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38.森を抜けて

「ほら、もう少しだよ!」

「漸くここまで辿り着いたな」

「やっとですね」

 僕たちはあと少しで森を抜ける、旅の最大の難関であるこの森とおさらば出来る。

「アーロン! 平地が見えるよ、後少しだよ」

 ミネルバさんは感動のあまりなきだしてしまった。

「やった、帰って来れた。全部あんた達のお陰だ」

 いやーもう、本当に大変な森だった。

 迷子になったり、エルフに軟禁されたり、魔獣に襲われたり、迷子を拾ったりと散々な目に遭った。

 それでもこうして辿り着いたのだ、自分を褒めてあげたい。

「森を抜けるまであと少しだが、気を抜くなよ。安心して油断することの無いように!」

 平地が見えたことで安堵していた僕たちの気を、ダイモンさんが再び引き締める。

 既に2日程前には、木洩れ日の差す普通の森の明るさとなり、灯りは必要なくなりルーは帰らせてある。

 今現在随行している精霊はオンディーヌとジルヴェストだけだ。大量にあったはずのお肉も迷子2人が加わったことですっかり食べ尽くし、スノーマンもまたお役御免となったのだ。

「そうだ! 森に入る前にガルーダでしたっけ? 大きな鳥を見ましたけど、アーロンさん達は見掛けていませんか?」

 森を出てもあんなのに襲われたら一溜りも無い。

「ガルーダなんて怪物は今まで見たことすらないぞ、森の上空に居るって話はよく耳にするけど」

 こちら側には居ないのかな、居ないならそれに越したことは無いね。

「ガルーダにもし出くわしたら、アキラとカスミの出番だ。お前たちなら討伐できるやもしれん」

「冗談はやめてください。遠目で観てあの大きさなんですよ、近くに来たらどれだけ大きいのか想像もつきませんよ」

「ズルい、私も見たかった」

「私は遭遇しないことを祈っているわ」

 程よい緊張を保ちつつも会話をしながら、森の外を目指して進んでいく。


 お昼時が近付いてきたのだろうか、霞とアーロンさんがそわそわし始める。

「ガルーダの件もある、昼食は森の中で摂るとしよう」

「やったー、ごっはんー」

「ちょうど腹が減ってたんだ」

「それじゃあ早速、準備に取り掛かりましょう」

「アーロン食べるだけじゃなくて手伝いなさい」

 役割を分担して、作業を素早く片付ける。調理担当はダイモンさんとミネルバさんに、僕と霞は焚火の管理、アーロンさんは警備だ。

「魔王都まであと数日だ、肉は干し肉も切れてしまったし我慢するとしよう」

「豆がありますから、栄養面では問題ないですよ」

 豆は畑のお肉ともいうしね。

「しっかし、こんなに大量の豆はどうしたんだ?」

「これは食糧難を懸念してニールから持って来たのですよ、余っても売れますから」

 僕は澄まし顔で嘘をつく、本当のことは他言できないからね。

「そうか、これだけありゃ食いっぱぐれることも無いもんな」

「私たちもこれからは食料に豆を持つようにしようかしら」

 ミネルバさんの言葉に、ニール組の3人はそっと目を逸らした。


「ニールの豆ってこんなに旨いんだな、酒場で食う豆料理と味が全然違うもんな」

「あーそれは私も感じたわ。この豆、豆自体の味が濃いのよね」

 他の所の豆と味違うの? 僕は懐疑的な眼差しでダイモンさんを見た。

「存分に魔力をを含んでいるのだろうな、農家の自慢の品なのだろうさ」

 ダイモンさんは僕と霞にだけ分かるように、誤魔化しながら説明してくれた。

 そういえば、お肉も魔力の含有量で味が変わるって言ってたっけ。

「俺達も持ち出しの食料は豆にするべきだな、パンみたいに嵩張らないのも良い」

 確かにパンみたいに嵩張らないけど、馬が居ないと運び辛いんじゃないだろうか。

 それにこの豆、売るに売れないような気もしてきた。出元を尋ねられても答えられないよ。


 昼食を済まし、軽く休憩をしてから森を出るために出発する、出口まであとはほんの少しの距離だ。

「ジルヴェスト、周辺の警戒を強化してくれ」

 森を抜けるの、怖いのはガルーダだ。僕は平地に踏み出すと同時に振り返り、背後の森とその上空に目を凝らした。

『問題ない、妙なものは何もない』

「ありがとう、僕の目にも何も問題は映らないよ」

 正直ほっとした。

『何かあっても、妾らが主様を守るでな』

『そうだぞ、気にしすぎるな主よ』

 僕は頷いて返したが、なんだろう既視感がある。精霊に慰められるとか、諭されるとか…。

「ガルーダは見当たらないな、このまま夜営が出来そうな場所まで進むぞ」

「残念だなー、見てみたかったのに」

 霞がブー垂れているがスルーしよう。


「心配し過ぎて、喉が渇いたな。オンディーヌ」

『ほいなのじゃ』

 オンディーヌは左手を僕の口の中に突っ込んでくる、口の中に冷たい水が流れ込んできて、それがまた美味しい。

「ズルいよお兄ちゃん、水筒のお水を飲みなよ」

 皆はそれぞれが水筒を腰に吊るしているが、僕の水筒はリュックの中にある。

「仕方ないな、オンディーヌ」

『しょうがない妹御じゃの』

 文句を言ったあと口を大きく開ける霞にオンディーヌは水玉を飛ばした。

「ありがとう、オンディーヌちゃん。冷たくて美味しい!」

「全くお前らは何を遊んでいる、今日中に森から出来るだけ離れねばならぬのだぞ」

 霞が絡んでくるから、ダイモンさんに怒られてしまったではないか。

 そんなことを言ったダイモンさんも口を開いて待っている。

「オンディーヌ」

『分かっておるわ、迷子にも指示したらどうじゃ?』

「ミネルバさん、アーロンさん、こっちを向いて口を開いて!」

 僕は2人に聞こえるようにお願いした。

「相変わらず、オンディーヌの水は冷たくて旨いのな」

「なんだ、どうし…って、冷たい水か、生き返るぜ」

「ああ、ありがとう」

 結局全員の口にオンディーヌの水が行き渡るという事態になってしまった。

「手間を掛けるね」 『大したことは無いのじゃ』



「よし! その岩陰で良いだろう。ここで夜営するぞ」

 夜営の準備も分担して手早く終わらせる。

 夕食もまた豆料理一色だったが、バリエーションが豊かなのでまだ耐えられそうだ。

 それでも流石に豆のみというのは辛いので、シュケーに無花果をもらい皆で分けた。

「魔王都まではあと何日くらいですか?」

「無理をしなければ、5日と云ったところでしょうか」

「魔王都は広いからな、南門に着いても目的地によっちゃかなり歩くことになるぞ」

 あぁ、そうか、小さい町ではないんだ、都市だということが頭から完全に抜けていた。

「目指すは冒険者ギルド本部だね」

「ギルド本部ね、中央区は入るには許可が必要なはずだけど大丈夫なの?」

「こいつらを召喚したのは冒険者ギルド本部だからな、何の問題も無いさ」

「ってことは、この兄妹は重要人物ってことだな。俺達が森で迷ったのは幸運だったわけだな」

 森での迷子は死活問題だと思うのだけど。

「私たちで中央区の入り口まで案内するわ、アーロン良いわよね?」

「ああ、願ってもない」

「それは助かるな、是非お願いするとしよう」

 ミネルバさんの提案により、魔王都までの道程と魔王都の中のガイドをお願いすることになった。

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