53.精霊、全員集合
僕の仕事が一段落したので、オンディーヌの勧めにより精霊の顔合わせをすることにした。
一番手はシュケーだ、この子が一番害が無い。
「シュケーおいで」
僕の足元に小さな双葉の芽が一つ生えてくる。僕が一歩後ろに下がると、その芽は急速に成長し樹木となり、その幹が縦に割れシュケーが顔を出す。
『じゃーん! 呼んだよね?』
「シュケー、僕の後ろに移動して他の者達と固まっていてね」
『はーい』
「次は、スノーマンおいで」
盾に魔力を込めているので顕現が早く、威力も強い。周囲の温度がグンと一気に下がり雪が舞い始める。その雪が一点に収束したかと思うと、ポンっと大きな雪だるまとなった。
『遊んでくれるの?』
「久しぶりだね、スノーマン。僕の後ろ側、そうだなあの辺にいてくれるかい」
『わかったー』
オンディーヌに近付けすぎて凍ってしまっても困るので、ガイアの隣に居てもらおう。
「最後は、イフリータ、僕の指定する位置へおいで」
顕現が一番派手で危ないのがイフリータだから盾は使わない、そして僕の立っている場所から10メートルほど先を指差す。
指定した位置の地面が赤く染まり、突然火柱が吹き上がる。炎の吹き上がる勢いが衰えると、その火柱がイフリータの形へと変化していく。
『あるじ~』
「一番久しいのはイフリータだね」
『ぜんぜん呼んでくれないんだもん』
イフリータとスノーマンは、危ないのであまり呼べない。スノーマンは森で冷凍庫をしていてもらったけどさ。
イフリータはそれこそ森に入る前に調理で活躍して以来かも。
「イフリータ、火力を落とせるかい?」
『ん~やってみる』
「スノーマンもあまり冷やさないでほしいな」
『わかったー』
「これで全員揃ったね、皆それぞれで挨拶をしてね。喧嘩したら駄目だよ」
『風のお兄ちゃんは~』
イフリータは一緒にギネス像とリエルザ像を作っているからね、最初の竜巻もあるけど。
「ジルヴェストならあそこで妹と仕事をしているよ」
『いも~と?』
『あるじのいもうとは、ぼくたちとお話しができるよ』
スノーマンはよく霞と一緒に仕事をしているから、覚えているのだろう。イフリータに説明する姿が微笑ましいが、溶けたりしないのだろうか?
『そうじゃ、あれが主様の妹御じゃ』
『吾輩も手を貸すことはあるのか?』
『主様の許可が下りれば、手を貸すのも良いじゃろうて』
オンディーヌとガイアは同じ話題のはずなのに、やたらと落ち着いている。
『お姉ちゃん、お水ちょうだい』
『仕方ないの、ほれ』
そして、シュケーは相変わらずのマイペースだった。
こうして客観的に観てみると壮観だ。多様な精霊が和気藹々と会話をしている姿などそう観れるものでは無いだろう。
『終わったぞ、俺も仲間に入れろ』
「おーいお前たち、ジルヴェストが戻ったぞ」
『わ~い、お兄ちゃんだー』
『お兄ちゃん、お兄ちゃん』
ジルヴェストは幼少組に集られている。
スノーマンとジルヴェストなら猛吹雪も可能だろうな。
ガイアとジルヴェストでなら、彫像も手早く出来そうな感じがする。
「お兄ちゃん、何してるの? ダイモンお兄ちゃんが大変だから手伝って」
ぼんやりと精霊たちを眺めていたら、霞が僕を呼びにやって来た。
ダイモンさんは何をしているのかと見ると、案山子を地面に刺している最中だった。簡易の案山子ではなく、しっかりとしていて軸が太いので穴を掘るのに手間取ってるようだ。
「わかった、手伝うよ。ガイア、悪いけど一緒に来てくれ」
『了解だ』
穴掘りをさせる為に、ガイアを連れて行く。
ダイモンさんの元へ着くと、地面に等間隔で印がつけられていた。このしるしに合わせて案山子を立てるようだ。
「ガイア、この案山子の軸の太さに合わせて、印のある所をそうだなこのくらいの深さで掘ってくれ」
『この程度だな、確認した』
案山子の軸の長さを指定して掘ってもらおうか。
ガイアは足の裏で地面を軽く叩く、見る間に地面の印のあった場所に穴があいていく。
「アキラ、さぼってないでもっと早く手伝ってくれよ」
「そうだよ、一人でみんなと遊んでてズルいよ」
「ごめんなさい」
怒られてしまった。
案山子を持って軸を地面に差していく、軸の太さに合わせて掘られているお陰でしっかりと固定された。
全ての案山子を差して、作業は完了だ。
「ガイア、ありがとう。皆の所に戻って良いぞ」
『了解だ』
ガイアはのっしのっしと歩いて、他の精霊たちの元へと戻って行った。
「また新しい精霊を呼んだのだな」
「ガイアくんね、今度何か手伝ってもらおうっと」
ジルヴェストはちゃん付けなのに、ガイアはくん付けなんだね。
「あ! いけね、ルーを忘れてた。ルー、おいで」
どこからともなく光の玉が現れる。
『!』
「遅くなってしまってごめんよ、ルー。あそこで他の精霊たちが集まっているから、行っておいで」
『!、!』
一度点滅をしたルーは、ふわふわと移動していった。
「お兄ちゃん駄目だよ。ルーちゃんを忘れるなんて」
「うん、でも大丈夫そうだ。ピカピカして意思疎通は出来ているみたいだし」
「それにしても、あの数を同時に召喚してよく平気だな、お前」
「オンディーヌが云うには、100体くらい平気みたいですよ。冗談だと思いますけど」
僕たちも作業が終わったので、精霊たちの元へ行くことにした。
「これは凄いですね」
「こんな数の精霊を同時に召喚できるとは」
冒険者ギルドのツートップが近付いてくる。
「なんでも100体くらい同時に召喚できるそうだぞ」
ダイモンさんは、先ほど僕が言った言葉をそのまま伝えた。
「もし本当なら一軍に匹敵するのではないのか? いや、それ以上だろうな」
「これはアキラさんが次の魔王かもしれませんね。冒険者ギルドで擁立するのも悪くない」
妙なことを言い始めるティエリさん。
「冗談はやめてくださいよ。僕は人間なんですからね」
それに地球への日本への帰り方が分かれば、直ぐにでも帰るつもりだ。
「冗談ではないぞ。大体、魔王は世襲ではないのだからな」
「実力さえあれば魔王になれるのですよ。ただまあ、軍か政治に携わる仕事を経験しないといけませんがね」
逆に実力があっても軍か政治に関わらなければ、ならなくて済むということだな。
よし、わかった。気を付けよう。
「ああ、それで仕事は完了したのだがどうしたらいい?」
そうだ、仕事が終わったのだから報酬をもらって帰ろう。
「すっかり綺麗になりましたね。精霊の働きも見事でした」
「様々な精霊の顕現も観察できた、感動ものだったぞ。しかし、これだけの数の精霊を連れ廻させる訳にもいかん」
そりゃそうだろう、僕もイフリータやスノーマンを常時連れて廻る気はない。
「イフリータ、スノーマン、シュケー、ルー。お前たちは帰って良いぞ」
『やだ~かえりたくない』
『まだお話ししたい』
『シュケーもずっといるー』
『!、!、!、!、!』
「帰りたくないみたいだよ、お兄ちゃん」
霞に言われなくてもわかってるよ。でもこのままという訳にはいかない、困ったな。
『お主たち、主様が困ってらっしゃるぞ。我慢して帰るのじゃ』
『おばちゃんたちだけズルいよ!』
『妾をババア呼ばわりするのはどの口じゃ!』
オンディーヌはスノーマンを追い掛け始めた、スノーマンははしゃぎながら逃げ回っている。
「困ったな、帰りたくないらしい」
『主よ、俺も一緒に帰る。全部まとめて帰してしまえば良い』
『吾輩も残念だが帰ることにしよう』
「気を遣わせたな。それじゃあお前たち、全員帰ること、これは命令だからね」
精霊たちは命令といえば必ず従ってくれる、彼らなりの約束事みたいだ。
ジルヴェストとは四散するように消え、ガイアは地面に溶けるように姿を消した。
ルーはすっと居なくなり、シュケーも巻き戻したかのように新芽になったかと思えば無くなってしまう。
スノーマンとイフリータがぱっと舞散るように消えると、最後に残ったのはオンディーヌだった。
『それでは主様、妾も一度帰りますのじゃ』
「何かあれば呼ぶから、今日は帰りなさい」
オンディーヌも蒸発するように消えて行った。




