47.魔王都-中央区-1
僕たちは今、馬車で移動中だ。ダイモンさんやミネルバさん達も同乗している。
この狭い4人乗りの馬車に5人詰め込んで乗り込んでいる。ジルヴェストとオンディーヌは頑なに帰ろうとしないものだから、屋根の上に居るように言付けてある。
宿屋までの案内役として御者はティエリさんが務めてくれるというのでお任せした、その隣に当然のようにクリスさんが座っているのが少し気に掛かる。
「お兄ちゃん、しっかり抱っこしてて揺れる!」
「この狭い中で我儘いうなよ」
全員が席に着くため、仕方なく霞を膝の上に乗せ抱きかかえているのだが、こいつ思っていたより重い。5、6歳の頃の気分で抱っこしたのが運の尽きだった。
「宿までは大した距離ではないと聞いている、我慢して支えてやれアキラ」
「ダイモンの兄貴がデカ過ぎるんだよ、2席分陣取ってるじゃねえか」
「お前たちは自分の足で走ってくれば良かったのだ」
「馬車で移動しようという距離を走って付いて来いなんて、無理ですよー」
確かにダイモンさんは大き過ぎるのだけど、アーロンさんとミネルバさんが乗っているのがそもそもの原因でもある。ダイモンさんと2人組による責任の擦り付け合いは勃発している。
馬車の速度が緩やかになる、どうやら到着したようだな。
「着きましたよ、この馬車はギルドで回収しますので荷物は全て持ち出してくださいね」
荷物といっても殆ど豆なんだよね、私物は随分と軽くなったリュックくらいだもの。
「問題は豆だな」
「ええ、豆です。一旦、僕の部屋にでも運びましょう」
「処分の目途が立ったのか?」
「話はまだ途中ですが、好感触です。買い取ってもらえるかと。
売買の交渉が済んだら、ダイモンさんと等分に分けましょう」
「そうしてくれると助かる。ここはニールより物価が高いようだしな」
乾燥豆は丸々2袋、森で食べた生豆も革袋に半分以上は残っている。これからの試食でも生豆を使うくらいだろう。
「オンディーヌ、この袋2つ持って付いて来て」
『任せるのじゃ』
「アーロンさん、この生豆の袋をティエリさんに渡してください」
「おう、これだな。わかったぜ」
生豆の革袋の中身は結構残っているけど、買い取って貰えそうだからそのまま渡しちゃえ。
各々が荷物を持って宿へと入って行く。
「お待ち申し上げておりました。ささ、どうぞ。まずはお部屋にご案内させていただきます」
店員の案内で早速部屋へと案内してもらう。
「こちらが2名様のお部屋でございます」
「僕と霞は同部屋ということか」
「そのように承っております」
端の方にベッドが2つ置かれているけど、その他のスペースが異様に広い。無理矢理2人部屋にしたような感じがする。
店員は、ダイモンさんの案内をするようで先に行ってしまった。
「お兄ちゃん、荷物を置いたら食堂へ行こ」
「どうせ、豆料理だぞ?」
「お肉が入ってるかもしれないもん」
「わかった、わかった。オンディーヌ、ジルヴェストはここで待っているか?」
『妾は付いて行くぞ』 『俺もだ』
「じゃあ行こうか」
豆とリュックを置いて部屋を出る、鍵をかけてから食堂へ向かう。途中でダイモンさんと追い付いてきたので合流した。
「豆の話をしたということは、あの話をしたのか?」
「はい、しました。意外な所に魔王様への伝手が転がっていましてね」
「クリスさんとティエリさんがね、魔王様の親戚だったの」
「ハッ、そういうことか」
「豆を手土産にということらしいです」
馬車の中では、アーロンさん達が居たので詳しく話すことが出来なかったのだ。
食事の後での話にはダイモンさんにも同席してもらいたい。
「今、宿の方で調理してもらっているから、もう少し待ってもらえるかな」
食堂にはティエリさんの他、同行してきたメンバーが集まっていた。
「ティエリさん、例の話は僕たち兄妹とダイモンさんしか知りません、彼らには内緒にしています。
豆はニールから持って来たということにしてあるので、話を合わせてもらえると助かります」
「わかりました、彼らとクリスティアナには内緒ということですね。それと細かい話は後程、お二人の部屋ですることにしましょうか」
「その方が良いですね」
ダイモンさんの大きな体の陰に隠れながら、ティエリさんと小声で相談する。
その後しばらく、お茶を嗜みながら歓談していると店員が料理を運んできた。
「これは兄ちゃん達の豆だな? 旨いんだよなこの豆」
「本当、ニールの豆がこんなに美味しいなんてね」
彼らは僕に騙されていることに気付かず、ニールの豆だと思い褒めちぎっている。本当のことを言えなかったとはいえ、非常に気まずい。
「ほう、これがニールから持って来た豆か。こいつらがロビーで絶賛していたからな、是非食べてみたかったのだ」
あちゃー、クリスさんにまで嘘が広まってしまっている。この件については、もう諦めるしかないかも。
「お兄ちゃん、ほらお肉が入ってるよ。このお豆、お肉とよく合うから絶対美味しいよ」
「それでは、試食を開始しましょう。さあ、温かい内にどうぞ」
大きく深い皿に入れられたスープのような煮豆を小皿へと取り分け、試食してみる。
「相変わらず、旨いなこの豆。いい加減食べ飽きたと思ったのだが、食えるもんだ」
「僕も食べ飽きたと思っていたのですが、美味しいですね」
ダイモンさんは僕と同じ気持ちだったのだろう。それでもいざ食べてみると、美味しいから反応に困る。
霞は試食だというのに、お替りをしてはバクバクと食べ続けている。
「豆の味がしっかりとしていて、とても旨いな」
「これは素晴らしい素材ですね」
クリスさんとティエリさんも満足そうに笑顔で食べている。
「この反応なら売れるな?」
「ええ、間違いなく」
僕とダイモンさんは、皆の反応を眺めながらほくそ笑む。
「話が順調に進めば、この豆が流通するかもしれませんよ」
「それはそれで面白い話になりそうだな」
「例の話の間だけダイモンさんも手伝ってくださいよ、上手くすれば流通に一枚噛めますよ?」
「アキラ、お前相変わらずだな。オレは冒険者であって、商人ではないんだぞ」
「今のところ顔見知りなのは僕たちだけです。交渉役として出向くなら、森を踏破できる冒険者の方が都合がいいってことですよ」
「ううむ、何だか乗せられてる気がするが良いだろう。この話の間だけだからな」
上手いことダイモンさんを懐柔することが出来た。実際、一枚噛もうとすれば幾らでも手はあるだろうしね。
エルフ達も通貨を手にできる訳だし、win-winな関係で誰も困ることは無いはず。
ただ、話が順調に進むとも限らないので、皮算用にならないとも言えない。
「あれ? もう無くなっちゃった」
「なに! もう無いのか」
「あくまでも試食ですからね」
うちの妹とあちらの従妹だか妹だかは、試食ということを理解していない様子。
「私はご兄妹たちとお話しがありますので移動しますね。マスターはそこの2人をお願いします。それでは参りましょう」
食べ足りないと顔に書いてある霞の手を引き、ティエリさん、ダイモンさんと一緒に僕たちの部屋へと向かう。




