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48.魔王都-中央区-2

 僕たちの部屋に僕と霞、ダイモンさんにティエリさんと4人が集い会議をしている。

 当初部屋にはベッドと簡単な造りの棚くらいしか無かったのだが、ティエリさんが宿に話をつけ応接セットが運び込まれた。かなり広い部屋なので、全く邪魔にならない。


「ダイモンさんもこの一件が片付くまで、お手伝いしてくれることになりました」

「そうですか。魔王都に慣れるまでは何かと大変でしょうし、ちょうど良かったのではないでしょうか」

「やった! ダイモンお兄ちゃんとまた一緒なんだね」

「まあ、そういうことだ。よろしく頼む」

 霞は元より、ティエリさんも歓迎してくれている。とりあえずは良かった。


「お三方が揃っているので、この宿の説明から参りましょう。

 この宿は、魔王都ダインバルドを代表する由緒正しき宿になります。冒険者ギルドは設立当初から懇意にしている為、色々と融通が利く便利な宿でもあります」

「ダインバルドという名前の都市だったのですね。皆、魔王都としか言わないので考えもしませんでした」

「都市の名でもあるのですが、魔王様がお住いの城の名称でもありますからね。一般的に魔王都と呼ばれるのも仕方のないのでしょう。

 この中央区をダインバルド城下町と呼んだりもしますよ。そして外周区は住民が増えて増設した歴史がありまして、中央区の住人は新市街と呼ぶこともあります」

 そうか、この世界にも歴史が存在するんだ。日本でいう江戸時代や昭和、平成といった時代と同じように。

 古い時代を知っている人なら、呼び名が違ってもおかしくないもんな。


「それと、南門での件も伺っております。市民レベルでは特に問題は無いのですが、どうしても官僚というやつは厄介でして。

 簡単にご説明しますと、中央区と外周区での確執とでも言いましょうか複雑な問題があるのです。

 私の方からも上申しておきましたので、何かしらの処分はされると思います」

「もうすっかり忘れていたな、確かにそんなこともあったか」

 もう何日も前の話だし、ダイモンさんと同じで僕もすっかり忘れていた。

 霞はどうなのかと様子を見てみると、大あくびをしていた。全く気にしていないのだろう。


「中央区と外周区では何かと問題があるとだけ、覚えておいてください。それでは本題に入ります。

 早ければ明日、遅くとも明後日にはこの手紙を魔王様へ直接届けてきます。それに付随しまして、この豆を城の厨房に差し入れることにしましょう」

「随分と早い対応なのだな」

「アキラさんにお話を伺った結果、この件に関しては迅速さが求められると判断しました。魔王様の血縁である事実をフルに活用すれば、十分にこなせるはずです」

 やはりティエリさんに相談したのは正解だったようだ。


「先程試食したのは生豆なのですが、乾燥した豆があと2袋あるのです。なんとか買い取ってもらうことは可能ですか?」

「そうですね。とりあえず差し入れるのは生豆にするとして、乾燥した豆は10日後の謁見の際に持っていくというのでどうでしょう?」

「それでは献上品扱いになってしまうのではないか?」

 僕たち3人としては、何とか売り捌きたいのだ。ダイモンさんの懐を温める為に。

「ですから、魔王様に買い取っていただくのです。その為に生豆を少々もらい受けることになりますけどね」

 ティエリさんは、まるでデニス爺のような悪い笑みを浮かべた。

「なるほど、少量の味見だけをさせるのか」

「ええ、こんなに美味しい豆は私も初めて食べましたからね」

 大人達は揃って悪い笑みを浮かべている。


「ティエリさんには迷惑料ということで、生豆を少し差し上げますよ」

「それは有り難い、私も少量では我慢できなかったのですよ」

「血縁者がこれなら、上手くいきそうだなアキラ」

「買取に関しては上手くいきそうですけど、問題はエルフ達のことですよ」

 目的と手段を取り違えたらいけない。本来の目的は、エルフ達の仲介なのだから。


「ティエリさん、もしこの豆をエルフ達と売買するつもりなら、ダイモンさんを仲介役としてください。ダイモンさんならエルフ達に顔を知られていますからね」

「お、おい、アキラ」

「ああ、そうですね。この豆なら絶対に売れるでしょうし、冒険者ギルドも一枚噛ませてもらいたいですね」

「良かったじゃないですか、ダイモンさん。これでお財布は安定です」

「あの森を突っ切るのには、お前たちも必要なんだぞ?」

「他の街を通るルートで迂回して、ニール方面から入れば良いじゃないですか」

 あの森の奥にまた入るのは嫌だな、日の光が差す程度の場所なら全然構わないけど。

「そんな長期間掛けてたら、オレは冒険者から行商人に転職せねばならん」

「あの真っ暗な森を通るのは危ないですよ、その手間を考えたら迂回した方が早いはず」

「私は行っても良いよ。美味しいお肉が食べられるなら」

「まあまあ、そのくらいにしましょう。まずは魔王様の判断に委ねられるのですから」

 それもそうだ、全てが上手く運んだ場合のオプションでしかない豆の取引の話などしている時ではない。

 

「僕たちはいつまで休んでれば良いのですか?」

 この周辺を見て廻ったりもしたいのだけど、休みっ放しという訳にもいかない。

「2、3日ゆっくり休んで、適当に冒険者ギルドへ顔を出してください」

 適当って?

「お兄ちゃん、明日はお店を見て廻ろう?」

「うん、いいよ」

 霞の目的は買い食いだろう。

「オレは盾を直しに鍛冶屋にでも顔を出すとしよう」

 森でヒュージブルの突進をまともに喰らったんだもんな、凹んだりしているのだろうか。

 僕たちの装備は皮鎧と皿のような盾だけ、傷のひとつも付いていない。だから、メンテナンスの必要はないね。

 そういえば、デニス爺が盾の売り込みをして来いとか言ってたっけ。どうせ魔王様の所で実践とかするのだろうし、その時でいいかな。


「それでは私はこれで失礼しますね」

「あ! ちょっと待ってください、豆を分けましょう」

 魔王様の所に差し入れる分とティエリさんのお土産の分を取り分ける。布袋はリュックの中にたくさん入っているのを使った。

「こんなにたくさん、ありがとうございます。それではまた数日後に冒険者ギルド本部で」

 ほくほくとした笑顔でティエリさんは帰って行った。

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