34.旅路-6
えーと、ニールを出発してから一体何日経ったのだろうか?
森に入るまでに5日、森を彷徨い歩いたのが2日で、拉致軟禁が3日かな? うん、そのくらいだろう。
昨日の晩御飯は実に豪勢だった、旅を始めて以来初めてと云っても過言ではないだろう。
そして今朝もまた充実した朝食だった、在庫を気にせずに食べられるお肉がなんとも嬉しい。
大きな後ろ足の肉塊が2本もあるのだ、到底食べ切れるものでは無い。
そして、お肉の保存に関しては、ちょっとばかり問題が発生した。単純に凍らせれば良いということでは済まなかったのだ。
問題解決の為に、精霊を含めた全員で頭を悩ました結果、導き出した答えは霞の隣に居るスノーマンにある。
最初はお肉を丸ごと凍らせれば済むと思っていたのだが、夕食を調理する段階になって問題が発覚したのだ。
スノーマンを呼び出して、カッチコチに凍らせたお肉を調理するには解凍しなければならない。
しかし丸ごと解凍して、残りを再び凍らせるとなると鮮度も落ちるし味も悪くなる。そこでお肉を一食分の大きさに切り分け、スノーマンは常時召喚し、簡易冷凍庫として切り分けたお肉をスノーマンに突っ込んだのだ。
一食分に切り分けるというアイデアは僕が出したものだが、スノーマンに突っ込んだのは霞だ。
流石にそれはどうなのか? と僕も考えたのだが、当人であるスノーマンが気にしないので問題なしとされてしまった。
淡く透けているスノーマンの体のあちこちにはお肉が透けて見えている、なんとシュールな光景だろうか。
旅の方はと云えば、今のところ順調そのものだ。そう何度も問題が起きても困るのだが。
ダイモンさんの話で大岩からの進行ルートは、ただひたすらに北進するのみ。魔獣等の脅威を警戒をしながら進むだけで良いらしい。
それでも木々が更に茂り、日差しは地面まで届かなくなって久しい。若干ではあるが、薄暗いので薄気味悪くはある。
今日の目標は進めるだけ進むこと、多分だが明日以降も同じなのだろう。
「よーし今日はここまでにしよう」
「急がないと真っ暗になってしまいそうです」
「焚火は任せてね」
作業を分担して手早く夜営の準備と整える。
「スノーマン、そこのお肉取ってオンディーヌに渡して」 『ここ?』
指差してスノーマンの体に埋もれたお肉を取り出してもらう。
「そう、そのお肉」 『はーい、おばちゃん』 『妾をババア呼ばわりするでないわ』
「まあまあ、オンディーヌは解凍をお願いね」 『分かっておるのじゃ』
スノーマンに突っ込んだお肉に僕たちは触れられない、あまりに低温過ぎて危ないのだ。
オンディーヌの体内でゆっくりと解凍してもらっている。
『終わったのじゃ、もう平気じゃぞ』 「ありがとう、オンディーヌ」
「ダイモンさん、お肉の解凍終わりました」
解凍までまで済んだお肉をダイモンさんに渡すところまでが僕の仕事だ。
霞は生豆でスープを作っている、優しい味の美味しいスープに化けるのだ。
メインディッシュはダイモンさんにお任せである。今日はどんな料理になるのか、楽しみだ。
「よし! 出来たぞ。食べるとしよう」
ダイモンさんの料理は豪快だ、今日もステーキらしい。
霞はスープを配っている、僕はジルヴェストに頼んでパンをスライスしてもらい、これも各自に配る。
「このお肉かなり美味しいですよね」
「お肉、お~に~く、お~にく~」
あまりの美味しさに変な歌を歌いだす、霞。
そう、このお肉は何故か凄く美味しいのだ、日本で食べていた牛肉の比ではない。
ダイモンさんが云うには、魔獣、家畜を問わず魔力の含有量で美味しさが上下するのだそうだ。
クインジャガーも食べれたのだろうか? 流石にネコ科の肉食獣を食べる気にはなれないのだけど。
食後の片付けも終わり、のんびりとした空気が流れるとダイモンさんが明日の予定を話し出した。
「明日からは恐らくこの森で最も深い場所を通ることになるだろう。今日よりも薄暗くなるだろうから、松明を用意しておけよ」
今日でも結構薄暗かったのに、それ以上に暗くなるとなれば問題だな。
イフリータは森の中で呼ぶには危険すぎる、何か良い精霊は居ないだろうか? 光や雷といったところかな。
今呼ぶと明るすぎて眠れなくなってしまいそうなので、明日にしよう。
「松明ですね、わかりました」
「それじゃあ、私が見張りをするから、お兄ちゃんたちは寝ていいよ」
「ん、ああ、頼むぞ、カスミ」
「僕も先に少し休ませてもらうよ、お前たちも頼んだよ」
『任せろ』 『はーい』 『任せるのじゃ』
精霊が3体も居るので見張りの必要を感じないのだが、即座に対応できる人が居るのも安心ではある。
霞の言葉に甘えて、僕とダイモンさんは一眠りすることになった。休める時に休んでおくのも仕事の内だ。
何時間か眠ると、霞に起こされ見張りを交代した。
特に何がると云うことも無く、また数時間後にダイモンさんを起こし交代を済ませた後に眠ることにした。




