52.魔王都-冒険者ギルド本部-5
昨日の今日ではあるが、僕たちは冒険者ギルドへと仕事を探しにやってきた。
今日もまたロビーで依頼票を物色していると、職員が一人こちらにやってくる。また応接室に連れて行かれるのでは、と内心緊張していたのだが。
「お三方の担当となりました、アメリアといいます。
本日はお仕事の斡旋をさせていただこうかと思っています、どうぞ4番のカウンターへ」
アメリアさんの案内に従い4番のカウンターへと向かった。
この冒険者ギルド本部の職員は、皆魔族のようで獣人族のような方が一人も見られない。冒険者の中にはダイモンさんのような獣人族の人はちらほらとだが見受けられる。
「お三方には謁見が控えておりますので、遠出の必要がある依頼はお受けできません。そうなりますと近場での採取や市内での力仕事しか依頼が残りませんね。
そこでお三方には、訓練場の整備をお任せしようかと思います。
心当たりがお有りでしょうか? 焼け野原になっていたり、大穴が空いていたりと酷い状態なんです。
今回の依頼主は、サブマスターのティエリとなります。受付の後、応接室で依頼の詳細を詰めて下さるようお願いします」
「あれはティエリさんやクリスさんがやったことで、僕たちに非は無いと思うのですが……」
「ですから、依頼として引き受けて頂こうということです。しっかりと報酬も払われるそうですよ、依頼主の身元がしっかりしていてとても安全な仕事です」
良いように言い包められそうだ、そしてこの依頼は恐らく断れない。
「こいつらは精霊を使えるが、オレにはどうにも出来ないぞ」
「ダイモン様はその腕力を生かして、備品の運搬等をお願いしたいと思います」
ダイモンさんの逃げ道も塞がれてしまった。
「あの状態から何も変わっていないのですか?」
「はい、あの後より訓練場は使用を禁止しております」
「大丈夫だよ、お兄ちゃん。私たちなら直ぐに終わらせられるよ」
その根拠のない自信は何なのか。
「では早速ではございますが、応接室へご案内します」
アメリアさんの後に続き、通い慣れた応接室へと向かう。
ノックをした後に開かれた扉の先には、ティエリさんとクリスさんが待っていた。
アメリアさんは一礼した後に、僕たちを置いて部屋を去っていく。
「いやあ、待っていたよ」
ティエリさんの挨拶が実に軽い。
「今回はお兄様の依頼ということだが、私の方からも少しは出す」
対してクリスさんの表情は苦々しい。
「僕たちの仕事は後片付けと整地くらいですか? 備品はどうにもなりませんよ」
備品はティエリさんに弁償してもらってほしい。
「後片付けと整地が妥当でしょう。それにこれは口実だからね、精霊たちの働きを目にする良い機会です」
転んでもただでは起きないのがティエリさんという訳か。
「お兄様はしっかりと反省なさってください」
「君だってはしゃいでいたじゃないか? 違うかい、クリスティアナ」
「そ、それは……」
これは口出ししないで、黙っていた方が良さそうだ。
「それでは移動しながら話そうか、報酬に関しては出来高払いとする。ちゃんと直してくれるのは分かっているのだけど、私たちが見たいのは精霊たちだからね」
訓練場に向かう道すがら、報酬の話をする。
「変な期待をしているようだが、あまり派手にやると訓練場そのものが消し飛ぶことになるぞ。アキラならやりかねん」
「ちょっとダイモンさん、何言ってるんですか?」
「領主の所で炎の竜巻で何もかも焼き払い、とんでもない惨状を作り出したと聞いたぞ? リグのおっさんから」
「あ~お兄ちゃんのアレね、凄かったんだよ」
リグさん経由であの時の話を聞いていたのか、霞も煽るの辞めてください。
「さすがに消し飛ばすのは勘弁してほしいですね。復旧で私の資産も消し飛んでしまいますから」
ティエリさんの冗談は冗談に聞こえない。
無駄話をしている間に、訓練場には辿り着いた。
「では、お手並みを拝見いたしましょう。これ以上壊さないで下さいね」
「じっくり見物させてもらうぞ」
従兄妹だか兄妹だか分からない2人は息ぴったりだ。
「さて、どうする?」
「ダイモンさんは霞とジルヴェストを付けますので、一緒に備品と瓦礫の片付けをお願いします。僕は整地をします」
「ジルヴェストちゃん、お願いね」
ジルヴェストに搔き集めてもらい、運び出しをダイモンさんに頼めばいいだろう。
その間に僕は、大地の精霊を呼び出すことにする。
盾に魔力を込め集中する、イメージするのは大地そのもの。
「来い!」 『吾輩を呼ぶのは誰か』
「君に名前をあげるから、僕に力を貸してくれないか?」
『良いだろう、して名は何とする』
「君の名はガイア。大地の精霊よ、おいで」
ガイアは大地そのものが隆起しゴーレムのような姿で立ち上がる。
ガイアが現れた場所にはまた大穴が空いてしまったのだが、今は無視しよう。これもまた新しい顕現の方式だということだ。
「オンディーヌ」
特殊なことが無い限り、いつも僕の後ろに控えているオンディーヌを呼ぶ。
「ガイア、それにオンディーヌ、新しい仲間だ。喧嘩しないで仲良くやるように。
それとガイア、あそこに居るのがジルヴェストだ」
霞と共に作業をしているジルヴェストを指さしてガイアに説明した。
『水と風だな、心得た』
『物分かりの良いの、よろしく頼むの』
『俺もよろしくだ』
遠くに居たはずのジルヴェストも意識を飛ばしてきた。土と風ってどうなのかと思ったけど、大丈夫そうだね。
「それじゃ早速だけど、ガイア。あの大穴を埋めてくれ」
『了解だ』
ガイアが大きな足で地面を叩くように踏みつけると、大穴が土で埋まっていく。数分と待たずに大穴は埋まり、まっさらな大地となった。
「凄いな、次はお前が顕現した時に出来た穴を頼む」
『戻る時に埋まれば良いのではないか?』
「オンディーヌやジルヴェストのように居続けてもいいのだぞ?」
『それは真か? 主の傍に留まれるのか』
『本当じゃ。しかし此奴は、妾と同じで半分実態を持っておる。大き過ぎるのではないか?』
「それもそうだ、今の半分くらいの大きさになれるかい?」
『心得た。ついでにあの穴も埋めてしまおう』
ガイアは自らの体を構成していた土を半分穴へ戻し、その体格を小さくした。
この大きさなら、ダイモンさんといい勝負という感じだ。
「僕の仕事が無くなってしまったな」
『主様よ、土が生まれたのじゃ。皆を呼んで紹介したらどうじゃ?』
「皆って、イフリータたちのことか?」
『妾はイフリータというのを知らぬ』
あれ? そうだっけ。
「それなら一度、顔合わせをしておくのも良いか。お前たち、僕の傍においで」
『魔力は問題ないはずじゃ、今の主様ならば精霊100体くらい平気じゃろうて』
それは誇張し過ぎだと思うぞ。




