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29.軟禁

「この家に滞在しろと言ったのか? しかし何もないぞ、この家」

「そうです、ここにしばらく滞在しろと」

「家具も何もないよ、お兄ちゃん」

「本当に野宿じゃないだけマシって感じですね」

 ログハウスといった感じの家には、本当に何もない。テーブルくらい置いてあってもいいと思うのだけどね。


「そろそろ夕暮れ時だろう、飯はいつものだな…。眠るのは寝袋で良いとして、警戒は精霊に任せてしまって良いのだな?」

「ええ、そのつもりです。僕が眠っても大丈夫なのか?」

『妾ら精霊を繋ぎとめておるのは、主様の意思じゃ。主様が許可せん限り妾らはどこにも行かぬよ、妾はいつでも傍に居りたいでな』

『お前だけ良い顔するんじゃねーよ』 『シュケーもいる~』

「大丈夫そうです、今日はゆっくり眠れますね」

「それだけが救いかもな」

「やった! お兄ちゃんと一緒に寝る~」

 霞、寝相が悪いから近くで寝ないでほしいな、寝袋だからと安心できないんだよ。


 色々諦めるような会議をしていたら、扉がノックされた。

『シュケーが見てくる』 「あ、うん、お願い」

 シュケーは根っこが変形して4本足になっているテーブルの脚みたいに。

 振り返り扉の方を見ると、先程の女性だろうか? 何かを持っているようだ。

「あ、えっと、精霊様」

 シュケーの姿に驚き、呆気に取られている様子だ。

『あるじ~、人きたー』

 シュケーに行かせたのは失敗だった。

「あの何か御用でしょうか?」

「あ、あ、はい、食事をお持ちしました」

 ヒャッホーご飯がきたー! 女性とその後ろにもう2名の女性らしき人物がお盆に載せた食事を持っている。受け取るのも何なので、そのまま中に入ってもらおう。


 床の上にお盆ごと食事を置くと、後ろに居た2名は家を出て行ったのだが先頭の女性は残るようだった。

「どうぞ、お召し上がりください」

『待つのじゃ、毒を盛られておらぬか確認せねばならぬ』

「毒など滅相もございません」

『俺はこういうのは不得意だ、水のさっさと確認しろ』

『シュケーにおまかせー、う~~~~~ん大丈夫!あるじ食べられるよ』

 ひょっとしてシュケーの得意分野なのかな? シュケーは枝を食事の載った盆に近付けて何かを探っていたようだ。

『妾も一応確認したが何もなかったの』

 女性は胸をなでおろしているような仕草をする。

「確認ありがとう。それじゃ冷める前にいただきましょう」

「久しぶりにまともな飯だな、肉が無い以外は」

「お肉が見当たらないね、でも美味しいよ」

「あ~なんか懐かしい味だな、日本を思い出すよ」

 豆とキノコの料理ばかりなのだが、味付けがなんとも言えないのだ。


「ダイモンお兄ちゃん、干し肉切り分けて」

「ん、今か?」

「これ絶対合うよ、干し肉が」

 ニールの街で買った干し肉はビーフジャーキーみたいな薄く伸された肉ではなく、ブロック肉を長時間かけて燻製したものだ。まるで角材のようなこれは硬すぎてダイモンさんでないと切り分けられない。

 ダイモンさんは霞の催促に仕方なくリュックから干し肉を取り出し切り分け始めた。切った端から豆のスープに入れる霞、僕も真似をする。

「ほら、凄く美味しい!」

「本当だ」

「お前たち自分の分だけか! ん? これは絶品だな」

『なんじゃ楽しそうじゃのう、主様』


 暢気にわいわいと食事を愉しんでいる僕たち、それを眺めていた女性が頭巾を外しながら口を開く。

「あ、あの私はキリエといいます。この度、お客様のお世話を務めることに決まりましたのでご報告します」

 突然だったので、ちょっとびっくりした。キリエと名乗る女性の耳は尖っていて少し長い、やっぱりエルフってやつなのかも。

「お客様扱いなんですか? てっきり捕虜かと思っていましたが」

「いえ、とんでもございません。今日はもう日が暮れてしまいますので、明日長老の方からお話をさせていただこうかと」

 キリエさんはそうでもなかったけど、僕たちと最初に邂逅した男性や監視の人達は敵意が丸出しだったはずだ。

 僕はじっとキリエさんの目を見つめた、しかし疑問は解けない。

「明日ですね、わかりました」

「はい、それでは失礼いたします」

 キリエさんは家から静かに去って行った。


「不思議ですね、最初と扱いが全く違っているように思えるのですが?」

「なんだろうな…」

「お兄ちゃんがシュケーちゃん呼んだの見たからじゃないの?」

「それだ! アキラがその精霊を呼び出すのを見た監視が何か言ったのだろう」

「そんな単純なことだとは思えませんが」

『いや、単純な話かもしれんぞ主』

『奴らは妾らを神か何かと勘違いしておるからの』

『シュケーがどうしたのー』

「明日の話し合いでは、少し強気でも良いかもしれんな」

「実際ジルヴェストをけしかければ一発でしょうけどね」

「駄目だよお兄ちゃん、怪我人が出ちゃうよ」

『この辺り一帯、消し飛ばしてやるぞ!』

「冗談だからね。でも、強気に出るのは良いかもしれませんね」

「いつまでもこんな所に居られないからな、ニールの連中も、本部も心配するだろう」

「それじゃあ、ゆっくりお休みして明日に備えよう!」

 霞が良いところで締め括った、警戒を精霊たちに任せて3人はたっぷりと睡眠をとることにした。

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