう、挨拶回りもしておかないとね。それは旅立つ二日くらい前でも良いかな。


 冒険者ギルドのロビーを通り過ぎたけど、やはりアメリアさんの姿は見られなかった。体調でも崩したのかと、少しだけ心配だ。

「一旦宿に戻ってから、買い物に出掛けるよ。旅支度をしないとね」

「行く宛てはあるのかの?」

「あるわけないだろ。まずは夜霧の妹さんに話し掛けてからだよ」

「あれが来るとは限らぬのだがの」

『ババアは心配性じゃ、主様に任せるのじゃ』

『どこへ行こうと、吾輩は主殿をお護りする』

「はは、頼もしい限りだよ」


「そういえばさ、夜霧ってどこに住んでいたんだ?」

 妹さんは北の方に暮らしていると聞いているけど、夜霧がどこから来たのかは不明のままだ。

「儂か、儂は光も届かぬ森の奥に住んでおったよ」

「その森って、あの森だよね? ここの南に広がる」

「うむ、その森じゃ」

「僕たち、そこを通り抜けてここに来たんだけど? なあ、オンディーヌ」

『ルーが照らしてくれねば、真っ暗じゃったの』

「儂が居ったのは中央部じゃからの、横を掠めた程度では気付かぬの」

 ニールを出る時に見た地図を思い出す、確かに僕たちが通り抜けたルートは森の中央部とは程遠かった。

「あんな暗いところに居たから漆黒なのか?」

 保護色というやつだろうか?

「さあの、気が付いたらあそこを好んでおったのじゃ」

 長生きしているから、色々あるのだろう。無理矢理に聞き出す必要は無い。

 話に夢中になっていたら、いつの間にか宿の近くへと戻っていた。



「お兄ちゃん、おかえり」

「あれ、もう終わったのか?」

「うん、みんなが頑張ってくれるから、すぐ終わっちゃんだよ」

 みんなって、氷像作りはスノーマンとジルヴェストだけで十分じゃないのか。

「ってことは、あと8日だね」

「そうだよ」

「じゃあ、8日目の夜に魔王都を発つから、旅支度をしておいてね。僕は買い出しとかやっておくから」

「え! どうしたの、いきなり」

 何も伝えずに旅に出ることだけ告げても納得しないよな。


「夜霧の妹さんに渡りをつけたいとクリスさんに相談したら、都の外なら構わないと言われてね。だから、魔王都から少し離れた所で妹さんに呼び掛けてみることにする。

 それにね、僕たちは魔王都にはもう用はないから、他の所へ行こうかと思って」

「えー、また馬車に乗るのやだ」

 オンディーヌをクッションにしていれば、平気なのかと勘違いしていた。霞の馬車嫌いは相当なものだったようだ。

「大丈夫だよ、馬車には乗らないからね。今度乗るのは、夜霧にだ」

「夜霧ちゃんに乗れるの? 空飛ぶの? 落ちたりしないよね?」

「夜霧が僕や霞を落っことしたりするわけがないだろう? なあ」

「落とさぬように気を付けるしの、他の精霊も居るのじゃからの」

 ちょっと待て、空を飛ぶというのは飛行機のように外装や座席があるわけではないので、実は物凄く危険なのではないか?


「なあ、本当に大丈夫なのか?」

 風はジルヴェストがなんとかしてくれそうだけど、気圧の問題だって、気温の問題もある。

 防寒着売ってるかな? 今ここ、一応夏みたいなんだよね。保険として、イフリータは帰さずにおいた方が良さそうだ。もうこの際だから、全員帰らせないでおこう。

「なあに、お兄ちゃん、自分が大丈夫だって言ったんでしょ」

「いや、でも、現実に則して考えたらなあ」

「これだけの精霊が居るのじゃ、問題があっても対処できるじゃろうよ」

 本当に大丈夫なのだろうか? なんだか急にお腹が痛くなってきた。

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