表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
33/186

33.旅の再開

 昼食を頂いた僕たちは出発することにした。

 あの忌々しいパンと交換した豆は馬へと積んである。これで幾らかではあるが、食生活が改善されたはずだ。


「シュケーは歩くのが苦手そうだから、一旦お別れしようか」

『うーん、駄目?』

「僕たちだけって訳じゃないからね、また呼んであげるから」

『わかった、絶対だよー』

 シュケーは少し渋ったが、急成長を巻き戻すかのように土の中へと帰って行った。

「キリエさん、お待たせしました。それでは案内をお願いします」

「はい、では出発しますが、大岩を目指すということでよろしいのですね?」

「はい、お願いします」

 キリエさん率いるエルフ青年団と結界士エレノアさんに先導を任せ、僕たちは集落を後にする。

 目指すは、ずっと探し迷っていた大岩だ。



「この先です。あそこに見える大岩、あれで間違いありませんか?」

「ちょっと待ってください、確認をとりますので」

 キリエさんの質問に対し、僕はダイモンさんの方を向いた。ダイモンさんは地図を確認してから僕に頷き返した。

「あの岩で間違いないようです」

「では、その先にある結界を少しだけ開きますのでお待ちください。エレノア様、お願いします」

 エレノアさんはひとつ頷くと、結界があるらしい地点に歩みを進めた。

 結界と思わしき場所に手を当て、何やらブツブツと呟いている。


「開いたぞ、早く通り抜けることじゃ」

 長い時間待たされるのかと思いきや、全く待つことも無く結界は開かれた。

「それではどうぞお進みください。長老からの件、よろしくお願いします」

「短い間でしたがお世話になりました」

「お世話になりました」

 僕たちはキリエさん達に礼を述べてから、開かれた結界を通り抜ける。

 先頭をダイモンさんと馬、続いて霞と僕、その後にジルヴェストとオンディーヌの順だ。



 結界を抜けると突然ダイモンさんが叫んだ。

「お前たち! 気を付けろ」

 馬を庇うように盾を構えたダイモンさんが何かに吹っ飛ばされ、僕と霞の横を一瞬で通り過ぎて行った。

「ブモォォォォォ!」

『主様!』

 オンディーヌが咄嗟に盾になり、僕に向かってきた魔獣の動きを止めてくれた。


「オンディーヌは引き続き防御を! ジルヴェスト! 吹き飛ばせ」

『任せろー!』

 ジルヴェストは特大の空気弾で、オンディーヌの防御の横から殴りつけるように魔獣を吹き飛ばした。

 魔獣はエルフの集落で見たヒュージブルだ。あれほど大きな個体ではないのだが、十分に脅威だ。

「霞は、ダイモンさんを頼む」

「オレは平気だ、吹っ飛ばされただけだからな。カスミは馬を頼む」

「わかったー」

 ダイモンさんは戻ってくるなり盾を構え直している。霞は指示通り、馬のところへ向かった。


 ヒュージブルはジルヴェストの攻撃で吹き飛びはしたが、戦意は衰えていないらしく再び突っ込んで来た。

『妾が止める!』

「アキラ、肉だ! 首筋を切れるか? 血抜きをする」

 ダイモンさんは肉を渇望しているのだろうか、ジルヴェストなら可能だろう。

「ジルヴェスト、もう一度吹き飛ばしてから首筋の血管を切ってくれ」

 僕は自分の首を両手でなぞるような仕草で示した。

『面倒な命令だが、いいだろう』

 懲りずに突っ込んで来たヒュージブルをオンディーヌが水の壁で受け止める。

 オンディーヌが受け留めている横合いから、ジルヴェストは空気弾で弾き飛ばすとヒュージブルはもんどり打って倒れる。追撃とばかりに、倒れもがくヒュージブルの首筋を鎌鼬のような風で切り裂いた。

 直視するのは、少し辛い光景なので僕は目を逸らした。


「ご無事ですか?」

 後方から聞き慣れた声して振り返る。

「あれ? キリエさん」

「皆さま、怪我もないようで何よりです」

「ちょうどいい、解体して不要な部分を引き取ってもらおうか? アキラ」

「やったね、お肉だよお肉」

 この二人はお肉に反応しすぎだろう? 会話が進まないではないか。

「待ってください、皮剥ぎなんて時間掛かるんじゃないですか?」

「この際、皮は無視だ。手間がかかりすぎる、切り刻んで肉を確保しよう」

 うーん、エルフは皮が欲しいんじゃないのかな。

「キリエさん、角持って帰ってください。皮は期待に応えられませんけど」

「え? よろしいのですか?」

 僕は頷くとそのままヒュージブルの元に急いだ。

「オンディーヌ、この血溜まり洗い流してくれ。ジルヴェストは臭いを封じ込めてほしい」

 他に魔獣が居たら困るし、肉食の動物が寄って来ても困る。

『わかったのじゃ』 『封じ込めるのだな』

 オンディーヌは大量の水で洗い流し、ジルヴェストは小さな旋風でヒュージブルの周りを取り囲んだ。

 大量の水と血液は地面に素早く浸透していった、臭いはどうなんだろう?


「ダイモンさん、解体の指示をお願いします。霞はダイモンさんに通訳してあげて。ジルヴェストはダイモンさんの指示に従って」

 精霊は魔族の言葉を分かるようだが、ダイモンさんが精霊の言葉を理解できないからね。面倒な三角構造だ。

「お兄ちゃんは?」

「僕はその間に、キリエさんと話をするよ」

 解体組は作業を開始した。

 スパスパとよく切れる刀替わりのジルヴェストは、とても危険だが便利なのだ。


「キリエさん、他の方は?」

「あ、はい、向こうで待機しています」

「呼んできた方が良さそうですよ、頭とか一人で持てませんよね」

「あ、そうですね」

 キリエさんはそう答えると結界の方に走って行った。

「終わったぞ」

「随分と早いですね」

「後ろ足2本だけだ、皮どころか内臓なんか面倒すぎるからな」

 あーなるほど。

「お兄ちゃん、お肉だよ? もっと喜んで」

 お肉お肉うるさいな。


「すみません、お待たせしました」

 キリエさんが青年団を連れて戻って来た。

「オレたちはもう行くとするか」

 ダイモンさんに頷き返し、キリエさんに話し掛ける。

「僕たちは出発することにしますから、後はお任せしますね」

「旅の無事を祈っています。それと魔獣をありがとうございます」

 嬉しそうにしているキリエさんと青年団に見送られながら、僕たちはやっと出発することが出来た。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ