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31.長老との交渉-2

 昨日ははっきり言って何もない日だった、食っちゃ寝してただけだ。

 今日は長老と約束した日なので朝から3人ともやる気満々だ、当然のように精霊たちもだ。

 朝食も終え、キリエさんがやってくるのを心待ちにしている。


「おはようございます」

 きたきた、キリエさんだ。

「おはようございます」

 僕たちは旅支度を既に終えている、いつでも旅を再開できるのだ。

 僕たちのそんな姿を見ても、キリエさんの様子は焦っている風には見えないので、あちらの話し合いは無事に終了したのだろう。

「長老の元へご案内いたします」

「よろしくお願いします」

 言葉に関しては、霞はダイモンさんへの通訳をしてくれているので問題ない。

 キリエさんに続き外へ出て、繋いでいた馬に荷物を括り付けるとそのまま引いていく。

 旅の最中と同じ陣形に一人一体ずつの精霊が付く形となった最強の布陣だ。どこからでも掛かって来い!


 長老の住居の前に来ると、先日と同じように見張りが立っていたが、キリエさんが話すと身を引いた。

「中へどうぞ」

 キリエさんの案内に従い中へと入る。

 待っていたのは長老キールさんともう一人、婆さんが居た。

「おはようございます、先日は一日の猶予を頂き感謝しております。ここに居りますのは、結界士のエレノアでございます」

 結界士? そのままだろうな。

「その結界士さんを紹介して頂けるということは、結界を解いてもらえると考えてよろしいのですか?」

「はい勿論でございます。ただ全てを解除するという訳には参りません、一部だけお客様の通り抜けるられる場所のみを解除いたします」

「僕たちが旅を続けられるのであれば、どちらでも構いませんよ」

「そう言って頂けると助かります。これから結界の基点までエレノアと若い者が数人お客様に随行いたします、代表は私の娘キリエが務めますのでよろしくお願いいたします」

 そういうことなら問題ないよね。

「随行する方たちは、僕たちに敵意を露わにされない方が嬉しいのですが」

「それは十分承知しております、キリエが人選をいたしました故、問題はないかと思います」

「精霊様を率いるお客様に敵意などございません」

 最初に威嚇してきた人たちのことを思えば信用できないな。

『主様に害をなそうとするのであれば、妾らがただでは済まさぬので安心せよ』

 オンディーヌは体の周囲の水をグルグルと動かし、エルフ達を威嚇している。

 ずっと黙っているエレノアさんが目を真ん丸に見開いてオンディーヌを見て呟いた。

「精霊様を使役しているという話は誠であったか」

『なんだこのババア、主や俺達に喧嘩売ってるのか?』

 ブォォと風が一吹きした。

『そーなのー?』

 どうしたものか、様子をみてみよう。

「と、とんでもございません、これエレノア失礼であろう」

「申し訳ございません」

 長老とエレノアさんが平謝りした。

「こら、お前たち」

『妾まで怒られたではないか!』

『すまん』 『ごめんなさい』

 そんなに怒っている訳じゃないんだよ?


「出発は早い方が良いでしょう、今からでも出られますが如何でしょうか?」

 キリエさんが空気を切替に掛かってくれた、助かる。

「そうですね、僕たちも早いに越したことはありませんので出ましょうか。

 あっとその前に、食料の仕入れといいますか、交換というのは可能でしょうか?」

 あのパンをなんとか出来るチャンスなのだ。一応ダイモンさんには昨日の時点で話してあるし、大丈夫だろう。

「交換と申しますと?」

「少し待ってくださいね、ダイモンさん、パンを持ってきてもらえますか?」

 ダイモンさんに外の馬までパンを取りに行ってもらった。


「これなんでけど、大量にあって僕たちだけでは旅の間に消費出来なそうなんですよね」

 ダイモンさんが硬くて困るパンをいくつかテーブルの上に置いた。

「アキラ頑張ってくれ」

 小声で応援された、ダイモンさんもこれには困っているからな。

「ジルヴェスト、カットしてくれ」 『ほれ』

 掛け声ひとつでパンは厚さ1.5cmくらいにカットされた。

「霞、軽く炙ってもらえないか?」

「うん、わかった。…お願いね」

 霞は火の精霊、鬼火にお願いしてパンの表面を焼いた。

「どうぞ、お召し上がりください」

 こうすると比較的美味しく食べられる、はず。散々嫌がりながら食べた知恵なのだ。

「ほう、これはこれは香ばしくて美味ですな」

「これはパンだな、懐かしい」

「これならば普通の食事に足すことも可能ですね」

 よし食いついたぞ、パンにも、話にも。


「ダイモンさん、これからの道程を考慮してどれくらい残せば良いですか?」

「正直に言えば、もう見たくもないのだがな。そうだな…、あと一月も掛かるまい、三人で一日一個として30個残すか」

「馬に積んである荷物は殆どパンだから、お馬さんも楽になるね」

「しかし豆は乾燥していたら、調理に時間が掛かるぞ? キノコは森で拾えば済む話だから」

「それは大丈夫です。オンディーヌとイフリータが居ますから」

「そうか、お前には反則技があったのだな。あと交換の比率だが、パンと同等の量だと多過ぎるので半分程度でも構わない」

 反則技って、これこそ怒るところだぞ、お前たち。

「わかりました、ではそういうことで進めます」


「お待たせしてしまったようですね、それでパンの方は如何でしょう?」

「味は申し分ありません。数はどれほどあるのでしょうか?」

 数は恐らくまだ200個以上あるはず、馬の負担が半端ないのだ。

「正確にはわかりませんが200個以上はあると思います。そこから僕たちの必要分を30個引いた分全てです」

 霞の通訳を通して話を聞いていたダイモンさんと霞は外へと出て行った、パンを全て取りに行ってくれたのだろう。


「持って来たこれで全部だ。オレたちは数えて必要分を抜くから、アキラは話を進めてくれ」

 これ200個どころの話じゃないな、布袋で4袋分満杯に納まっている。


「これで全部です。それで何と交換して頂けるのか、ということなのですが」

 無難に豆で良いのだが、変わり種があれば嬉しいところ。

「我々の主食は豆ですのでひとつは豆ということで、あとはキノコや木の実であれば森で調達できるでしょうし、他に何かあったかな?」

「お父様、昨日警邏の者が狩って来た魔獣の肉があります。彼らは肉を食するようですし引き取って頂いては如何でしょうか?」

「そうか、それは良い考えだ。かなりの大物ですが如何でしょう?」

「お肉があるのですか、それは嬉しいですね。あ、数え終わったようです」

 大物って言ったよな?

「お兄ちゃん、全部で288個あったよ。30個引くと258個だね」

「えーと半端ですが、258個だそうです。豆をこのパンの入っていた袋に2袋ほど頂けますか?」

「え? パンの数に豆の量が合わないと思われるのですが」

「構いません、お肉も頂けるというお話ですのでね」

 パンは正直僕ももう見たくないんだ。

「それでは有り難く交換させていただきます。豆は私たちが準備いたしますので、魔獣の方へはキリエが案内します」

「アキラ、魔獣とはどういうことだ?」

「彼らは肉を食べないそうなので、僕たちにと」

「お肉! やったー」

「では、ご案内いたします」

 僕たちは再びキリエさんの案内で歩き出す、今度はお肉を求めて。

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