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28.旅路-5

「お、お前達は何者だ!」

 驚いて腰砕けになっている男が再び尋ねてくる。

 男は深緑色の頭巾を被っていて表情は分からない、何者だと問われても人間と獣人と精霊と馬だ。


「おい、アキラ、あいつ何て言ってるんだ?」

「え? ああ、そっか。僕たちが何者か? と尋ねています」

 言語理解スキルがこんなところでも自動的に仕事をしてくれていたのだった。

「お兄ちゃん、どうするの?」

「どうするもこうするも、とりあえず答えを返さないとマズいだろう」


「僕たちはこの森を通り抜けたいのですが、結界が邪魔をして通れないのでこちらにやってきました。

 見れば分かると思いますが、獣人族と人間と精霊、そして馬です」

 少し声を張り上げて、男に聞こえるような声で答える。

「ここ数十年誰も通ることの無かったこの森を通り抜けるだと?」

 そんなに誰も通らない森なの、ここ?


「ダイモンお兄ちゃん、この森はもう数十年誰も通っていないんだって」

 霞が通訳を買ってくれていた。

「まず人は通らないだろうな、オレも幼い頃の話だし」

「でも、ルートとしては認知されているのですよね?」

 どうやら色々と認識に齟齬があるようだ。


「ジルヴェスト、オンディーヌ、どちらでもいいから話を通せるか? どうやら僕たちは敵視されているようだ」

 周囲に武装した人影が集まってきていた、精霊の言葉が通じるのか多少疑問だが任せてみよう。

『妾が話してみようかの』

『それならば俺が周囲を牽制しよう』

 僕に寄り添っていたオンディーヌは、腰を抜かしたままの男へ近寄って行くと何やら話を始めた。

 言葉は通じているようだ、ただ遠いので何を話しているのかさっぱり聞き取れない。

「オンディーヌちゃん上手くやってくれるかな?」

「すまんな、役に立てなくて」

「そんなことないですよ、まあ適材適所です」

 オンディーヌの話が上手く纏まるのか恐々といったところだ。戦いになってもジルヴェストが居るので負ける気はしないが、無為に傷付けたくもない。

 遠巻きに周囲を囲んでいる人影は矢を番えていたりするが、ジルヴェストが警戒し時折風を起こしているので大丈夫だろう。



 十数分といったところだろうか、話し終えたオンディーヌが戻って来た。

『話はついた、結界の除去を検討するとのことだ』

「検討するって、確定じゃないのか?」

『集落の方に迎え入れてくれるそうじゃ』

「迎え入れてくれるって、明らかに敵視されているぞ?」

 番えた矢はそのままだし、剣の刃をチラつかせている。

『どこに居ても結界に囚われている以上同じことだろう』

 ジルヴェストが話に加わった。

「霞、ダイモンさんに通訳お願いね。僕はお前たちを長時間呼び出したままに出来るか不安なんだけど」

『主様は妾ら精霊との親和性があるので問題ない、魔力消費も微々たるものじゃ』

『そうだな、主の魔力総量も魔族と変わらんしな』

「おいジルヴェスト、今なんて言った?」

『主の魔力総量は純潔の魔族と相違ないと言ったのだ』

「どうして僕がそんなことに…」

『以前話したいたでありませぬか、魔力のなんとかというスキルがあるのだと』

 なんだっけ? 魔力の天稟?

「じゃあ、このままお前たちを呼び出したままでも大丈夫なんだね」

『そういうことじゃ、もっと普段から妾らを傍に仕えさせれば良いのじゃ』

 そういうことも出来たのね、知らなかったんだよ。


「それでどうします、ダイモンさん」

「致し方あるまい、向こうの出方を窺うしかあるまいよ。ただし警戒は解くなよ」

「お兄ちゃん! 付いて来いって」

「ジルヴェストとオンディーヌに常時警戒させます。頼むよ」

『任せておけ』 『任されたのじゃ』

「行きましょうか」

 先程まで腰を抜かしていた男ではなく、同じような頭巾を被った女性らしき人物に先導されて集落へ入っていく、周囲を数人に囲まれたままだ。

 途中にオンディーヌすら弾かれた強力な結界があったはずなのだが、何の障害もなくすんなりと通ることが出来た。



「しばらくの間、こちらの空き家に滞在してください。家の周囲には監視が付くことをご了承願います」

 遭難した挙句、拉致監禁ときたもんだ。

「しばらくですね、わかりました。監視といいましたか? もしこちらに危害を加えることがあるならば、彼らが反撃すると思いますので覚悟していてくださいね」

 有無を言わさず閉じ込めようとするのだ、こちらも少し意地悪をしてやろう。ジルヴェストが反撃したら広大な更地が出来そうだけどね。

 案内してくれた女性と監視の人物たちは、目を丸くして驚いている。

「それでは失礼します」

 女性と監視は去って行った。


「野宿からは解放されたが監視付きとはな」

「食事でも出てくれば言うこと無しですね」

「あのパンをここでも食べるの…」

 霞が凹んでいる、否、全員が凹んでいる。

「霞、ちょっと待っていなさい。もう一体呼んでくる」

 魔力消費が微々たるものなら、2体居ようが3体居ようが一緒だろう。

 扉を開け外に出た、地面が無いと呼べないからね。いや、わからないけど家壊したら大変だし。

 外に出ると監視に2人立っていた、何をするでも言うでもなく僕を見ている。付いて来ているオンディーヌを見ているのかもしれない。


「シュケーおいで」 『はーい』

 新芽からの急速成長でシュケーが顕現した。

「オンディーヌ、この子はシュケーだ。シュケー、彼女はオンディーヌという。仲良くしてくれ」

『ほう、木の精霊とはまた面白い趣向じゃの』 『綺麗なお姉ちゃんだー』

「じゃあ、中に入ろうか。シュケーは付いて来れるかい?」

 根っこがあるのを忘れていた。

『水は妾が与えてやろうぞ』 『やったー』

 平気そうなので、新たにシュケーを連れて家の中に入る。

「霞、この子が無花果をくれたシュケーだよ。食べ過ぎないでね」

「初めましてシュケーちゃん、私はお兄ちゃんの妹だよ」

『いもうと? これあげるね』

「スノーマンもそうだったが、妹を理解できないのだな?」

『此奴らはまだ幼いからの』

 そういえば、スノーマンも幼い感じがするな。

「ということは、オンディーヌは?」

『妾は…秘密じゃ』

 いい歳なのかもね。

 霞とダイモンさんは早くも無花果を貪っている、僕も食べよう。

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