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54.ダイモン商会

 久方ぶりに精霊たちの姿が無い、街中では居ても居なくても大して気にならないのだけども。

 これが街の外や森の中だったりしたら、話は全く変わってくるのだろうね。

 精霊たちが姿を消したので、改めて応接室へ移動し報酬の話と今後の打ち合わせをすることになった。


「まず今回の報酬は、一人当たり1ゴールドということにしましょう。私のポケットマネーからお支払いしますが、カウンターの方でアメリアから受け取ってください」

 担当となったアメリアさんの顔を立てるという意味があるのだろうか? 今この場でティエリさんが払えば済む話なのに。

「そのアメリアの言葉だと謁見まで碌な依頼を受けられないようだが、これについては?」

「そうは仰られても遠出されると居場所が掴めませんし、怪我でもされたら大変ですからね」

 ダイモンさんの質問には、ティエリさんが答える。

 謁見がドタキャンの不可能なものだとすれば、致し方ないのかもしれないけど。それだと僕たちは暇になってしまう。

「それは我慢してもらう他ないだろう。なるべく早く謁見できるように働き掛けるくらいのことはしよう」

「クリスお姉ちゃんがこう言ってくれていることだし、我慢するしかないよ。他に何かしようよ」


「他に……、そうだ! 図書館みたいなものはありますか?」

 以前クリスさんに聞いた過去の英雄の話などを調べたい、日本に帰れる方法が見つかるかもしれない。

「図書館という言葉は分かりかねますが、本がたくさんある所ですか。元老院資料室が適当かと思われますね」

「いや、あそこだって許可が無いと入れないだろう。まして部外者だぞ?」

「そうなりますと、やはり謁見の後ということになるでしょうね」

 こうなってしまうと、どうしようもないな。


「お兄ちゃんがこの位の大きさの時計を探していたのだけど、腕時計や懐中時計に心当たりはない?」

 霞は目覚まし時計のサイズを両手の指で作り出し、ティエリさん達に訊ねている。

「時計というものは結構大きいものでな、その扉の半分ほどの大きさはあるぞ。

 それにあんな物は金持ちの道楽以外の何物でない」

「使っている内に時間がずれてしまうので、役に立ちませんからね」

 どうやらこの世界には、しっかりとした暦というものがないらしい。

「こういうのもあるんだけど」

 霞はポーチの中をごそごそと漁り、スマホを取り出すとテーブルの上に置いた。

「文字だけの時計みたいなのは、やっぱりないよね?」

「お前よく電池が持ってるな? 僕のは放電してしまったぞ」

「私はこれがあるからね」

 霞が取り出したのは小さなソーラパネル、よくそんなもの持って来てたな。

「ちょっと何ですかこれは? それに腕時計? 懐中時計とは一体?」

「これはスマホ、スマーフォン。電波が無いから大したことできないけど」

 霞、その説明ではよく分からないと思うぞ。

「スマホはこの世界の人には難しいですから忘れてください。霞もしまちゃって。

 腕時計というのは腕輪に時計が付いていて、いつでも時間を確認できるものです。

 懐中時計というのはこの位の大きさで、懐に仕舞える大きさの時計をいいます」

 霞にスマホを仕舞うように言い、僕は両手の人差し指と親指で円を作って表した。


「もっと見せてくれ、隠さないで」

「しょうがない。霞、クリスさんに適当に説明してあげて」

「うん、でもゲームくらいしか出来ないよ?」

「構わないよ。見ているだけでも楽しそうだし」

「腕輪に時計、懐に入る大きさ。……時計の技師と魔道具技師と合同で仕事をさせれば、実現するかもしれませんよ?」

「金の匂いがしてきたな、ティエリさんよ」

「アイデアはアキラさんのものですが、冒険者ギルドで独自に作らせてみましょう」

 大人達に要らない餌を与えてしまったかもしれない。いやらしい笑顔で見つめ合う、ダイモンさんとティエリさん。

「ダイモンさんは、ティエリさんの出資で商人になった方が良いと思いますよ」

「それはいい! 是非そうしましょう」

「いや、だから、オレは冒険者だって」

「本部に籍を置いたままで構いませんよ、冒険者ギルド開発部代表という形にしましょう」

「ふっ、そういうことなら仕方ないな」

 皮肉を込めて放った言葉にすら食いついてしまう。

 どうしよう、ダイモン商会が誕生してしまった。


「お兄様、これは凄いぞ」

「今大事な話をしている、後にしてくれ」

「霞、何したんだ?」

「カメラで動画とって、見せただけ」

 自分が映っているのに大興奮している訳だな。

「アキラ! これを作ることは出来ないのか?」

「無理です、出来ません」

 スマホを一から作れる高校生なんて日本にも居ないよ。

「くっ、なんてことだ!」

 スマホはクリスさんの琴線に触れてしまったようだが、無理なものは無理だ。


 霞は返してもらったスマホの電源を切り、ポーチへと仕舞った。

「それでお兄様は何の話をしている?」

「冒険者ギルドに商品開発部を設けることにした。代表はダイモンさんが務め、アイデアは兄妹から貰うこととする」

「僕は協力するとは言ってませんよ」

「大丈夫、勘違いしないでください。アキラさんやカスミさんは何気ない話をしてくれるだけで結構です。そこから私たちが実現できそうなものを拾い上げますからね」

 要するに、日本にあるモノの話をすれば良い訳だな。

「お兄様は冒険者ギルドを私物化し過ぎでは無いか? 私たちの家が作った組織とはいえやりすぎるのは、どうかと思うぞ」

「わかった。ならば、私の家で独自に進めることにしよう。

 ダイモンさん、これは長期的な依頼となりますが引き受けてもらえますか?」

「冒険者として依頼を受ければ良いのだな?」

「ええ、そうです。指名依頼とさせていただきます、報酬は基本給に出来高で更にお支払いしましょう」

「わかった、引き受けよう」

 もうティエリさんとダイモンさんの目はお金の色をしている。何を言ってももう止められないだろう。

「ダイモンさんには早速だが、明日から行動してもらうことにしよう。アメリアの所に書類を届けて置くので、後程契約を済ませてほしい。

 私は技術者を手配と作業場の確保をしておこう」

 がっちりと握手を交わすティエリさんとダイモンさん、それをただ見つめるだけのクリスさん。

 ダイモンさんはやることが出来て、逆に忙しくなってしまった。しかし、僕たちは暇のままだ。


「お兄ちゃん、採取の依頼でも受ける?」

「そうしようか、明日からでいいよね」

「うん、今日はもう帰ろうよ」

 僕と霞はダイモンさんを置いて帰ることにした。

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