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44.魔王都-冒険者ギルド本部-1

 中央区に入った馬車は、冒険者ギルド本部前に到着した。本当に長かった旅が漸く終わりを告げたのだ。

 クリスさんは僕たちが馬車から降りるのを確認すると、冒険者ギルド本部の建物に入って行った。

 馬車には豆などの荷物もあるので、ジルヴェストを待機させておくことにする。

「それじゃあ、ジルヴェスト悪いけど留守番をお願いね」

『うむ、任せよ』

 こういった警戒に関しては、ジルヴェストに任せるのが一番だ。感知範囲の広いジルヴェストなら何ら問題は無いだろう。

 御者台に居た2人も含めた全員で本部の建物に入って行く。

 建物に入って直ぐの所では、クリスさんと他の職員が何やら揉めているように見える。


「数日姿が見えないと思ったら、どこで何をしていらっしゃったのですか!」

「私は例の冒険者たちを迎えに出ていたのだ、決して疚しいことなど無い」

 職員の質問に対するクリスさんの返答は尻すぼみだった。

 僕たちはどうすれば良いのか分からずに、ただ立ち尽くすのみ。


「あ、ああっと、お待たせして申し訳ない。ほら、皆さんを早く応接室にご案内して」

「皆さまはこちらへ、私の後に付いて来てください」

 立ち尽くす僕たちにやっと反応してくれた職員が、応接室へと先導し案内してくれることになった。

 応接室に着くとソファに掛けるようにと促されたので、僕たち3人と御者2人で別れて座ることにした。オンディーヌは僕たちが座っているソファの後ろに浮かんでいる。

 案内をしてくれた職員は、お茶の準備をするということで部屋を出て行ってしまった。


「どうやらクリスさんは本当に職員だったようですね」

「入り口でのやり取りを見ていると、上位の立場なようだがな」

 ダイモンさんの言う通り、確かに偉そうではあったけど言い訳してたよね?

「お兄ちゃんたち、人を見る目が無いよ」

 霞は腕を組んで胸を張り、ご満悦だ。

「それでも僕は、何かを隠しているように感じるのですがね」

「すぐにネタ晴らしが始まるのだろうさ、気にするな、アキラ」

 僕たち3人が話をしている最中、御者の2人は押し黙ったままだった。見るからに緊張しているのが分かる。

「お待たせしてしまって申し訳ないです。ギルドマスターには支度を急がせておりますので、もう暫くお待ちください」

 先程案内してくれた職員はお茶を淹れてくれた。皆の前にお茶が配り終わると同時に、応接室の扉がノックされた。


 職員が扉を開くとクリスさんが入って来た、服装が変っているので着替えをしてきたのだろう。

「待たせてしまってすまない。私が冒険者ギルド本部、ギルドマスターのクリスティアナ・フォローニだ」

 やっと腑に落ちた気がした、僕の中にあった違和感の正体が解消されたのだ。

 僕とダイモンさんは揃って嘆息する。実に下らない。

 一方慌てているのは、ミネルバさん一人だけ。

「ギ、ギルドマスターだったのですか? どこかで見掛けたような気がしていたのですが」

 そういえば、初対面の時にミネルバさんは首を傾げて、何かを考えていたような気もするな。


「それで、役職を誤魔化してまで我々に近づいた理由はどういうことでしょう?」

 ダイモンさんが的確に突っ込んでいく。

 クリスさんはもっと驚かれるとでも思っていたのだろうか、逆に呆気に取られている様子。

「本部マスターは仕事から逃げるために、皆様の案内を勝手に実行したに過ぎません。特に意味は無いので、お気になさらないでください。

 それと私はマスターの補佐を務めております、ティエリと申します。以後よろしくお願いします」

 そんな身も蓋もないことを言ってのける補佐のティエリさんだった。

「なっ何を言っているティエリ、案内も大事な仕事だろう?」

 僕は、否、僕たちはクリスさんに冷めた視線を送る他ない。

 あんなにも警戒していた冒険者ギルド本部の実態が、いざ蓋を開けてみるとこんな状態だったのだから。

 どうしよう、対処に困るな。これが僕たちを引き込む心理的な手段だとしたら、ちょっと手に負えないな。


「えーと、僕たちが呼ばれた理由を伺ってもよろしいでしょうか?」

 今までのやり取りを全てスルーして、質問を投げてみる。

「それは以前問い合わせのあったスキルのことで呼んだのだ。君たちの持つスキルはとても面白いのでね」

 我が意を得たりとにこやかに答えてくるクリスさん。

「面白い、とは?」

 なんとも抽象的な話だ、面白いということは詳細が判明したということだろうか?

「この魔大陸の歴史上類を見ない、かなり希少なスキルだということさ」

 逆だ、この言い回しは、僕の考えとは全くの逆なのだろう。

「その話し方だと、詳細は何も掴めていないのですね?」

「ああ、何と聡いのだろう。その通り、何も分かっていない。政府にも調査を依頼したが何も分からなかった」

 政府ってことは、魔王様にまで話が通っているってことかよ。

 話が大きくなりすぎているのではないか。

 僕は額に手を当て、次の言葉を捻り出そうと考える。


「何も分からないのなら、ニールへの通達だけで済んだ話ではないのか?」

 僕が頭を悩ませていると、ダイモンさんが後を引き継いでくれた。

 そうだ、その通りだ。

「そうもいかないのだよ。そこの兄弟はそれぞれが特殊なスキルを有している上に、歴史上稀な精霊を行使できる者達だ。

 私もだが、魔王様も大変興味をそそられてな」

 この流れはアレか? ギネスさんやリエルザ様と同じような感じか、ただ規模というか、役職が半端ないだけで。

 マズいな、このままでは碌なことにならない予感がする。

 しかしエルフのことを思えば、魔王様に謁見できる機会というのは千載一遇のチャンス、逃す手は無い。

「興味をそそられるというのであれば、実演でもすれば良いのですか?」

 相手が食いついているのであれば、それを利用しない手は無い。実演と云っても、ニールで何度もやっていることの焼き直しに過ぎない、何の問題があろうことか。

「話が早くて何よりだ、しかし私は良くても魔王様は多忙を極めるお方ゆえ、今日明日という訳にもいかない。

 …そうだな、問い合わせはするが10日程調整で手間取るとみた方が良いだろう」

「では、その間の準備や彼らの仕事については私が手配しましょう」

 補佐というだけのことはある、ティエリさんが僕たちの面倒を看てくれるらしい。

 一応これで、僕と霞関連の話はついたことになるだろうか。


「オレはこいつら兄妹をここまで送り届けるのが仕事だったのだが、以後どうすれば良い?」

 そうだった、そうだった、ダイモンさんとはここでお別れするのだった。この長い旅でたくさん助けてくれたダイモンさんと別れるのは辛いな。

「ニールの冒険者ギルドから話は聞いている、護衛の役目ご苦労であった。報酬は本日付で支払おう。

 出来るのであれば、暫くはこの子らの傍に居てやって欲しいものだがどうだろう?」

 その提案は僕としてもかなり有難いが、ダイモンさんの返答次第だな。

「ダイモンお兄ちゃん、これからどうするの?」

 霞もダイモンさんと別れるのは、寂しいのかもしれない。

「オレも別にニールに戻るつもりは最初から無かったからな、この都を拠点に冒険者として働かせてもらうぜ。ただ、こいつらに付きっ放しという訳にはいかないな。

 こいつらも一人前の冒険者だ、いつまでもお守が必要ということもない」

 ダイモンさんは僕たちを一人前と認めてくれた。だからこそ、お守は出来ないということなのだろう。

 それでもここを拠点にするというのなら、また機会さえあれば会えるのだ。

 僕は何と言うべきだろう、何と答えたら正しいのだろう。

「ダイモンさん、僕を、僕たちを認めてくれてありがとうございます」

「なんだアキラ、辛気臭いぞ。今生の別れでもあるまいに」

 ダイモンさんの大きな手が僕の頭を撫でる、僕は涙が流れるのを堪えきれなかった。

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