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41.魔王都-出発

 魔王都に着いた日の翌日、僕たちは宿を引き払い冒険者ギルド支部へと足を運んだ。


「ようこそ、お待ちしておりました。さあどうぞ、こちらへ」

 クリストフ支部長に出迎えられ、僕たちはカウンターの内側の更に奥、彼の執務室へと案内された。


「先日は門の警備の者が大変失礼をいたしました。何分、彼らのような階級の低い役人と冒険者ギルドは仲が良くないもので」

「外から来た我々には関知しないことなので、当たられても困りますがね」

「仰る通りです。本部の方から中央の官僚に苦情が行くので、件の警備隊長には厳しい沙汰が下されることでしょう。中央の官僚機構とは持ちつ持たれつでやっているのが冒険者ギルドですからね」

 大人の世界は中々に複雑なようだ。


「それと馬車を私共の方で用立てておりますので、是非ご利用ください」

「中央区とやらまでは、どのくらいの日数を要するのでしょうか?」

「そうですねえ、通りの状況にもよりますが、4日乃至は5日といったところでしょうか」

 あれ? ミネルバさんの話では歩いて5日って言ってなかったか?

「それはある程度の余裕を考慮しているのですか?」

「ええ、昼夜問わず馬車で過ごす訳にもいかないでしょうからね」

 ああ、そうか、寝泊まりや食事の時間も考えないといけないな。


「御者も付けてくれるのか?」

「そのように手配しております」

 ダイモンさんの質問にすんなりと答えを返すクリストフ支部長。

「今連れている馬をどうするかだな」

「よろしければ、こちらの方でお預かりしましょう」

「そうか、それなら是非お願いしたい」

 実務的な話はダイモンさんに任せておいた方が良いな。


「本部は僕たちをどういった理由で呼び出したのか、ご存知ですか?」

「お二人のスキルに関する調査という話でしたね」

 調査依頼は既にニールのギネスさんが申請していたはずだけど、直接僕たちを見て判断するつもりなのか?

「ああ、それに付随しまして、魔王様への謁見も視野に入れているとか」

 大事になってないか…。いやでも、エルフの件を考えると好都合かもしれない。

 魔王様に直訴するというのは、許されるのだろうか? 状況を見て動くしかないだろうな。

「そうですか、ありがとうございます」

 礼を述べたところで、扉がノックされギルド職員が馬車の準備が整ったと告げらた。

「では、馬車の方へ参りましょう」

 僕たちは、執務室を後にしてロビーまで戻って来たところで迷子組と顔を合わせることになった。


「おはようございます」

「ゆっくり休めたか?」

「彼らが御者を務めることになっております」

 専属の御者さんが居るのではなく、この二人が案内がてら御者を務めるという訳だな。

「じゃあ早速だが、荷物を積み替えよう」

 ダイモンさんに促され、馬に括り付けてある荷物を馬車へと積み込むことにする。

 馬車はリエルザ様も使っていた箱馬車で4人乗りといったところだ。


「この2人が何か粗相でもするようなら、本部の方に報告をお願いします」

「大丈夫だって支部長、ただ馬車を走らせるくらいで妙なことはしないからよ」

「そうですよ、御者は私が務めるのですから問題ありません。アーロンい馬車は扱えませんから」

 アーロンさんの役目がわからないぞ。

「それではこちらの荷馬はお預かります、道中お気をつけて」

 僕たちは会釈で返しながら、馬車に乗り込んだ。

 オンディーヌは霞のクッションになる役目があるので馬車の中に、ジルヴェストは一応の警戒役として馬車の上へと移動する。

「それじゃ出発するぞ」

 御者台との間にある隙間のような窓から、アロンさんが声を掛けてきた。ゆっくりと馬車が進み始める。

 暫くすると少しだけスピードが増したようだが、思っていたほどの揺れは無い。

「オンディーヌちゃん、ありがとうね」

『気にするでないわ』

 オンディーヌクッションはしっかりと役に立っている模様。



「アーロンさん、僕はやることも無いので寝ます。何かあれば声を掛けてください」

「お、おう、昼飯はどうするんだ?」

「適当におすすめのお店か、屋台にでも案内してください。お二人の分はこちらで持ちますけど、出来るだけ高くないところで」

「昼時は混むので、少し時間をずらしますね。気にせずお休みください」

 御者台の2人に道中の案内を完全に任せてしまおう。 

 冒険者ギルド支部へ向かう為に、早起きしたので眠い。程よい馬車の揺れが更に眠気を誘う。


「特にやることもないからな、オレも一眠りすることにしよう」

 ダイモンさんも退屈で仕方なかった様子。

「霞は既に眠りっていますね、オンディーヌよろしくね」

『ジルヴェスト、問題は無いと思うけど何かあれば起こしてくれ。勝手に行動しないでくれよ』

『了解だ、主』

 ジルヴェストは馬車の外なので、頭の中で伝えたいことをイメージした。

 街中なので別段問題がある訳でもない、途中起きるとすれば食事くらいなものだ、一眠りしてしまおう。


 

「お兄ちゃんたち、起きて! お昼ご飯だよ」

「ん、もう昼か」

「さっき寝たばかりなのに」

 霞の腹時計はかなり正確なようです、僕とダイモンさんは眠気眼を擦りながら周囲を窺う。

「ああ、やっと起きてくれましたか」

「飯時はだいぶ過ぎているぜ、混雑も去ったから早く降りて店に入ろう。晩飯の仕込みの為に閉まっちまう前にな」

「ほら、早く! 食べ損なっちゃうよ」

 馬車は食堂の前に停車している状態だった。

「アキラ、早くしろ」

「わかってますって、オンディーヌ、ジルヴェストと一緒に馬車を頼むぞ。妙なのが寄って来ても怪我はさせるなよ」

『はいなのじゃ』

 大通りで道幅が広く、馬車を路肩に停めても何ら問題は無いと思われる。また人通りも多いので、妙な輩が寄ってくることも無いと思いたい。

 それだけ伝えると馬車を降り、食堂へと入って行く。6人掛けのテーブルに着いた、何が良いのか分からないので注文は御者の2人に任せてしまった。

 注文を済ませると、食堂の店員は素早く配膳してくれる。お昼は混雑するのか、直ぐに出せるように準備でもしているのだろう。


「これがこの店おすすめのシチューだ、お替り自由だからな」

 アーロンさんがお勧めする訳だ、お替り自由とはまた凄いな。

「お兄ちゃん、凄い色してるよ。面白いね」

「本当だね…」

 僕たちの世界では考えられない色をしているシチュー、青紫に黄色を混ぜ込んだようなマーブル。これを食べるのには勇気が必要だ。

「冷める前に早く食べてしまいましょう」

「そうだぞ、お前たち。ぼーっとしてないで早く食べてしまえ」

 ミネルバさんとダイモンさんが急かしてくる、アーロンさんは早くもお替りを注文していた。

 霞は恐る恐るシチューへと手を伸ばし、少しだけ口にする。

「うわっ、美味しい! お兄ちゃんも早くたべてみなよー」

 こんな色しているのに、よく食べられるな。仕方なくスプーンで掬ったあと、目を瞑って口に放り込んだ。

「あ! 確かに味はとても美味しいですね」

 味はだ。僕にはこの色がどうしても受け入れられそうにない。

「お肉もたっぷり入ってて美味しいね、私お替り!」

 すっかりお肉中毒となった霞には、色など関係ないのだろうか? 僕は一皿で十分だというのに。

 悍ましい色のシチューと普通のパン、それに野菜のサラダというとてもシンプルな定食を皆は黙々と食べている。

 僕は残すわけにもいかず、早々にシチューを退治してパンとサラダに取り掛かっている。食事と云うより戦いだ。


「はー、食った食った」

「ご馳走になりました」

「道中の案内と御者をお願いしている以上、食事代程度は出しますよ」

「ありがとうございます。宿の手配は冒険者ギルド本部でやってくれているそうですし、これからの旅程は宿を順に巡ることとなりそうですね」

 そういうことは最初に話すべきじゃないかな? 僕は聞いてないぞ。

「その話ならオレが支部長から聞いている。1日で進む距離を、あちらが無理のないように設定してくれているのだそうだ」

 そういえば、実務的な話はダイモンさんに任せてしまったのだったな。

「じゃあ、安心して寝ていられるね。お姉ちゃんたち、よろしくお願いします」

 霞はアーロンさんとミネルバさんに向かって、ペコリと頭を下げた。

 頭を下げたからって、ずっと寝ているってのはどうかと思うよ?

「まあ、そういう話だから宿に向けて出発するぞ」

 多少遅くなっても問題は無いだろうけど、早く到着するに越したことは無いもんな。

 そそくさと馬車に乗り込み、出発することになる。宿が用意されているなら、安心して旅が出来るだろう。

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