50.魔王都-中央区-3
「先程杖を見ていたようだけど、お買い物かしら?」
「いえ、ただ単に見ていただけです。魔王都ではどういうものが置いてあるのかと」
「ニールなんて田舎と比べて、魔王都の品質の高さに驚いたでしょう?」
「品揃えに関してはさすがとは思いますが、品質に関しては何とも言い難いですね」
ニールは確かに魔王都と比べれば田舎だろうけど、それを馬鹿にしたような言い方は気に食わない。
「お爺ちゃんが私たちの為に作ってくれたお皿は凄いんだよ!」
霞も参戦してきてくれた、でもお皿じゃなくて盾だからね。
「お皿ですって? お料理でも食べるのかしら」
霞のお陰で僕は少しだけ冷静さを取り戻すことが出来た、ありがとう。
「そうやってずっと馬鹿にしていれば良いですよ。
9日後の魔王様と謁見し実技の披露もあると思います、その時に僕たちの装備品を売り込むつもりですから覚悟しておいてくださいね。
ここは気分が悪い。霞、帰ろう」
「うん、こんな店2度と来たくないね」
「…ということがありまして、今日は気分が良くないんですよ」
「なんだそれは、酷い店だな」
「本当に酷いんだよ、あの人。お爺ちゃんのお皿を馬鹿にしたの!」
今はダイモンさんと宿の食堂で夕食をご一緒している最中だ。
今日の午後は本当に最悪だったと思う。時計屋に関しては、僕の知識不足が原因だから仕方ないのかもしれないけど、魔法具店の店員エイミーの言葉はとても許せるものでは無い。
「お前ら、明日はどうするんだ?」
「特に何も」
「私も買い物はもういいや」
今日のことで懲りたので、買い物は本当に控えたいところ。
「それなら1日早いが冒険者ギルドに顔を出して、簡単な仕事でも貰うか?」
「それがいいよ、ダイモンお兄ちゃん」
「そうしましょう」
何もせずにのんびり休むというのも良かったのだが、この雰囲気では言い出し辛い。空気の読める僕は肯定を示すのだ。
夕食を終える頃には、外はすっかり陽が沈んで真っ暗になっていた。この宿の食事は質も量も十分なので、外に食べに行く必要もない。
一日中歩き回って疲れた足を労わる為に早めに眠ることにした。ついでに寝て嫌なことも忘れてしまおう。
翌日、ダイモンさんと一緒に冒険者ギルド本部にやってきた。
宿まで馬車で移動したこともあり、かなり距離を歩く羽目になってしまった。帰りは何か手段を講じなければならない。
僕たちがロビーで依頼票を物色していると、職員が近付いてきて応接室へと案内されてしまう。
「何故ここに案内されたのだろうな?」
「僕に訊かれても分かりませんよ」
「昨日の嫌な人が何か言ったんじゃないの?」
折角忘れていたのに、思い出させないで。
職員が淹れてくれたお茶だけで30分は待っただろうか、やっとクリスさんがやって来た。
「ん、今日はどうしたのだ?」
「いや、こちらが訊ねたいくらいなのだが」
「依頼を探していたら、職員に案内されたんです」
「少し待て、お兄様を呼んでくる」
最早僕たちの前では体裁など気にしないのだろうか? 普通にお兄様と言ってしまっている。
クリスさんが席を立ち動き出したタイミングで、カテャリとドアノブの回る音がしてティエリさんが部屋へと入って来た。
「お待たせしてしまったようですね」
「オレたちを呼んだのは、あんたか?」
「そうです、例の件が予想より早く進んだものでご報告をと思いまして」
「それならば、私は執務に戻ります。席を外した方が良いでしょうからね」
クリスさんはそう言うと直ぐに部屋から出て行ってしまった。随分物分かりが良くなったと感心するしかない。
「それで、どのような状態なのですか?」
「手紙を無事に届け、目を通してもらいました。元老院にも話を通さねばならないそうですが、概ね問題なく受け入れられるだろうとのことです」
これで安心だ、僕も、エルフ達も。
「豆も甚く気に入っていただき、是非に取引が出来ればと仰られておりました。
そこで使者を用立てろと仰せになられましたので、ダイモンさんを推薦しておきました」
使者ということは、ダイモンさんはそちらの仕事に従事しなければならなくなる訳だな。
「良かったですね、ダイモンさん。上手く食い込めたようで何よりです」
「その使者とやらは、いつからだ?」
「元老院での話し合いが済んでから正式にこちらに依頼される手筈ですので、まだ数日掛かるでしょうね」
元老院というのは確か議会のことだよな、魔王様が絶対的に政治をしている訳じゃないのか。学校の勉強がこんなにも身近で役に立つとは、思ってもみなかったな。
「アキラ、約束の一件が早くも片付いてしまったがどうする?」
「そうですね、どうしましょうか。僕はもう少し手間取ると思っていたので、意外です」
「ダイモンお兄ちゃんは使者になるのなら、魔王様にも会った方が良いんじゃないの?」
「そうですね、しばらくはご兄妹と一緒に行動されたら良いでしょう。謁見も同時に済ませられますしね」
「そういうことなら仕方ないな」
これでダイモンさんは謁見までの間、一緒に過ごせるということだ。
その後は色々と忙しくなるだろうけど、頑張ってもらうしかないね。
「話は変わるのですが、冒険者の中に妙な噂が流れていましてね。専門の職員が対応しているのですが、情報が足りなくて困っているのですよ」
「その噂というのは、どういうものなんだ?」
「ご兄妹を中傷するような内容の噂ですね」
「わかった! あの嫌な女だ」
「何かご存じなのですか?」
昨日の魔法具店での出来事を全てティエリさんに話すことにする。
「そういうことですか、事情は分かりました。職員には私から報告しましょう。
情報というものもまた私たちの仕事の一部ですからね、専門の者は特に、まあこれに関しては秘密にしておきましょうか」
何か恐ろしいことを聞いてしまった気がする。冒険者ギルドの本質とはどういうものなのだろう?
「僕は何も聞かなかったことにします」
「私も」
「オレもだ」
「そうしてください。近い内に問題はなくなることでしょうから」
ティエリさんの微笑みがとても恐ろしいと感じた、この人は怒らせてはいけない人だ。
「それでその盾が話にあったお皿ですね」
「そうだよ、凄いんだよこのお皿」
「一応、盾なんだけどね」
「オレは詳しくは知らないのだが、あの偏屈デニスが作ったのだろう?」
「デニス、デニス…、まさかあの魔道具技師のデニスですか? 魔王都を去ったと思ったらニールに居たと?」
あの偏屈爺さん、有名なの?
「あの爺はオレが子供の時には既にニールに住んでいたぞ」
「彼がここを去ったのは30年も前の話ですからね。しかし、あのデニスが作った皿ですか、少し拝見しても?」
ティエリさんはとても興味あります! といった態度なので仕方なく僕の盾を渡した。
盾を手に取りあらゆる角度から見つめている、腕輪の部分を自らの腕に嵌めてみたりと兎に角忙しく見分している。
「これ、ちょっと試してみても?」
「はい、別に構いませんけど」
もうティエリさんは、玩具を与えられた子供のようにはしゃいでいる。この人は怒らせてはならない人なので、好きにさせるしかない。
「では、建物の裏にあります訓練場に行きましょう」
訓練場なんてあったんだね、ニールの冒険者ギルド支部にはそんなもの無かったな。
ウキウキとした足取りのティエリさんの後を3人で付いて行く。




