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67.魔力の色彩

「ふむ、興味深いの」

 夜霧も氷の彫像に興味を示したのかな? 他の精霊たちは、こういった芸術品には全く興味が無いから意外だな。

「よく出来ているからね」

「何を言うておる、儂が感心しておるのは妹御の魔力じゃ」

「へ? どういうこと?」

「旦那様の魔力の色彩が見事だと、以前に伝えたと思うがの。妹御の魔力も中々どうして立派なものじゃの」

 最初に夜霧に声を掛けた時の反応が正にそれだったな。魔力の糸がどうとか、色がどうとか、気になってやって来たんだっけ?


「詳しく説明してもらえるかな? 僕には魔力の色とかよく分からないんだ」

 そもそも魔力自体が謎なのだ。普通の日本人に魔力なんて無いだろうし。

「魔力には色があるのじゃ、本来は単一の色しか持たぬはずなのじゃがの。

 旦那様と妹御は別じゃの。まあ系統はあるにしろ、多彩な色を持っておるの」

「その本来はどうこうってのは、異世界からやってきた僕たち特有のものだと?」

「うむ、あそこを見よ。魔族は普段から魔力を垂れ流しておるから、一目瞭然じゃ。

 クリスとかいう魔族の娘、あれは黄色の魔力を持っておる。ティエリとかいう坊主は、白い魔力じゃの」

「それはお前にしか見えていないだろ? 色なんか区別するも何も、僕には見えていないぞ」

 夜霧の眼でしか判別できないのではないだろうか? 他の精霊たちはそんなこと一言も発したことは無い。

「儂ら固有のものと云えばそうかもしれぬ。じゃが、契約があるからの。これでどうじゃ?」

「何をした?」

 クリスさんの体に黄色いものが纏わりついている。いや、ティエリさんや魔王様たちも同様だ。


「旦那様は儂ら精霊と契約しておるのじゃ、名を与えることでの。

 契約しておると云うことはじゃの、その能力を共有できるということじゃよ」

「じゃあ何か、ルーみたいに僕も光ることが可能なのか?」

「可能か不可能かと問われれば、可能じゃろうの。精霊に共有する気があれば、じゃがの」

 今まで精霊たちを呼び出すだけで丸投げだったけど、実はそれだけじゃなくて魔法みたいことも出来たと?

 今回は夜霧が眼の能力を共有することを許可したから、こうして魔力の色を判別できる訳か。それを踏まえれば、これから色々とやれることが増えそうだな。


「っと、話がずれた。魔力の色の話だったよな。

 あの人たちの魔力の色はわかった。僕自身のはどうやって見たら良い?」

「旦那様は人間じゃからの、自らの意思で流さねばならぬよ」

 魔族は魔力を垂れ流しなんだっけ? 人間は違うのか。

 でも、流すと言っても。ふと視界に入るのはデニス爺のお皿、そうか! これだ。

「ならこの盾に魔力を流すと、色を判別できるんだな?」

 夜霧が頷くのを確認して、盾に魔力を注ぐ。

 今までは単に光っていることしか判別できなかったけど、夜霧の眼なら色が分かる。

「僕の魔力の色は赤と黄が基になった、虹のような感じだね」

 暖色と表現すれば良いのだろうか、そのグラデーションだ。

「妹御の方は元となる色が異なるだけで、同じようなものじゃの」

「霞! ちょっとおいで」

 精霊たちと遊んでいた霞を手招きで呼んだ。


「霞、盾に魔力を流してみてくれないか?」

「何かするの?」

「何もしないよ、ただ流すだけで良いからさ」

 霞は僕に言われた通りに、盾に魔力を注ぐ。仄かに光るお皿。

「はあ、なるほどね」

 霞の魔力は、基となるのが紺や青でそのグラデーションだった。寒色というやつだね。

 性格的に考えると、僕と霞の魔力の色が反対な気がしないでもない。

 別に僕が陰湿だと言っている訳ではないのだけど。

「霞、もういいよ。また遊んでおいで」

「へんなお兄ちゃん」

 色の判別の出来ない霞が妙に思うのは仕方がない。


「儂が様々な色を持つものを見たのは、旦那様が初めてじゃの。

 この世界のものは、単一の色しか持たぬはずじゃからの。儂も然りじゃ」

 夜霧が掌を上に向け、小さなブラックホールみたいなものを作り出した。

「夜霧の魔力は綺麗な漆黒。本当に吸い込まれそうな程、闇そのものだね」

 異物の全く混ざっていない黒。その魔力で覆われたら、恐らく何も見えなくなるだろう。

「儂の魔力を綺麗と言うてくれるのは、旦那様だけじゃの」


「それで、色が判別出来たら何かあるのか?」

「旦那様が異界へ還る為に役立つやもな。儂もまだ認知しておらぬ、紛れ者が他に居るやも知れぬじゃろ?」

 そうか、資料室でショックを受けていたのをそれとなく観ていてくれたのか、夜霧は。

「この眼はこの先もずっと共有したままにしてくれるのか?」

「無論じゃよ。慣れんと辛いかもしれんがの」

「こんな便利なものなら、慣れるしかないな。ありがとう、夜霧」

 少なくとも今だって、魔族を一発で判別できるのだ。人間か魔族かで悩む必要は無くなった。魔力を常時垂れ流す、締まりのないのが魔族っと。


 僕と夜霧の話に一段落が付いたと同時に、あちらも話し合いにケリが付いたようだ。

「お前たちには悪いが、こちらが優先で構わないな?」

「叔父上には参りますよ。あくまでも交渉権の優先ですからね」

 ケリが付いたように感じたけど、まだ燻ってはいるようだった。

「アキラ殿、宰相からお話がありますのでこちらへ」

 僕はベルモンドさんに呼ばれて、宰相の前へと移動した。


「アキラ殿に冒険者ギルドを通し、臨時にここで依頼いたします。

 中央区広場に魔王様の銅像を建てようと思います。そこで銅像の制作をお願いいたします」

 銅像作りは結構危ない。ジルヴェストの竜巻で撒き散らす破片がだけど。

 今なら、ガイアや夜霧の力でカバー出来なくもないだろうけど、出来るならやりたくはない。

「えーと、お断りします。金輪際、誰であろうと彫像制作の依頼は受けません。

 僕が駄目なら霞へとお考えになるかとも思いますが、僕の精霊たちのサポート無しでは霞でも不可能でしょう」

 精霊たちには言い聞かせておこう。この際、命令としてしっかりと。


「ハッハッハッ、交渉決裂ですな」

 腕を組んだクリスさんが高笑いしている。

「アキラ殿、り、理由をお聞かせ願いたい」

 ものの見事に断られた宰相が理由を問い質してきた。

「理由は、危険だからです。

 像はその重量故に、設置場所で製作するしかありません。

 先程、霞が実演したのは氷でしたので危険は限りなく少ない。しかし、あれを金属でやると破片は凶器と成り得ましょう。

 どうしてもと仰るのであれば、街の外での制作については受けてもいいですよ?」

 銅像の内部を空洞にした上でなら、夜霧に運搬を任せることも可能だろう。でも、こちらからそれを提案するつもりはない。結構な重量のあるものを街の外から運ぶとなれば大仕事となるはずだ。

 魔王様と宰相、クリスさんとティエリさん、それぞれが苦い顔をしながら話し合っている。この人たちは、僕があっさり引き受けるとでも考えていたのだろうか?


「アキラ、冒険者ギルドは今回の依頼を辞退することに決めた。お前の意見を尊重しよう」

 クリスさんは格好いい言い回しをしてはいるが、要するに諦めただけ。

「危険というのであれば、無理強いするのも何ですしね。我々も非常に残念ではありますが、依頼を辞退いたします」

 よし! 銅像の制作は受けなくて済んだ。

 イフリータの活躍の場を奪ってしまったのは辛いけれど、面倒は御免なのだ。


「氷の像であれば、作ることを拒否はしないのだろうな?」

 んん? なんだ魔王様が何か言い出した。

「それ程危険ではありませんから、作成時に注意して頂ければ」

「言質は取ったぞ。マグニス」

 なんだ、この展開は?

「広場に本日お造りいただいた龍の像、これを作っていただきたい。

 氷故に溶けてしまいますからな。1日に1体ずつ、10日程ご用意いただけますかな?」

「市民に納涼の機会を与えたいと考えているのだ。是非とも、引き受けて頂こう」

 魔王様の言葉に納涼という概念があるのだと、少々驚いた。そしてやられた、氷なら文句を付けられない。

「仕方がありませんね。霞! 仕事だぞ」

 精霊たちと遊んでいた霞を呼び、仕事の内容を伝える。

「スノーマンちゃんたちはどうするの?」

「一旦帰すけど、お前なら何とでもなるだろ?」

「わかった。氷の像なら、私得意だから大丈夫」

 銅像は危険が伴うので僕の担当だけど、氷の像なら霞に任せるのが一番だろう。

「それじゃ頼むね。10日間、1日1体の夜霧像だってさ。スノーマンとジルヴェストもサポートしてやってくれ」

『わーい、お兄ちゃん、がんばろーね』

『仕方がないな』

『あるじ~、ボクは?』

「イフリータはまた今度な」

 イフリータが活躍する場は特にないけど、我慢してもらう為に誤魔化すしかない。

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