37.迷子の2人
「それでお前たちは、どれくらい彷徨っていたのだ?」
「森に入ってから4日いえ5日ですかね」
「やっぱ肉だよな、肉! もう2日も木の実と草しか食ってないからよー」
「キノコも生えていただろう?」
「キノコは見分けがつきませんから、手を出せなかったのですよ」
素人目でキノコを見分けるのは難しい、こちらの世界でも同様なのだろう。
「オレたちは真っ直ぐ魔王都を目指して進む、悪いが仕事に付き合う気がないぞ」
「気にしないでください、生きて帰れるだけで十分です」
「全くだ、こんな仕事やってられるか。嬢ちゃんスープのお替りくれ」
何故達成出来るかもわからない依頼を受ける気になったのだろう? 計画性がないのか。
「依頼は薬草の採取という話でしたよね どんな薬草なのか教えてもらえますか?」
「ありがとう嬢ちゃん。そういや確か、薬草の絵を描いた紙があったろ? ミネルバ」
アーロンさんはスープのお替りを受け取りながら、ミネルバさんに尋ねた。
「えーとちょっと待って、荷物の奥に、あったわコレよ」
「ちょっとお預かりしますね。シュケー、おいで」
地面から芽がちょこんと出た後、急速成長を果たしシュケーが顕現する。
『おまたせー』
「久しぶりだね、シュケー。この絵の草に見覚えはあるかい?」 『うん、そこにたくさんあるよ』
相手がシュケーだから苦戦するかと思ったら、存外に早く見付かってしまった。
預かった説明書きには、根も含めて全て採取するように書いてある。1本抜いて確認してみたら、絵とほぼ同じ形だった。
「これがお探しの薬草みたいですよ」
説明書きと一緒に薬草も渡してしまう。
「あ、あ、あ、あ…」
「ありがてー、依頼達成だな。えーと、あと何本採れば良いんだ?」
「アーロン何暢気に! 精霊を呼んだのよ!」
「うるせーな、全部で20本根っこごと採取しろってか」
「もうお兄ちゃん、食べてからにしなよー」
「おお、すまん。急いで食っちまおうぜ、ミネルバ」
「あ、うん」
「灯りはありますから、ゆっくり食べてください」
僕が焦らせてしまったからだろう、霞に睨まれた。
『あるじ~、これ』
シュケーは空気を読んだのか、それとも平常運転なだけなのか無花果を渡してきた。
「良かったら、これも食べてください」
「久しぶりだな、これ好きなんだよなオレ」
「私も好きだよ、シュケーちゃんありがとうね」
迷子の2人はやはり食べ方が分からないようだ、僕たち3人は揃って半分に割った中身に齧り付く。
無花果のお陰で、油っぽかった口がさっぱりした。
「こりゃうめー、食後のデザートまで完備とは恐れ入るわ」
「ほんと、何これ美味しいわね」
迷子の2人も満足したようで何よりだ。
食事を終えた2人は、薬草採取に勤しんでいる。ルーの明かりが届く範囲なので問題ないだろう。
「森に入ってから5日迷子ってことは、あと何日歩けば森を抜けられるのでしょうか?」
「方角も読めないような迷子を当てにするのは止そう、オレたちは予定通り進むとして、森を抜けるまで5、6日といったところだろうな」
「お豆もたくさん余ってるから、ゆっくり進もうよ」
「ゆっくり進むとしても、警戒は怠るなよ。魔獣が出てこないとも限らない」
「彼らは魔獣に遭遇しなかったのでしょうね」
「進行ルートに死体が転がっていなくて良かったよ、気が滅入るからな」
あの迷子2人では対処は難しかっただろうからね。
「採れた採れた大量だぜー」
「ちょっとアーロン、この袋も持ちなさい」
「ありがとうよ、兄ちゃん。魔王都に戻ったら分け前を弾むぜ」
アーロンさんはミネルバさんを無視して、話し掛けてきた。
こんな森の奥に入らないと採れない薬草の報酬はどのくらいなのだろう?
「お気持ちだけで結構ですよ」
「そんじゃ、飯を奢らせてもらうわ」
アーロンさんは口調が荒いけど、良い人らしい。ただこんな性格だから、ミネルバさんは苦労してそうだけど。
「お前ら、夜警の順番を決めるぞ。最初はアキラとカスミ、次に迷子2人、最後にオレの順で見張りをする」
「私たちは最初だね、お兄ちゃん」
「あぁ、うん」
最初が一番楽かな、終われば朝まで眠れるからね。
「それでは先に休ませてもらうわね」
「悪いな、お前たち」
「オレも休ませてもらうぞ」
「はい、おやすみなさい」
今日から見張りは二人一組になるのか、一段と退屈しなくて済みそうだ。霞は既に精霊たちと戯れている、疲れて途中で眠らなければ良いのだけど。




