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55.魔王都-冒険者ギルド本部-6

 僕と霞は採取の依頼や街中での細々とした依頼をこなしながら過ごしている。謁見まではあと3日を残すところだ。

 ダイモンさんは朝から晩まで忙しいらしく、殆ど顔を合わせることも無い。本当に冒険者と兼業で商人として活動していくつもりのようだ。

 ティエリさんも冒険者ギルドの本部では見掛けることは無いが、アメリアさんの話によると冒険者ギルドの仕事を休んで何かに奔走しているのだという。きっと、ダイモン商会の準備に勤しんでいるのだろう。

 ダイモンさんは、エルフ達との間で使者もやらないといけないはずなんだけどなあ。


「お兄ちゃん、今日はどうするの?」

「簡単なので良いよ」

「じゃあ、これ。壁の補修工事」

「土木工事って書いてあるぞ、大丈夫なのか?」

「うー、じゃあ、これ。地下水路の点検・補修」

「待て待て、僕たちには工事の経験が無いから、そういうのは駄目だ」

「もう無いもないよ。採取の依頼は森まで行かないといけないし」

「それじゃあ、今日から休みにするか? 食べ歩きでも良いぞ」

「やったー! お姉ちゃんに挨拶してから行こうね」

 今日から謁見までは仕事を休むことにする。担当のアメリアさんには一応報告しておこうとカウンターへ向かった。


「おはようございます。お二人とも良いところへ」

 何やら怪しい言葉が聞こえたけど。

「えっと、僕たちは今日から謁見までお休みにしますので、よろしくです。それじゃあ」

 さっと踵を返し、帰ることにする。

「ちょっと待ってください! マスターがお呼びですので、応接室までお願いします」

「何の用か分かりますか?」

「なんでもご相談があるとかで」

 相談ねえ、何のことやら?

「わかりました。案内をお願いします」

 アメリアさんの案内でカウンター内に入り、応接室を目指す。

 冒険者ギルドのカウンターはニールでもそうだったけど、鉄格子が嵌められていて案内が無いと中へ入れない。危機管理意識がしっかりと根付いている証拠だろうね。


 応接室に着くとアメリアさんは業務へと戻り、僕と霞それに再び呼び出した精霊たちで誰も居ない部屋の中へと入りソファに腰かけた。

 採取の依頼や倉庫の整理やらでオンディーヌとジルヴェスト、そして新たにガイアを呼び出してそのままだ。


「喉が渇いた、オンディーヌちゃんお水ちょうだい」

『口を開けよ、ほれ』

 オンディーヌは霞の口の中に水の玉を放り込んだ。

「オンディーヌちゃんのお水はいつも美味しいね」

『当り前であろう、主様もどうじゃ?』

「僕はいいよ」

『つれないの』

 いじけるオンディーヌは放っておこう。


 何をするでもなく、ただぼーっとしていたらクリスさんが現れた。

「すまぬ、待たせてしまったな」

「別に平気ですよ。今日は帰るだけなので」

「待ってくれ、帰らないでください」

「話は聞きますから、安心してください」

 クリスさんは何故か焦って、泣きそうになっていた。

「相談というのは、お兄様のことなのだ。ダイモンと一緒に商売を始めるというのは分かっているのだが、私には一切を秘密にして話をしてくれないのだ」

「それはクリスさんの口が軽いからではないですか? 開業して軌道に乗ったら話してくれそうですけど」

「お前たち兄妹の謁見までだって中2日しかないというのに、全く仕事をしようともしないのだぞ」

 それが心配なのか、お兄さんが心配なのか? 構ってもらえないから寂しいのかも。

「大丈夫ですよ、ティエリさんはしっかりした方ですから。

 ところで、クリスさんとティエリさんてご兄妹なのですか?」

「いや、私とお兄様は従兄妹だ。ただ、幼少期から一緒に育っているので兄妹みたいなものかもな」

 やはり従兄妹だった。

「そんなに心配なら、見に行ったら良いではないですか」

「何度も見に行っているのだが、屋敷の門番に追い返されてしまうのだ」

 ティエリさんに、とことん信用されていないクリスさんだった。

「それはもうどうしようもないですね。今日は暇ですから、僕たちが代わりに見に行きましょう」

「本当か? はぁ良かった。丁度頼もうと思っていたのだ」

「それでティエリさんのお屋敷ははどこにあるのですか?」

「ああ、大丈夫だ。先程、馬車を用意させたので乗って行くと良い」

 どちらにしろ僕たちを送り出すつもりだったようだ、だから来るのが遅かったのだろう。


「馬車かあ、オンディーヌちゃんまたお願いね」

『仕方のない妹御じゃ』

「馬車は正面に用意してあるはずだ。よろしく頼む」

「はい、わかりました。では、行ってきますね」

 霞と精霊たちを連れてきた道を戻り、そのまま冒険者ギルドを出て馬車に乗り込む。御者さんも馬車と一緒に手配したのだろう、乗り込むと挨拶だけして馬車は走り出した。


 オンディーヌクッションで満面の笑みを浮かべる霞、僕の対面の席で佇むジルヴェスト、ガイアは土で出来ている為重量があるので真ん中に座っている。乗り込む時にも、馬車が傾いて大変だったのだ。

 御者台に繋がる窓からは城が見える、ダインバルド城だったかな。

「御者さん、場所はどの辺なのですか?」

「あ~はい、ルイン家は城のすぐ近くですよ」

「ありがとうございます」

 魔王様の血縁ということだ、中心に近い位置に屋敷を構えていてもおかしくはないな。

「お兄ちゃん、食べ歩きは?」

「だって、しょうがないだろ」

「ティエリさんのお家で何か食べられるかも」

「お前は食べることばっかりだな」

 馬車はまだ道半ばといったところだ、もう暫くこのままだろう。


「お客さん、着きましたよ。ルイン家の正門です。門番とはそちらで話してください」

「はい、わかりました」

 急ぎ馬車から降りて、門番の兵士さんと話をする。

「あのすみません、こういう者なんですがティエリさんに取り次いでもらえますか?」

 冒険者証明タグを提示して、身分証明を図る。

「少々お待ちください。おい、屋敷に確認に行ってくれ」

 二人組の門番の片方の兵士さんは、屋敷の方へと素早くは走り出す。

 僕は一度馬車の前に戻り、御者さんと話をする。

「御者さん、帰りまで待っていてもらうことは出来ますか?」

「ええ、構いませんが100シルバー掛かりますよ」

「わかりました。これでお願いします」

 僕は150シルバーを御者さんに手渡した、心付けというやつだ。

 御者のおじさんはにっこりと微笑んでくれた。50シルバーは奮発し過ぎたか?

 クリスさんと同じように追い返された場合、徒歩で帰るには辛い距離だし仕方ないよね。クリスさんも往復の運賃くらい払っておいて欲しかった。

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